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1回、キスしてもらえませんか?(創作)


1話 孔子が刺さる


私、瀬戸最中(せと もなか)  40歳。


性別は女性。仕事は市役所勤務。


独身の一人暮らしで、ちなみに処女。


40にして惑わず。と昔、孔子先生はいったらしい。


ほほぅ。そういうものか。


もう惑っている場合ではないということか。


ここまでの人生、自分としての正解を選んできたつもりだ。


小学生の時


はなこちゃんの元気グループと


あかねちゃんの静かグループ。


はなこちゃんの元気グループに入り


仲間はずれの当番制に疲れた。


仲間はずれって給食当番ぐらい規則正しく持ち回りだ。ただ1人のリーダーを除いてね。


思春期と承認欲求を持て余した中学生の時


生徒会活動と


暴走族グループ、野差暮れ(やさぐれ)の2択。


どちらもカッコよくて迷うが


生徒会にいながらやさぐれていた陶子さんを


みて、ハイブリッド可能な生徒会を選ぶ。


生徒会長になり、みんなに想定外に愛され、


かなり大きめな猫を背負い疲れた。


高校生の時


いけてるグループといけてないグループの2択。


小学生の時の教訓を生かし、無所属を決めると


無性に男にモテた。


だからなんだ。ということを知る。



所属がないと、所有したがる男が寄ってくる。


ただそれだけ。


感じが悪くない断り方を模索して疲れた。


私はいつも自分を疲れさせることばかりを選んでしまう。


疲労が正解であるとは思っていないはずなのに。


そしてある日、真理と思しきものに到達する。


私は言い寄るどの男達よりも、自分のことを大好きだと気づいてしまう。自分のことが何より大切だということに。


そんなことに18歳で気づいてしまったから。


私は自分の顔色ばかりを窺って生きてきた。


この人と仲良くなりたいな。


おやめなさいな。割と面倒なところあるわよ。


この資格にチャレンジしたいな。


おやめなさいな。取ったところで変わらないわ。


母さんに連絡取ろうかな。


おやめなさいな。あんたがまた傷つくだけよ。


私の私は慎重派でプライドが高かった。


私の声を聞きすぎて、私は随分と1人だ。


もういいか。


私のもう1人の私は割とやんちゃで友好的だ。


私の私、世代交代。


深夜3時。ラジオをつける。


セオリーのナイトルーティンが始まる時間だ。


セオリーはお笑いコンビだ。


お笑い番組が好きだ。笑いというものが人生において最も大切ではないか。と最中は思うが
そんな本当のことを口に出したことはない。


セオリーの笑いは世知辛くもあり優しくもある。あまじょっぱいのだ。それは煎餅でも芸人でも最強ではないか。と最中は思う。


セオリーのラジオは最中の人生の楽しみだ。


番組から15分ぐらいのところでいきなり羽吹さんが、


あのな、俺、こないだ突然キスされたの。と言い出した。


タダオさんは素っ頓狂な声をあげた。


アシスタントの風見あこちゃんは、割と落ち着いていて


えっ?それはまたセクハラ的な?と質問した。


羽吹さんは、ううん。と答えた。


タダオさんは、誰に?とかどんなシチュエーションで?とか、どうしてそんなことに?とか矢継ぎ早に質問するのだが、羽吹さんはそれにはのらりくらりと返事をしていた。


そして、あこちゃんが最後に聞いた質問にだけまっすぐ答えた。


羽吹さん、そのキスどうでした?


あー、ギフトだと思って。一生忘れないわ。と。


へー、いいなあ。というあこちゃんの声がなんとなくすごく耳に残った。


翌日。職場のロッカーを出たところで、同期の持田 忠(もちだ ただし)に出会った。


最中は、持田のことをチューシンと呼んでいる。


チューシン。とすれ違いざまに声をかけると


持田は、職場。と顔を顰めた。


職場であだ名や砕けた呼び方をすることを持田は嫌う。真面目なのだ。


持田、あのさ。私、1回キスしたいんだけど、どうしたらいいかな。


普段、よほどのことでは驚かない持田が、足だけでなく全てを止めた。


数秒後に、冷静を呼び戻した持田は言った。


瀬戸、18時に青い鳥で。その時話を聞くから。


そんなん、持田に悪いよ。お家のこともあるしさ。サクッと昼休みにでもさ。


瀬戸、職場。と強めに言われた。


ほーい。と答えた。


私は随分とやんちゃなことを言ったらしい。


おやめなさいな。は聞こえなかった。


#1話
#創作











お気持ちありがたく頂戴するタイプです。簡単に嬉しくなって調子に乗って頑張るタイプです。お金は大切にするタイプです。