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難民学(研究)を教える

大学教育について

昨日、関西学院大学上ヶ原キャンパスに行った。学生時代にお世話になったT氏に会いに行くために。私が、後に国連難民高等弁務官事務所で働く基礎になったのは、T氏他が力を入れておられたインドネシアセミナーなど、大学の国際的なプログラムだった。T氏は3月末で定年退職される予定で、多くの「元学生」が参加して、お祝いの会をするはずだったのだが、例にもれず、延期をよぎなくされてしまった。それなので、ご勤務中のお昼ご飯を一緒にさせていただこうと、押しかけた訳である。

ランチの後、今度は、偶然、学長とばったり。そのT氏と学長が、期せずして教育について同じようなことを言われ、そして、その言葉は、私の仕事にも大切なことなので、難民学・難民研究ということと、お二人の教育についての思いを書いておこう。

お二人の共通した教育のビジョンを、私なりにまとめると、「教育の場では学問を教えるだけでなく、人との繋がりを育てる、情熱を伝える、ということが大切」、そして「それは大学のモットーであるMastery for Service(学問を修めることは自分の成長のためだけではなく、他者に奉仕するため)ということでもある。」

難民問題に関する研究

難民研究ーRefugee Studiesーという分野は、1980年代以降欧米でさかんになった。日本では、私の調べたところ、小泉康一先生が『「難民」とは何か』(1998)で、初めて紹介されたと理解している。それは、日本で、小泉先生以前に難民問題について、研究された人がいなかった、ということではない。ただ、研究者が一定の領域に限定的だったと言える。

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「難民」について、まず最初に問題となるのは「難民とは誰なのか」「この人は難民なのか」という問である。それは、3月12日のノートに書いた国際法上の定義を解釈し、一人ひとりの庇護申請者を審査する作業につながる。また、ある解釈からなされた決定に異を唱える、ということもできる。そのようなことから、難民については、国際法の専門家が研究するということが、常套であった。

また、人が難民として逃れていく原因は、多くの場合、出身国での人権侵害が関わっている。加えて、難民の権利という観点からも、基本的人権に関するイシューは、難民の国際保護の概念と切り離すことはできない。そこでもやはり、国際法、国際人権法の専門家が重要な役割を果たしている。

さらに、難民が創出される原因や、難民を受け入れるのか受け入れないのか、ということについては、国内要因のほかgeopoliticsー地政学ーからの分析があり、国際政治学者がこの問題を扱うことが多い。

これらの学問領域は、難民問題を扱う「伝統的な」領域と言えるだろう。これに対して、難民についてのイシューを研究するには学際的なアプローチが必要、という認識に立って発展したのが「難民研究」と言える。

実際、難民に関するイシューは多岐にわたっている。難民が新しい居住地でどのように適応できるのか(心理学・ソーシャルワーク)、難民キャンプでジェンダー平等の推進(ジェンダー論)、難民の慣習・ホスト地域との関係(人類学)、難民の経済的自立と受入地域の開発(開発経済学)、難民キャンプの設営に伴う森林伐採(環境学)等々、政治学や法律学以外の学問も、難民の国際保護を実現するために重要な事柄を扱っている。

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新米教員

つまり、難民に関する研究ということは、難民状況に置かれた「人」に関する研究なので、人に関する全ての領域に関わってくるのは当たり前。また、その研究は、難民に関する様々な問題ー難民問題の解決、難民が抱えている問題への対応、難民支援に関わっている人が直面する課題ーへのアプローチの研究であるから、難民の国際保護に直接的に、または、間接的に貢献している。

そうすると、難民学を教える、ということは、難民の定義や難民支援の仕組みを説明するということでは、不十分。難民は研究対象として存在しているのではなく、共にこの時代に生きている人々。その人たちが私たちと同じように夢を持ち、その実現のために生きていくことが普通になる社会を作っていくー大学は、そのエネルギーを学生が育てる場。昨日、お二人の教育者の熱意をうかがい、私もインスパイアされた。

2019年の秋学期を振り返ると、学生さんたちは、とっくにそんな情熱を持っているように感じた。むしろ、その情熱を萎縮させないで、さらに大きくするための開拓が、この春から再び始まる私の挑戦。難民支援の仕事は25年間やってきたが、教えることは新米。教え教えられる関係を続けるしかない。

昨日の私

大学に行くので地味めのコーディネート。インドネシアセミナーがらみということもあり、帯はインドネシアのバティック(ろうけつ染め)柄を織り込んだもの。五頭身にショック。

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