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時には親方


「おだんごさん、清原さんに親方って呼ばれてますよ」


ヘルパーさんから、そう聞いたのは担当して2ヶ月目の頃だった。そのあとすぐの訪問中に「親方はさー」と言われたので正真正銘、私が親方に間違いない。


今まで、いろんな呼び名があった。


ほら、あなた。とか、ねぇねぇそこの人とか、
ケアさんとか、私の大事な人〜とか。


名前で覚えてもらうことの方が少ないから、どんな風に呼ばれてもなんとも思わないのだが、
親方は新鮮で面白かった。


私、九重とか二子山とかみたいじゃないの。と誇らしく、くすぐったい。


清原さんは7つ下の知的障害を持つ弟さんと二人暮らしだ。

屋根から雪おろしの時に転落して、それなのに病院に行かず辛抱していて拗らせて、もうダメと救急車で運ばれた窮地から、メキメキ回復して退院のために介護保険申請した要介護2の男性である。


77歳と70歳の男性2人。どちらにも何かしらの支援が必要だと判断したのは行政で、本人たちではない。


最初に話を受けた時には、一時的に退院したとしても、これまでのような暮らしを継続することは難しいだろうと思っていた。


また、私のことも簡単には受け入れられないだろうなと思っていた。


その頃、すんなり支援に入れないケースが続いていた。介護保険の利用に対して抵抗の強い人は多い。


自分はまだそんなじゃない。国の世話にはなりたくない。


もう充分にそんなだし、国が世話をするのではなく、人がお世話をするよ。心でつっこみながら、顔は困り顔の笑顔で、「そうですか、やっぱり必要ありませんか?」と猫撫で声を出す。


支援を拒否されることは、自分自身を否定されるように感じることもある。


他の人ならよかったか。私だからダメなのか。


そういうこともあるよね。とか、仕方ないよ、希望されなきゃ仕事にならない。とか自分を慰めながら、また前を向く。


清原ブラザーズも、ずっと2人で2人の文化で生活をしてきた片鱗があり、支援の導入が難しいだろうなと腹を括って、顔を合わせた。


私が括った腹の紐は、そのあと拍子抜けするほどスルスルと緩むことになる。


私のお客さんである清原兄は、昭和仁侠な風貌と心意気で、自分に時間と関心を傾ける人に対して心をオープンにできる人だった。


そして、清原弟はとにかくチャーミングで決まりきったことが得意だった。家事もお金払いもとかくスピーディーできちんとしていた。


清原ブラザーズは、言うなれば松方弘樹とムーミンだ。


全く違うが、どこか人好きのする放っておけない2人である。


2人の暮らしにはフルサービスが入った。訪問看護に、ヘルパー訪問、入浴のためのデイサービスに福祉用具貸与。


ほぼ毎日、誰かが顔を見に行く仕組みは、本人たちに受容の度量がなければ成立しない。


私の提案を聞いてやろうという素直さや、環境変化を受け入れる順応性がなければ、そもそも組み立てからうまくいかないし、機能に至らない。


だから、私は清原ブラザーズに感謝しかない。


こうしたら、安心じゃないかな。


こうしたら、困りごと減るよね。

と話すたびに、


「親方がいうんなら、そうしようぜ」と言ってくれることに、「まじかよ、いいの?」.しかない。


「お金はこれぐらいかかるよ。それでも大丈夫?」の問いにも


「なんとかなるさ。また元気になれば働くさ」
などと、私からしたら夢物語だが本人は心底本気だ。


私は支援開始前には、病院や包括支援センターから頂く情報で人物像を、想定していく。


大抵はそれはまだ骨格でしかなく、出会って触れ合うなかで肉付けされていく。


清原兄は、肉付けされていくたびに人としての魅力や強さに気付かされる人だった。


2人の暮らしはもともとが、近所の人や地区の人や仕事仲間や同級生たちに支えられていた。


誰かに頼られることも、頼ることもずっとずっと繰り返してきた人なのだろう。


「俺たち、まだここで暮らすから。親方、頼むよ」


そんなことを言われたら。


自分の仕事を好きになっちゃうよ。


ケアマネージャーという仕事をしています。


時に疎まれ、時に厄介者扱いされ、ただお茶のみをしてハンコをもらいに来る人だと言われたりもします。


それも、本当。


だけれど、誰かの心配や不安やままならなさに、寄り添って少しずつ少しずつあなたの暮らしを組み立てるお手伝いを心がけているつもりです。


いつかどうにも困った時に、人生の後半戦でジタバタする事態にぶち当たったら、どうか思い出してください。


社会も制度も使えるものは必ずあなたの味方になります。


そこに私たちがいることを、どうか覚えていてください。


今日は、私の憧れお姉さん、み・カミーノさんの企画に参加しています。


私はカミーノさんの仕事に対するスタンスや、子育てで通過してきたくねり道の歩き方をリスペクトしています。


憧れる人はいくつあってもいい。邪魔になりません。ミルクボーイもそう言うはずです。


カミーノさんのお仕事noteは創作大賞の中間発表にも残られています。このままゴール(大賞ゲットだぜ!)までいけー!!!と思ってます。


カミーノさん、私の仕事はね、一緒に歩こうって私を受け入れてくれる人がいないと始まらないんだ。


難儀で因果な商売でしょ。


だけど、ごっつあんです。っていう出会いもあるんだよ。


時々部屋もなくて、ちょんまげも結えなくても、親方になれたりするんだよ。


面白いよね。


#こんな仕事です


お気持ちありがたく頂戴するタイプです。簡単に嬉しくなって調子に乗って頑張るタイプです。お金は大切にするタイプです。