見出し画像

繊細ヤクザの話

『おいしいごはんが食べられますように』/高瀬 隼子

ゲボ面白い。

下品な言い方で申し訳ないが、この表現しかできない。

不気味・不穏・薄気味悪い、でも印象的で面白い。

こんな小説読んだことない。


かもめ食堂(2006)、食堂かたつむり(2008)を皮切りに、たくさんのごはん小説を読んできた。

これまでのごはん小説は、登場人物がいい人ばかりで構成されているか、嫌な奴が出てきても、おいしいごはんで乗り越えていくかの2択だった気がする。

この本は違う。

種類は違えど、やべーやつしか出てこない。

以下、主な登場人物。

◆芦川(女性)
身体が弱く、『辛い時には無理しない』スタイルを貫く。
故に、やらなければいけない仕事があったとしても、体調が悪ければお構いなしに早退する。もちろん仕事は他の人に振り分けられる。
しかし、体調不良で早退したにもかかわらず、翌日『ご迷惑をかけたお詫びです♡』と、手の込んだ手作りお菓子を職場に持参する。
バカな男性社員と謎思考のパートババアは、『おいしい!』『芦川さんって本当に家庭的ね〜』と大絶賛。

経験年数が長く仕事への貢献度が低いため異動対象であるが、支店長とベテラン社員(何れもおっさん)の強い要望により、現在の支店に居座り続ける。

◆二谷(男性)
体調不良で早退する芦川の尻拭い要因の1人。
かなり屈折しており、芦川の勤務態度や芦川の作る食事やお菓子に抵抗があるにもかかわらず、か弱い芦川に魅力を感じ、芦川と男女の関係になる。
手作りの食べ物を忌み嫌っており、『カプセルで栄養摂取できたらいいのに』等、厨二臭い思想を持つ。

◆押尾(女性)
芦川の尻拭い要因の1人。気が強く、可愛げがない。体調不良で早退したのに手の込んだお菓子を作ってくる芦川に反感を持つ(当然である)。会社に貢献しているのは確実に芦川ではなく押尾だが、社内では全く評価されていない。




この話は、所謂『繊細ヤクザ』の話だ。

体調不良(重い持病ではなく、偏頭痛などの軽微なもの)でお構いなしに早退し、でも、みんなが尻拭いをしている間に芦川はせっせとお菓子を作り、翌日、会社に持っていく。
バカな男と優しいパートは芦川のお菓子を褒める。

読んでいて思ったのだが、芦川はお菓子作りも料理も好きじゃない。明確に記載されているわけではないが、作る工程よりも『お菓子を振る舞って褒められる私』が好きなのである。

結末の詳細は伏せるが、この物語を読んだ多くの女性が押尾に感情移入すると思うが、押尾は報われない。


繊細ヤクザの大勝利である。

はっきり言ってめちゃくちゃ胸糞が悪い。
かといって、駅のゴミ箱に捨てたくなる小説か?と聞かれれば、全くそんなことはない。
主に芦川の図々しさ(この人は全く弱者ではない。図太くて強かである)がどんどん増長されていく様が面白くて、ページをめくる手が止まらない。

読後感が悪い小説は大体売り飛ばすことにしているが、この本は売らない。記憶が薄れた頃に本棚から抜き出して、怒ったりイライラしたり、押尾に同情したりしながら、また読むと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?