【SS】奇しき縁は溜息とともに

どうしてこうなったのか。
何故こんなことになっているのか。

背中に伝わる感触は、焼けつくほどに憎いはずのそれは、意に反して温かい。
奴もまたひとつの生命なのだと、何の属性もないひとりの人間なのだと、否が応でも感じてしまう。

あるいは勇者であり。
あるいは魔王であり。

あるいはティボルトであり。
あるいはマーキューシオであり。

そんな奴に、俺は今背中を預けている。
呉越同舟。
冗談じゃない。
俺は奴を倒しに来たのであって、こんな茶番を演じるために来たんじゃない。


コイツは死にに来た。そうとしか思えなかった。
それぐらいコイツは無謀だった。勇者気取りも大概にすべきだろう。
そう忠告したくなった自分に少し呆れた。冷酷無慈悲がオレの売りだってのに。

馬鹿な男だ。オレが手を下さずとも勝手にのたれ死ぬだろう。
まあ、せっかく来たんだから相手してやってもよいが。

そんなことを考えていたから、今こんなふざけた展開になっているのだろうか。
一体何が悲しくて、こんな大馬鹿者にオレの背中を預けなければならないんだ。
オレのプライドはどうなる。どうしてくれる。

コイツのせいで、俺が死んだらどうするんだ。
有り得ない話じゃないから、こんなくだらない妄言を吐く。

いや、ああ見えて、コイツの背中は頼りになる気がする。
口が裂けてもそんなことは言えやしないが。


「……お前、オレの前で死んだら殺すからな」
「定番ネタはいいからちゃんと戦えよ」
「うるさい黙れ」
「お前こそな」

そうして二人は同時に溜息をついた。
背中にかかる重みもまた、一段と増した気がした。


※原題:「仇敵に預ける背中」(自作お題サイト「アリスの言霊」より)

#小説 #ss

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