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この世界にあなただけしか持っていない、100冊のZINE

ZINE『ただ、わたしを待っている』を出版して1ヶ月が経つ。

もともと、初版が届いていく様子次第で増版を決めようかなと思っていたこのZINE。

しかし販売を始めて少し経った今、今後増版はせず、初版で作った100冊のみを1冊ずつ丁寧に届けていくことに決めました。

そんな決意の背景物語を今日は綴ります。

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このZINEを作ることを決めた頃、それはまだ自費制作の大変さも喜びも、微塵もわかっていなかった頃。周りの作家さんたちを見渡しながら、SNSで追いながら、初版が完売したら増版して、そうして届け続けるものだろうと何の意思もなく思っていた。

ZINEを届けるとはそういうものだろうと、増版も視野に入れて『ただ、わたしを待っている』を黙々と1人で綴り、直し、編み、刷り、形にしていた。

しかし形にすればするほど、微妙にその届け方とこのZINEの間にズレが垣間見える。それでも「そういうものだろう」という思い込みは根強く、そのズレを見て見ぬふりしていた。

それから1ヶ月の間、『ただ、わたしを待っている』は10冊、私のもとから旅立っていった。始めたばかりの本屋、それもインターネットだけのまだ無名の本屋にしか売っていないこのZINEが10冊も届いてくれたのは、迎えてくれたあなたのおかげである。

この10冊を形にし、包み、届けていった記憶は、どの1冊も深く温かく私の内側に残っている。だからこそ、迎えてくれた方とひとりひとり会ってお話をしたくなる。小っ恥ずかしい気もするが、感想だって聴いてみたい。

そうして1ヶ月届けていく中で、奇しくも「10冊」という文字が目に見えた時、本棚にある小坂流加さんの『余命10年』という本が光って見えた。

この本に限らずだが、私はなぜか余命宣告をされた主人公や登場人物のお話に強く惹き込まれる。生と死が表裏一体であることを身近に感じて生きたひとの言葉や歴史も深く知りたくなる。前世はそういう人だったのかもしれない。

永続的ではない、有限で、懸命で、ただ一点、今を捉えて今を映すものに惹かれるという、自分のひとつの傾向に初めて気づくきっかけを与えてくれたのが、この『余命10年』というお話。

そんな自身を知るお守りのような、何度も読んだお話を頭に浮かべながら、このZINEは100冊しか作らないようにしようと決めた。

「そういうものだろう」は、単なる思い込み。私の意思は別のところにあることを嫌でも気づかされた。

このZINEの表紙をめくった次のページには、和紙を挟んでいる。その和紙のまわりはふわふわと紙の繊維がなびくように、私が1枚1枚手でちぎって作っている。どれも紙の流れに沿ってちぎるが故に、1枚たりとも同じものがない。

この作り方を選んだ時、私は、出来上がったZINEが内容も表紙も同じだけれど、ただ1つしか存在しないという事実を作ると意気込んだ。

明確に私の意思は、初めから2つ目がないものを作ることにあったのだと思う。その意思に気づいたのは、販売開始から1ヶ月が経とうとしていた先週半ば。

これが、今回の初版以上に作らないと決めた背景である。

見開き1ページで完結するエッセイが12編、3ページのエッセイが1編で作られた『ただ、わたしを待っている』は、この世界に100冊しかない。

それも100冊全て、1つとして同じものがない。あなたが手にした『ただ、わたしを待っている』は、著者で発行者である私も持っていない1冊。

いずれ、今後作っていくZINEを纏めて1冊の単行本に編集する時があるかもしれないが、その時はまた加筆修正をするかもしれないし、かたちは全く別の作品になるだろう。

だからこそ、巣立っていく1冊を届ける度に、少しうるっとする。

残り90冊、このZINEと巡り逢う方に何度もうるっとしながら届けていきたい。


ZINEの制作費や、表現を続けるためのお金として使わせて頂きます🌱