段取り八分『ザ・キラー』

Netflix映画『ザ・キラー』(デヴィッド・フィンチャー監督)を観ました。仕事のできる殺し屋がうっかりミスをしてしまい、クライアントから落とし前の襲撃を受ける。その報復を粛々としていくというあらすじ。

この「粛々と」部分がおもしろくて見入ってしまった。「段取り八分、仕事二分」という言葉があるけれど、この「段取り八分」部分を大変に冴え冴えと見せている。それで残りの「仕事二分」は状況に翻弄されつつもなんとかシャンシャンと収めていく。現実世界のもっとずっと地味な仕事もおおよそこんな感じだあね、という気持ちになる。

そう、なんというか「プロフェッショナル仕事の流儀」みたいなのだった。そもそもマイケル・ファスベンダー演じるシュッとして人目につきそうな殺し屋が出てくる時点で、これはリアリズムではなく抽象化された「殺し屋」の話なのだった。それが自分のような平凡な人間には普遍的な「お仕事」の寓話のようにも感じられて、いろいろと物思いを誘われる。主人公の仕事ぶりに、自分もこんなふうに段取り良く仕事に挑めていたらどんなによかったかと憧れたり、仕事は相手ありきだから万全の準備をしてもダメなときはダメなんだよなあと考えたり。

主人公は全米各地に倉庫を借りていて、そこに偽造パスポートだのナンバープレートだのを置いている。少ししか映らないけれど、その収納方法というか整理整頓が行き届いていて、「ほう」と感心してしまった。オフの日に無印やニトリで収納グッズをまとめ買いしているのか、管理の労力も大変だろう、なんて妄想したり、「仕事のできる人は整理整頓も上手だねえ」と月並みなことを言いそうになったり。

「即興はやめろ、予測しろ」「感情移入するな」。仕事中の主人公が何度も自分に言い聞かせる言葉は、フィンチャーの仕事のモットーのようにも聞こえてくる。ビジネスで即興や感情移入をして大変な目に遭ったのかな?と。

ティルダ・スウィントンの出てくる場面もよかったです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?