Gメンは孤独という名の鬼に頭からガリガリかじられちゃう
それが、5年前、万引きGメンをやってみて一番辛かった事だった。
バイトに求めるもののひとつに、
「そこが自分の居場所になる」という事がある。
Gメンにはそれが無い。
一人でシフトインして、誰にも挨拶もされず、8時間スーパーを買い物客に紛れて彷徨うのだ。
気が狂いそうになる。
違う。
店舗のチームの一員として、今日も来てくれたお得意さんと笑顔で挨拶を交わしたり、スタッフ同士でスタッフ同士にしか分かち合えないニヤニヤを共有したり、お疲れっしたー!って言い合いたい。
「田口さん、水分補給しろよー!こっから先、タイムセールはスポーツだから!」
「なべさん、いっつもそれ言う笑〜!」
「うるせ〜笑!」
って言い合いたい。
帰宅してからも、あの時のあのキャッチボール、我ながらイケてたな!って思い出し笑いしたい。
でも誰とも口をきかない。
妄想の中の田口さん。
ひたすら防止。
防止に次ぐ防止。
万引き犯はあらわれるよ。
たまにはね。
午前中ひとり、午後ひとり、とか。
「見てますから」と、そのカゴの中のエコバッグに入れそうにしている物を返却させるように万引き犯に視線を送る。
大抵、戻して、店内から出ていくな。彼らは。
彼らを検挙するのは、もっと敏腕のGメンじゃないと無理なのだ。
それとバレずに万引犯に万引きさせるまでは難しいのだ。
ハンターは、孤独という名の鬼に蝕まれようと、それすら忘れるくらい仕事に没頭できる才能が要るんだな。
一度だけ、きっちり万引きした現場を捉えたことがある。
しかし、わたしの中のまさかの仏の心が邪魔をした。
つくづくGメンに向いちゃいない。
それはまた 別のお話。
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