回収

夜逃げをしてしまった
たった一晩で決断してしまった

夫は最高潮に怒り狂っている
帰りたくない


「いや、これ離婚でしょ」


私より先にその結論に至り
言葉にしたのは母だった

早朝から事情を聞き
証拠品の手紙を床に置いた


離婚
それは何度か脳裏を過ったことがある
その度、娘の為と飲み込んできた

私が我慢すれば、
私が努力すれば、
私が完璧であれば、
家族は上手くいくと心に怒鳴られたからだ


「今日連れ返しに来るって?家にはあげないぞ。追い返してやる。」

父は夫に言いたい事が山程ある様子

「それなんだけど、」

私は提案をして
夫が来る事を待つことにした


夕方娘を連れて高速近くのアウトレットモールで時間を潰す

おもちゃ屋さんで喜ぶ娘を眺めながら考える


子供を連れて帰るというのに
夫からは一向に出発連絡が来ない
何時に来るのか?
LINEは未読のままだった

本当にこの人は私達を迎えに来るつもりはあるのだろうか


私はこれから自宅へ向かう

別居の意思が固まったので
残してきた荷物を回収しに行くのだ

18時
夫の自宅を出たLINEが
行動開始の合図

心臓をバクバクさせながら高速を走った


「実家近くの駅に着いたらLINEして。父が迎えに行くから。」

夫にはそう伝えたが
実際は父と弟が迎え
私の別居の意思を伝えてもらう事になっている


高速を降りて
自宅まであと少し

怖い
もし自宅にまだ夫が居たらどうしよう

スマホには夫の到着連絡はまだなかった


警察…
事情を話せば
もしかしたら一緒に自宅に行ってくれるかも

来た道を引き返し
町で1番大きな警察署に

入口にいた警察官さんに
夫から逃げてきたと告げると
2階の会議室へ案内された



なぜ逃げてきたのか
いつ頃からモラハラがあったのか

色々聞かれたが特に強く聞かれたのは
身体的暴力はなかったか

女性警察官さんに
親子に怪我が無いかボディチェックもされた


「出来たら自宅に入るのが怖いので付き添って欲しい」

そう願ったが
暴力などの事件では無い為
動けないと断られてしまった

モラハラという
見えない暴力との戦いが
始まった瞬間だ


警察への相談歴だけ残してもらい
警察署のロビーで夫からの到着連絡を待った


20時
やっと届いた到着の知らせは
夫と弟から同時にあった

確実に夫は父と弟に接触した事を確認した私は
自宅のドアを開け
買ってきた大量の段ボールを組み立てる

宅配業者は21時まで
たった1時間しかない

本当に必要な物だけと

電話相談員さんに教えてもらった
手放したら2度と手に入らない思い出の品

必死に段ボールに投げ込んだ

状況を理解したのか
娘も一緒におもちゃを段ボールに投げ込む


玄関の記念写真
ウェディングフォト…

シュレッダーに突っ込んだ


段ボールは13箱
軽自動車では積みきれない

時間は…20:50

後10分…
間に合わない…
逃げ切れない…

涙が溢れたが食いしばった
諦めんな私!!


段ボールと娘を車に積んだまま
宅配業者に駆け込んだ

一度荷物の引き受けを断られたが
泣きながら頼み込み受け付けてもらった

「こんな小さな子供までいるじゃない…!いいから早く残りもっておいで!」

さっきまで嫌な顔をしていた宅配業者さんが
いつの間にか味方になってくれていた


無事に荷物を持ち出した私は
自宅に結婚指輪と夫のクレカを置いた


この夜から私は自宅に帰らなくなった

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