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親愛なるジュンコへ 1/8話

「アヤP、おはよー」
「アヤP、おやすみー」
最近、純子からの連絡が頻繁に来るようになった。今は体調がいいのかな……




3年前の2020年の春
コロナ禍で学校が一斉休校になり、私は小学生の娘と近所を散歩していた。

歩いていると前から、車椅子に乗った中年女性とそれを押す老女がやってきた。女性の口は半開きで目は虚ろだった。

私は、車椅子に乗る中年女性と、ゆっくりゆっくりそれを押す老女を見て「親子かな?本来なら逆だよな」と思ったが、その2人とすれ違った瞬間、何かを感じた。

「ジュンコ……」

私はその場で立ち尽くした。隣で歩く娘が「お母さん、どうしたの?」と聞いてきた。
私は心臓が高鳴るのを落ち着かせながら、振り向いて遠くに行く2人を見つめた。

「車椅子に乗っていたのは……お母さんの小学生時代からの友達。心の病気なんだ」

「へー、お母さんには色んな友達がいるんだね」

私はしばらく純子と純子の母親を見つめながら思った。

そもそも純子をあんな姿にしたのは、あの母親が原因ではないのか?

そんな怒りが湧いてきたが、自分だって散々純子から逃げたくせに何を言ってるんだか、と思った。




これから語る話は、友達の純子の壮絶な人生に関わってしまった私のストーリーです。
純子について酷い表現も出てきますが、あくまでも私のストーリーだと思って読んでください。
これを読めば、私がどこまでも卑怯で不謹慎で偽善的な人間だということがわかって頂けます。
力を込めて書きます。
純子、あなたのことを書きます。どうかそんな私を許してください。



1 純子との出会い


純子と初めて会ったのは、ピカピカに輝くランドセルが眩しかった小学1年生の時だった。
同じクラスになった保育園時代の友人メグから、「アヤちゃん、この子ジュンコ。私と同じアパートに住んでるの、今日から仲良くしてあげて」と言われた。純子から「アヤちゃんよろしくね」と言われて私達は友達になった。私は毎日のように純子と遊んだ。純子は明るく元気で、大きなリアクションをしながら笑う女の子だった。

3年生になり、別のクラスになった純子とはそれまでのように遊ぶことは無くなったが、5年生の時に入った少年野球チームで純子とまた仲良くなった。チームにはメグもミカもいて、女子特有のダラダラした感じで監督やコーチを鼻で笑い、男子チームのメンバーもからかいながら、野球の練習というよりもおしゃべりに行っていたようなものだった。

そのまま純子も皆と一緒に同じ中学に行くと思っていたが、純子は隣町の中学校に行く事になった。

親の離婚が原因だった

中学2年の時にメグとミカと同じクラスになり、私達は久しぶりに純子に会う計画を立てた。メグと純子は幼馴染だし、ミカと純子は3年生から親友同士。私はどちらかというとそこまで純子とつながりはなかったが、野球時代の頃のように皆でワイワイするのを楽しみにしていた。

しかし、その計画はミカの言葉で中止になった。

「ジュンコ、今ちょっと荒れてるみたい。髪も染めて夜も出かけて、なんかヤバイ先輩とも付き合ってるみたいで…下手に会うと私たちが目を付けられるかもしれない。やめておこう」

私はその頃、地元のヤンキーが本当に怖かったので、ミカの助言通り純子に会うのはやめておいた。

それから少し経った頃、塾の帰り道で偶然純子に会った。時間は夜の10時過ぎ、私は自転車で1人、純子は中学の制服を着たまま、あまり柄の良くなさそうな人達と複数でたむろしていた。
「アヤちゃん久しぶり!」
走って駆け寄ってきた純子は、まっすぐに伸びた長髪にスレンダーな手足、小学生の時より大人びて美人になっていた。
喋ってみると、相変わらず大きなリアクションで大笑いする昔の純子のままだった。見た目は確かに少しヤンキーっぽくなっていたけど、性格は変わらないままだと思った。

その頃の思い出で印象に残っている出来事がある。
修学旅行先で偶然純子に会った際に、周りの男子達が一瞬にしてザワついたのだ。
「あのかわいい子は誰?」
「広田純子ってナニモノ?」
「いいから早く紹介しろよ」
それから純子の噂は私の中学校で瞬く間に広まった。

中学を卒業し、私は都内の私立高校に通うようになった。地元のメグとミカとはちょくちょく会っていたが、ミカがアメリカに長期留学する事になり、私たちは会わなくなってしまった。
そんな頃、近所のスーパーで偶然純子に会った。
「アヤP~!久しぶりー!」
中学時代より少し落ち着いた純子がいた。
話を聞くと、母親の元を離れて父親と弟と3人で暮らす事になり、また地元に戻ってきたとの事だった。

その偶然の再会から、純子は私の家にちょくちょく寄るようになった。
部屋でお菓子を食べながら話をしたり、一緒にランニングをしたり、私が帰宅する前に既に私の部屋に居た時もあった。
純子の彼氏の話を聞いたり、私が当時好きだった塾の先生の話をしたり、いつもいつも純子は大きなリアクションで笑い、そんなちょっとした時間が本当に楽しかった。

ある日のこと。私は純子から、なぜ母親の元を離れたのかを聞いた。すると、

「お母さんが家に男連れ込んでやってたんだよ。最初に見た時はショックで死にたくなった。お母さんのあんな姿見たくなかったからさ、だから私はお母さんを捨てたの。」

衝撃的な言葉だった。



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