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5. 離陸

離陸

夜の離陸前 
緑の飛蝗が小さな窓の外から機内を覗いている

シートベルトで座席にへばりつき
皆で前を向く乗客
それぞれの荷物を抱え 
しばしの間 運命共同体
飛蝗の向こう 
搭乗を待つ飛行機が並ぶ
空港に頭を突っ込んで硬直した巨大な魚のように
エアブリッジは
まるで太くて固いへその緒
逃げ場のない空間へ
人がどくどく飲み込まれていく

機体がゆるりと走りだす
飛蝗は触角も動かさない 
覚悟の冒険 なのか 
なめらかな滑走路には
カラフルな蛍光色の灯りたち
身体が後ろに引っ張られ 
浮く 
めくれる耳の奥 
生きているはずの街が
ずんずん精巧な模型に姿を変えていく

飛蝗が 
飛んだ 
別の地上に向かって
 
遥かに広がる雲の地平は
時が止まった波のよう

私はずっと 
どこかで線を引きたかったのだ 
むりやり句読点を打つみたいに

飛蝗はどこに行ったのだろう 
私は空を飛んでいる

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