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「無能の鷹」が描く、言葉なき力と文脈の魔法

金曜ドラマ「無能の鷹」が面白くてハマってしまいました。

舞台は丸の内のオフィスビルに入っているITコンサル企業の営業部。一見、バリバリ仕事ができそうなオーラを纏っているのに、実は仕事が全然できなくて「社内ニート」をしている鷹野さんと、「弱い鳥」と書いて字の如く、気が弱くて仕事で実力を発揮できない鶸田(ひわだ)くんが、鷹野さんのギャップを活かして予想外の活躍をしていくというお仕事コメディです。

上のメインビジュアルの菜々緒さんが扮する鷹野さんを見てもわかるように、もう仕事ができるオーラがプンプンなんです。でも、実際はコピーもまともに取れなかったり、Excelなんてほとんど使えないし、あまつさえ自分の会社の主戦場である「IT」を「イット」と読んでしまうなどのポンコツぶりを発揮しています。

ひょんなことから鷹野さんと鶸田くんの二人で営業の提案を行うことになりますが、鷹野さんは「難しいことを考えてしまうと頭が痛くなってしまう」ため、仕事のことは全く理解できません。

そのため、難しいことに対して「適当」な言葉を返すのですが、それがなぜか相手に刺さり、その結果契約を獲得できてしまいます。

鷹野さんの自信満々の所作や雰囲気が、相手に「この人はできる」と錯覚させてしまうのです。この「オーラ」や「態度」が、相手に意味を勝手に補完させ、話をポジティブに受け取らせます。

鷹野さんのオーラが作り出す、言葉以上のコンテクスト

第2話に出てくる、やたら横文字を使いたがるWeb制作会社の代表とのやりとりがとてもいい例です。

英語はできないけれど、やたら発音だけが良くて「優秀な帰国子女系コンサル」を思わせる鷹野さん。語彙が少ないため、「This is a pen」とか「apple」といった知っている言葉を言っているだけです。また、ビジネス系の横文字を知らなくて反応できないのに、それが相手には何か深い意味があるように捉えられてしまうのです。

結果、思わぬ方向に話が進んでしまうシーンは、テンポも良く、笑わずにはいられません。

劇中で織りなす会話は、傍からその言葉だけを聞いていても全く意味がわからないものです。だけど、鷹野さんの所作や表情などが作り出す「仕事ができる人のオーラ」によって、絶妙なコンテクストが生まれ、相手が変なことも勝手にポジティブに捉えてしまうんですよね。

このやりとりを見て、これこそが会話の妙だなぁと思ったのです。

鷹野さんの「適当」な返答や仕草には具体的な意図や理解はないのですが、なぜかその言葉が響いてしまいます。

このように、会話の内容そのものよりも、どんな文脈や雰囲気の中で言葉が発せられるかが相手の理解に大きな影響を与えるのです。だからこそ、言葉が不完全でも「オーラ」や「態度」といった言葉以外の要素が会話を成立させる。これこそがコミュニケーションの奥深さだと感じました。

まさに、会話とは言葉そのものではなく、発話の状況やコンテキストによって意味が変わるという典型的な例だと思います。

会話は本来、第三者には理解しにくいもの

「無能の鷹」で描かれている鷹野さんとクライアントとのやりとりは、まさに「言葉の外側にあるもの」が大きく影響を与えるコミュニケーションの典型です。

私たちが日常的にしている会話も、実はその場にいる当事者にしか完全に理解できないものが多いのです。

たとえば、家族や親しい友人同士の会話を聞いても、そこには共通の背景や前提があって、他人には理解しがたいことが多いですよね。

「無能の鷹」での鷹野さんの会話も、周囲から見れば何を言っているのか全く理解できません。しかし、クライアントや同僚には彼女の自信や態度が「プロフェッショナル」な印象を与え、その場の文脈や雰囲気で会話が成立してしまいます。

会話の内容よりも、その場の雰囲気や相手との関係性、身体言語といった「言葉以外の要素」が重要になっているからこそ、第三者にはわからないことが多いのです。

それと同時に、それぞれの会話における前提条件は違うものです。

会話による理解のすれ違いが起こってしまうのもこのせいです。その前提条件を埋めるためにアクションを起こしたり、会話を続けていく必要があるのです。

また、短文でやりとりされるSNSなんかは、よくすれ違いが起こる場所の一つ。

SNSは、その投稿にアクセスできるすべての人を相手にコミュニケーションをする媒体なので、前提条件が全く違う人々を相手にする必要があり、思わぬような理解をされてしまうことが多いです。投稿の内容には本来かなり気を遣いますよね。

こういったズレは、ネガティブなことにつながりやすいテーマですが、このドラマは、そんな会話の不思議さをコミカルに描き出している点がとても好きです。

原作もつい購入してしまうほど好きになってしまいました。原作の方がテンポはいいですが、ドラマもよくまとまっており、菜々緒さんの演技がとても良い上に、脇を固める塩野瑛久さんはじめ、井浦新さん、工藤阿須賀さんと言った俳優陣もとても素敵です。

ぜひ「無能の鷹」を見て笑ってほっこりして、週末を迎えてみませんか?

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