手のひらに花束
訪問の仕事をしている。
私は仕事でお邪魔しているのだが
お家の人によっては、お客さんが来るみたいな
心持ちの方もいる。
もてなしたい欲というのがある。
何か手土産を持たせたい欲というのがある。
基本的に、本当に、お茶の一杯もいらない。
ただ、一緒におやつを食べようとか
作った佃煮をおだんごさんに食べさせたい。とかは殺し文句である。
コロナ禍なのでと断ると、ではでは。と袋やタッパーが出てくる。
私には断る術がもうなくなり
おずおずとご好意に甘えてしまうこともある。
(本当はいけないことを書いていますよ。ご承知おきを)
妻の作ったきゅうりのキューちゃんを持っていきな。
ニコニコとそう話す
その人と出会う前に、紹介を受けた時
かなり性格が難しい方だよ。といわれた。
病気、生活歴、症状。書かれている情報は、
ハードなものだった。
認知症状は家族への妄想が肥大し、攻撃性が強く、かつ昼夜逆転が常時で家族の負担は大きい。
確かにな。と感じた。私で大丈夫かな?と思った。
ただ、お会いしてから今までその方が私に失礼な振る舞いや高圧的な態度をとることはなかった。
奥様も、疲弊はしていたが、夫に対して敬意を失うことはないことがみてとれた。
センセーショナルな出来事や、刺激的なエピソードに先入観を持ちすぎると、見誤ることがある。
会って感じることを大事にしたい。
私がいくと、今、草刈りして汗かいたからとシャワーをして、湯上がりに股引きじゃ悪いからとズボンを履いてくださる。
身だしなみに気を配るということは、
対する私への礼節でもある。
ひとしきり話をして帰る時に、きゅうりのキューちゃんを詰めた、タッパーを渡される。
容器、来月持ってきます。というと
大丈夫、それ、味噌の空き容器だから、おだんごさん食べたら処分してと言われる。
よく見たら確かに。
なんだか申し訳ないです。私、仕事で、きてるのに。
あのね。
お客さんは言った。
俺はね、あなたからきゅうりよりいいものたくさんもらってるのよ。
唐突なさりげないその言葉に、クラクラした。
だから、もらってよ。
はい、ありがとうございます。お茶請けにみんなでご馳走になりますね。〇〇さんのきゅうりだもんね。
俺は作るだけよ。母ちゃんのきゅうりだよ。
奥さんもニコニコしていた。
車のところまで、奥さんが送ってくれる。
最近、どうですか?
と尋ねる。〇〇さんがいるところでは聞けない。
だいぶいいかな?私のことが心配だよね?
と笑う。
はい。お母さんの身体も心も大事だから、無理しないでくださいね。いつでも電話ください。という。
私への優しさも、奥さんに繰り返す暴言も
〇〇さんの口から生まれる。
どちらも〇〇さんで、〇〇さんにもどうにもできない。
でも、少しずつ少しずつ、変わっていく。
他人の介入は家族に対して一滴でしかない。
サービスの導入も生活の一滴でしかない。
それでも、その波紋は必ず何かにつながる。
例えばきゅうりのきゅーちゃんとか。
例えばイケメンすぎる殺し文句とか。
お気持ちありがたく頂戴するタイプです。簡単に嬉しくなって調子に乗って頑張るタイプです。お金は大切にするタイプです。