心臓と脳・性別と生殖


< 心臓と脳 >

 はい、次は心臓と脳について。まず心臓ですが、『3つある』という研究者がいます。これはもう少し詳しく言うと、メインの心臓は1つですが、心臓のような働きをしている器官があと2つあるということです。これらは鰓(エラ)心臓と呼ばれメインの心臓と鰓を結ぶ血管のふくらみがそれです。黒っぽい紫色で、解体するとすぐに目に付きます。小さな枝豆くらいの大きさです。これがあるため効率よく鰓に血液を送ることができるようです。見方を変えれば、身体の構造上、そう足(腕)が8本もありますから効率のいい血液循環システムが必要で、その答えが鰓心臓ということになるのでしょうね。

タコを含め多くの海の生物は、血液中にヘモグロビンではなくヘモシアニンという酸素運搬物質を持っています。ヘモグロビンは人間を含む脊椎動物に多く見られ、鉄と結合した色素です。酸素と結びつくことで赤色になります。一方、ヘモシアニンは銅と結合した色素で、体内では透明ですが、外に出ると緑色になります。タコ、イカのような軟体動物とエビ、カニなどの節足動物に多いようです。ヘモシアニンはヘモグロビンより酸素運搬能力が低いのですが、それが鰓心臓を持つ理由になったかどうかは残念ながら不明です。ただこのヘモシアニン、酸素濃度の低い海域でも確実に酸素をゲットすることには長けているそうです。つまり酸素と結合する性能がいいのでしょう。ということはヘモグロビンは『酸素をたくさん結合させることができるけど、掴み損ねることが多い』ということなのかな? なんでも太古の昔、海水中の酸素濃度が低い頃に軟体動物が生まれたのが理由だという説が有力だそうです。それとは反対にヘモグロビンは大量に酸素がある環境でその運搬能力を活かす特徴があるそうです。ちょっと脱線しますが、節足動物同士のエビやカニなんですが生物分類上では蜘蛛と結構近い仲間だそうです。

 では次、脳について。タコの解体中、目の上辺りに包丁を入れ胴体と切り離すと、2cmくらいの半月状のグミのようなものが一対2個あります。色と感じは... ん~っと... 少しだけ黄色がかった白いウイロウのような感じです。確信までは持っていないのですが神経節らしきものが目の後ろに繋がっているので、おそらくこれが脳だと思います。ある程度しっかりした固さ、そうまさにグミくらいの感じで、明らかに筋肉でも内臓でもない器官です。身体の大きさを加味しても大きいと感じますね。やはり知能が優れているのかなと思ってしまいます。ちょっと眉唾ですが、人間の3歳児と同じ知能レベルだと言う研究者もいます。う~ん... ちょっと信じがたい...。基本的に目が大きい生物は知能が高い傾向があり、イカやタコのような生物が人類滅亡後、地球上の生物の頂点に君臨するという予測もありますが、3歳児と同じというのは... どうも...。

 そのような優れた脳があるのに、タコには更に8つの脳があるとも言われています。8つ。そう足(腕)の数と一致しますね。その通りです。それぞれの足(腕)の付け根辺りに神経の塊があり、メインの脳はその塊に大局的な指令をだして、塊はそれぞれの足(腕)を制御するそうです。単純且つ効率に優れたシステムですね。人間が同じような機能を持ったら、すんごい動きが出来そうです。スポーツ、武術、ダンスなんかきっとヤバイですね。そうそう補足しておきます。最新の研究では6本が腕で、2本が足なんだとか。足は移動用、腕はアレコレ多用途に使うものということで、タコの足(腕)はそういう分け方だそうです。


< 性別と生殖 >

 次は性別と生殖。よく言われていることを信じるとタコはメスの方が柔らかくて美味しいとか。メスの方が柔らかいということは確かなようですが、『柔らかくて美味しい』は、私は『そーなのかなーっ?』って気がします。だって

『筋肉質で身が締まっているから美味しい』

って言う人多いでしょ。明石の漁業関係者も

『潮が激しく岩場で踏ん張るから身が締まってる』

って...。『柔らかい』って真逆の評価ですよ。それどころかメスの場合、そうでない固体もいますが卵が大きくなるにつれ栄養がそっちに持ってかれちゃって身が痩せ気味になることもあります。もちろん時期にもよることですが、私はオスの方がいいと思っています。白子もあるし。あっ白子に関してはまた後で書きます。

 さて、タコのオスとメスの見分け方を説明します。最も確実な見分け方はタコの右側(向かって左側)、前から3番目の足(腕)を調べることです。その固体がオスだった場合、足(腕)の側面には名古屋名物の『きしめん』をもっと細くしたような扁平の筋がほぼ先っぽまであります。これは交接腕、つまり生殖用の器官(チ〇○ン)がくっついた腕です。これが見つかればオス確定です。また、漁師さんが簡単に一目で判断する際は『吸盤の並び』を見ます。メスの吸盤は2列キレイに並んでいるのに対し、オスは雑然としています。不細工です。確かにだいたいはそれで判断できます。が、中には吸盤が比較的キレイに並んでいるオスもいたりするので確実なのは交接腕の有無を見ることです。ついでに吸盤の数は大きいタコなら腕一本につき約200個あると聞いたことがあります。つまり全部で1600個。思ったよりかなり多いですね。
(因みにかなり余談ですが、『きしめん』は織田信長が築城の際に採用したと聞いたことがあります。大量の工事関係の人足に大量の賄いを出すとき、薄いきしめんは早く茹で上がることから都合が良かったとか...。まっ、本当かどうかは保証できません。)


 ところで、どうしてオスの吸盤はキレイに並んでいないのか? それにはちゃんと理由があります。と言うかこれも私見ですのであしからず。
それは吸盤がオスの優劣を決める役割も持っているのがそもそもの原因。タコのオスがメスに求愛する場合、オスは自分が持つ一番大きな吸盤をメスに

「ほれほれぇ~っ!!!!」

っと見せつけるのです。メスは大きな吸盤のオスを見ると『その気』になるようです。メスは強く大きいタコを吸盤の大きさで判断しているわけですね。なので当然大きな吸盤を持つタコが子孫を残す。その繰り返しで吸盤が大きくなれば腕の面積には限りがありますから、吸盤はキレイに並んでいられなくなるわけです。タコの世界では美しいだけの男は子孫を残せないのですね。因みに私がタコを仕込んでいる時に見た限りでは、その一番大きな吸盤は右側の2番目の腕にあることが多いようです。しかし必ずしもそうである訳ではなく、最も大きな吸盤の位置は3番目の交接腕であったり、左側の2番目や3番目であったりとまちまちです。

 ではその生殖行動についてですが、オスのタコが大きな吸盤を見せつけ、メスがそれを見て「いいわよ♡」っとOKしたら即その行動が始まります。人間の男ならアレやコレや時間、場合によっては大金を使い、更にタイミングを見計らうなど大変なプロセスが必要になるわけですからちょっと羨ましいですね。まあ自然界の生物は基本的にそのプロセスに時間をかけ過ぎると天敵に食われてしまいますから仕方がないですね。さて、まず初めの段階はそのままの通り『交わる』そうです。が... ここでちょっとわからない... はっきりしないことがあります。いろいろ調べてみたのですが、

① オスとメスが絡み合う
または
② オスはメスに食われないように距離をとる

と、2つの説があります。どちらにしてもオスが交接椀をメスの胴体にさし入れて精莢(せいきょう)と呼ばれる精子の入ったカプセル状のものを送り込むのは同じなのですが(と、いうことは足(腕)の右第三番目の交接椀の縁にある『細いキシメン』状の帯は精莢が通る管ということでしょうね)、ところでこの交尾。①と②の、いったいどちらが正しいのかということですが、私は①だと思っています。②の場合もあると思いますが『食われないように』というところ、それは、タコの壮絶な運命を考えればあまり意味がないからです。オスとメス、それぞれの運命の顛末です。

 ではオスから。タコのオスは他の生き物同様、まずライバルのオスとのメス争奪戦がありますがタコの場合は平和的ではありません。運よく他のオスがいなければラッキーですが、そうでなかった場合まさに生死を賭けた戦いが始まります。それは場合によっては威嚇や中途半端なもので終らないそうで死ぬこともあるとか...。先程も書きましたが、そこまでして勝ち残ったオスが

「ほれほれぇ~っ!!!!」

っと一番大きな吸盤をメスに見せつけるわけです。そして絡み合い、精莢を受け渡すのですが... どうもそれがものすっごく大変なことらしく、その行為が終れば本当に精根尽き果てて死んでしまうオスがいるそうです。学者さんによっては『ほぼ死ぬ』と考えている方もいるようです。エネルギーを枯渇させる程なんですね。そのちょっと前まで、「ほれほれぇ~っ!!!!」っとギンギンギラギラの状態だったのに...。だとすると、生きているタコのオスは基本的に『未経験』ということです。生涯一度っきりのメスとの○○を体験するために他のオスと生死を賭けた戦いをするのですね。でも結局死んじゃうんですね...。いかに子孫を残すといっても神様はタコに厳しすぎるプログラミングを施したのですね。タコを仕入れ解体したとき、

「おっ!!!!大きな白子があったっ!!!!」

なんて思っていますが、

「こいつ... これを使うことなく女(メス)を知らないまま捕まっちゃったのか...。」

と思えば同じオス(男)として少し不憫に思います。まあそれはさておき、そういう理由から

『②オスはメスに食われないように距離をとる』

というのは意味がないと私は思うのです。ただ、足(腕)がそれなりに長いので自然と距離を取っている可能性も否定できないのではないかと思います。

 では次にメスの運命。これもオス同様、いやそれ以上かもしれません。生殖行動を終えたメスはやがて卵を産みます。房状の卵の塊がビッシリと岩の天井からぶら下がるように産み付けられます。で、その形状が藤の花と似ているという理由で『海藤花(かいとうげ)』と呼ばれています。

 そしてその後、メスはそこから移動することなく、孵化するまで卵を守り続けます。魚に食べられないようにそこから離れないんですね。また新鮮な海水を優しく送ったり、汚れを落としたり、至れり尽くせりです。でっ、何が凄いのかと言うと卵が孵化するまでの期間が約1ヶ月。その間何も食べたりしません。その結果、当然痩せ細り体力も限界になります。しかしなんとか持ち応え、孵化が始まると優しく海水を吹きかけて卵の殻破りを助けます。そしてそれが終ると力尽きてそのまま死んじゃうそうです。これはマダコの場合ですが、ミズダコなら6ヶ月も続くとか。そう、メスも結局死んじゃうんですね...。つまり童貞と処女が一度きりの行為で子孫を残しているわけです。


前項  目次  次項



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?