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【中国崩壊論#1】ゴードン・チャン『やがて中国の崩壊が始まる』

「中国崩壊論」本をプチ検証する

「あべ本」も進めながらまたシリーズが始まるのかという感じですが、先日、マイケル・ピルズベリー氏が朝日新聞で峯村記者の取材に対し、「親中派だった自分だが、中国の世論工作に騙されていた」と告白。さらに、「中国崩壊論」についてもこのような指摘をしていました。

「偽情報は中国の得意分野で、共産党の統一戦線工作部が担っている。中国は不安定になるどころか強くなっている。崩壊すると我々が考えている間に、急成長したのだ」

これはアメリカでの話ですが、日本でも「中国崩壊論」は一時大人気で、私もちょうど三年前に「『中国崩壊論』に警戒せよ」という記事をアゴラで公開したことがあります。

この指摘は「崩壊論をうのみにして油断するなよ」という趣旨でしたが、上記のピルズベリー氏の言及で、「中国が崩壊するどころかますます存在感を増している今、結果的に誤りになったと言わざるを得ない『中国崩壊論』は、いったい何を根拠にし、どういう条件によって『中国は崩壊する』としていたのか」を改めて確認する必要があるのでは? と考えるに至りました。

しかし「あべ本レビュー」もやっている状況で「中国崩壊論」を論じた本や記事をくまなくチェックし同じボリュームでレビューを書こうとすると他の本も読めなければ仕事にも支障が出るので、この「中国崩壊論」に関しては「プチ検証」というくらいの気軽さで取り組まんとするものであります。

「五年以内に崩壊する」と断言

というわけで1冊目はゴードン・チャン『やがて中国の崩壊が始まる』

日本版序文の出だしからこれです。

日本よ、あなたの隣人は戦慄いている。中国共産党が、永久に政権を握りつづけると思われてきた共産党が、十年、いや五年以内に崩壊する。準備はできているか?

「崩壊する『だろう』」とかじゃないんですね。本書は2001年11月に出版されており、まもなく10年が経ちますが、まだ中国共産党も中国も崩壊していません。

なぜ筆者は「中国は崩壊する」と見たのか。ざっと読んだ中で、崩壊する理由として挙げられていた気になるポイントは、①WTO加盟②ネット③イデオロギー重視の経済政策。なんと現在の中国はこれらのポイントをある意味ですべて克服しているといっていいのではないでしょうか。

本書の原書が出た当初、在米中国大使館の次席公使が反論のための討論会を開くといいながら直前にドタキャンしたという話が、筆者のプロフィールに書き添えられていたのですが……。

時期的に、原著が出たのは2001年11月よりかなり前だと考えると、おそらく9.11より前だった……と思ってよく見てみると、日本語版への序文の署名が「2001年9月 ニューヨークにて」となっています(しかしテロへの言及はない)。

少なくとも原著は9.11前だった、その当時のアメリカの対中強硬派はこういう感じだったのか……と思うと、その後の歴史の流れを皮肉にも感じてしまいます。またもしかすると、中国はアメリカの状況を見、この本を逆手にとって「共産党延命」のための施策を練ったんじゃないかとすら思えてきます。

中国でこそイノベーションが生まれている

もう一つ、筆者は「自由のない国では起業家精神やクリエイティブが阻害される」として、中国崩壊は近いと説いていたのですが。

ところがどっこい、20年近く経った現在、なんとこの点についても逆転現象が起きているとの指摘もあります。

それはこちらの本によるのですが。

本書では、著作権などがガチガチに守られている欧米諸国よりも、パクリと言われようが何だろうがとにかく作って(売って)みる中国のイノベーションの方が「自由」である、と指摘しています。

ドローンなんかの導入も、米軍はともかく自衛隊より先んじていると警戒する識者の声もある昨今。

技術やクリエイティブに関する弱点も、中国共産党体制は「克服」してしまったのかもしれません。もちろん発火点になりかねない課題は今も山積みではあるのですが。

さて、ゴードン・チャンの本、日本でもかなり売れたようで、私が見たのは11刷りでした。かなり売れたのでしょう。この頃の業界の動向やトレンドは分かりませんが、日本の出版界に与えた影響も大きかったかもしれません。

「張り子の虎」とは中国を指すのに多用される表現で本書でも使われていますが、そういわれている間に、粛々と本物の虎を育てていたということになる可能性があります。



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