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インド旅行記1_蚊帳

8月は一ヶ月間、インドにアーユルヴェーダの浄化療法を受けに行った。
浄化療法中はあまりに暇で、(これは暇すぎて旅エッセイのようなものが書けるんじゃないか)と妄想したりしていたが、なかなか重い腰が上がらなかった。
インド滞在中に知人と話した際に「旅行記が書けそう」と言われ、帰国後は鍼の先生に「旅行記とか書かないの?」と聞かれた。(どうやら世界が私の旅行記を求めているようだ・・・)と、なんだかその気になってきてしまった。ちょろいものである。

3週間ちょっとの予定だったところ、期せずして一ヶ月近くインドに滞在し、体の中からだいぶインドに染まった。ちなみに、帰国後に近所の大好きなカレー屋さんに行ったら「インドっぽくなっている!!」という謎のお墨付きをいただいた。どこがどうインドっぽくなったのか、今度教えて欲しい。

何はともあれ、インド滞在中毎日出ていた食事が恋しくて、いろんなスパイスとオイルと野菜を使った料理を作っている。浄化療法中の全身オイルまみれの生活も、以前だったら不快だったかもしれないがクセになってしまい定期的に自宅でオイルマッサージを行なっている。

インドのステンレスのお弁当箱が可愛くて楽天で注文し、現地で食べていたダールが恋しすぎて、地元のインド料理屋の開拓が進んでいる。感化されすぎている気もするが、日常にインドがあると生活の彩度が上がるのだ。インド滞在時の謎の居心地良さが、エッセイを書くことでもしかしたら少し言語化されるかもしれない。

<蚊帳>
インドではアーユルヴェーダ専門の病院に入院していた。
部屋のベッドには蚊帳を吊るすためのフレームが設置されており、夜寝るときに薄いナイロンの布を降ろし、その隙間から蚊帳の中に潜り込む。この蚊帳が妙な安心感をもたらすのだ。

部屋の外には病院のがらんとした空間が広がっている。部屋から廊下に出ると建物の真ん中を大きな吹き抜けが通っており、下の階の様子もなんとなくわかる。その吹き抜けを囲む回廊にそれぞれ病室があるが、患者はほとんどいない。到着したばかりの部屋は広いけれども何だかそっけなく、これから始まる施術への不安もあって、頼りない心持ちだった。だが、蚊帳で囲まれた空間に入ると、少しホッとする。

何日か滞在するうちに、蚊帳のルーティンも出来上がってくる。夜寝るときにはいそいそと蚊帳を下ろし、布団に潜り込むような気持ちで蚊帳の中に潜り込む。蚊が入ってこないように念入りに隙間がないか確かめる。朝起きたら、いそいそと蚊帳をあげる。そうすると途端に自分専用の秘密基地が、風通しの良いベッドにかわる。

夜中にふと目が覚めた時、なかなか寝付けなくてジリジリした空気を感じる時、この蚊帳の中にいてよかったと安心を覚えることが何度かあった。うっすらと空気を通すその薄いナイロンの膜一枚が自分専用の安心の空間を作り出す。この蚊帳は何から私を守っているのだろうか?

思い返すと入院するというのは久しぶりで、小学校低学年以来だ。喘息を起こして時々入院していた。入院生活に慣れてくると今日のデザートは何だろうかと楽しみにする余裕が出てきたりしていたが、夜中にふと目を覚ましたときに、海の真ん中に自分のベッドだけが浮かんでいるような心もとなさと怖さを感じることがあった。あの頃入院していたベッドに蚊帳が吊ってあったら少し違っていたかもしれない。

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