路上の反逆者:テディボーイ・スタイルについて
それまで当たり前だった事柄が、一挙に不確実なものになった1950年代のイギリス。
この時代に、エドワーディアン、のちにテディボーイと呼ばれる集団が誕生します。
テディーボーイ(テッズ)たちは白人労働者階級の若者で、フロックコートのような着丈の長いジャケット、スリムパンツにビロードの襟、花柄の派手なウエストコート…といった豪奢な装いをしていました。
彼らのスタイルは、のちに登場するモッズやロッカーズなどの若者のスタイルに大きな影響を与えました。
華やかなりしエドワーディアン
彼らが「テディボーイ」と呼ばれるのは、そのスタイルのベースがエドワード7世時代の流行をもとにしているからです。(「テディ」はエドワード7世の愛称「テッド」に由来します。)
このエドワード7世というのは世界に知られたお洒落大好き国王で、その傾倒ぶりは母親であるヴィクトリア女王が「息子が何を着るかにしか興味なくて、マジで心配…」と周囲に漏らすほどだったとか。
エドワード7世は自身がファッションリーダーとなり、今日の男性ファッションの基礎となる着こなしを生みだしていきました。
国王は、夜会服に合わせるトラウザーズ(ズボン)は黒が基本(右)とのスタンダードを作ったり、ヴィクトリア朝の大定番・フロックコート(中央)を好んで着用し、クラシックなスタイルを愛す一方で、ホンブルグ帽(左)などのアイテムを自身が身に着けることで、大流行を生み出したこともあったとか。
とはいえ、これらは全て上流階級のスタイル。
イギリスではファッションに限らず、文化は「王や貴族が作り、庶民がそれを真似る」という図式が伝統的でした。
ところがテディボーイたちは、貴族のスタイルをベースに、自分たちの文化を作り・発信するという「反逆」を行ったのです。
テッズは、仕事着と日曜日用のスーツしか持たない労働者階級でありながら、「着飾るための服」を持つことで、自身の階級におけるダンディズムを初めて体現した存在でした。
また、労働者階級の間では「おしゃれはホモセクシュアルのもの」という認識も根強く存在していました。
男性のおしゃれが一般的ではなかった時代に、若者が奇抜な格好に着飾るということは、大きな自己主張でもあったのです。
テディボーイ、そしてその前身であるエドワーディアンたちは、当時の階級、そして男性の規範を破壊し、社会に大きな衝撃を与える存在だったのです。
君は「リーゼント・ヘア」を知っているか
テッズのスタイルで特徴的なもののひとつが、リーゼントヘアです。
日本で「リーゼント」といえばイラストのような髪型全体を指すのが一般的ですが、英語ではこの髪型は「ポンパドール(前髪のふくらみ)+リーゼント(サイドヘアを撫でつけたもの)」と表現します。
首の後ろに髪の毛先が集まることから、「DA=duck’s arse:アヒルのお尻」とも呼ばれるそう。なんだかかわいらしいですね。
差別と暴力
ツイッターでもより詳しくテディボーイについて解説しようと思ったのですが…公開をためらっていました。
彼らを語るに際しては、その暴力性と差別主義について触れることが避けられないからです。
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