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バイオマーカーについて(カルプロテクチンとか、LRGとか、CRPとか) 1.総論と便中マーカー編

炎症性腸疾患の患者さんの場合、通院の際に、病院で血液検査や便の検査をすることが多いと思います。病院でもらう結果表には、血液検査だとCRPとか、LRG,便だとカルプロテクチンや便潜血などの結果が書いてあるかもしれません。これらは何のための検査なので、どういったものなんでしょうか?

1)まずは、Treat to Targetとバイオマーカー



炎症性腸疾患(IBD)の治療で、現在主流になっているのがTreat to Targetという考え方です。これは、臨床症状(腹痛とか下痢とか)が良くなるだけではなく、こまめに炎症などをチェックして、早めにお薬を調整することで、粘膜治癒(内視鏡でのぞいたときに、粘膜に炎症がない状態)を達成することです。このこまめにチェックするための方法としては、本当は一番良いのは内視鏡をすることですが、頻繁に検査するのは大変ですよね?そこで、内視鏡に代わる方法として、便の検査や血液検査を使います。 ちなみに、これらの、治療効果や病状の指標になるもののことを、「バイオマーカー」と言います。 
ちなみにこのTreat to Targetに関しては、STRIDEという推奨に基づくものでして、最新版のSTRIDEⅡ (*1)には、細かい内容が書かれています。


2)バイオマーカーにはどういったものがあるの?

1)で書きましたが
バイオマーカー:治療効果や病状の指標になるもの のことです。
今、日本で使われているものには、
①便中バイオマーカー
 1.便中カルプロテクチン
 2.便潜血反応
②血清バイオマーカー
 1.CRP
 2.LRG
③尿中マーカー
 PGE-MUM
があります。③はあまりなじみがないかもしれません。私も使用経験がありません。  
皆さんが一番なじみがあるのはおそらくCRPだと思います。炎症がひどい時などには威力を発揮するのですが、落ち着いているように見えるときなどCRPだけでは病気の勢いを判断できないケースがあります。そのため、いくつかのバイオマーカーを組み合わせて使うのが一般的です。

3)ここから具体的に。 まずは便中マーカーについて 
 


便中マーカーには、上で書いたように現在便中カルプロテクチンと便潜血が使われています。ここでは、この二つについて書きます。
  

(1)カルプロテクチン(Fecal calprotectin)



カルプロテクチンは主に好中球に含まれるタンパク質です。炎症が起きている場で、好中球やマクロファージから分泌されて、腸管内に放出されます。炎症性腸疾患の患者さんにおいては、腸の粘膜に炎症があると値が高くなります(*2)また、壊れにくい(室温で最長7日程度安定)こともあり、一般診療での検査に向いています。
 

この検査の良い所は、主に次の4点です。
①腸の粘膜の炎症の程度(内視鏡的活動性)と相関している(*3)
②再燃予測(この先病気が悪くなりそうかどうかを予測する)にも使える(*4)
③治療効果判定(治療がうまくいっているかどうかの判断)に使える
④過敏性腸症候群(IBS)との区別(鑑別)に使える(ただしキットによる) 
 
①の内視鏡的な活動性との相関ですが、潰瘍性大腸炎において、Mayo 内視鏡スコア2あるいは3(詳細は省きますが、粘膜に強い炎症がある状態)における、陰性的中率(検査で陰性になった人の中でその病気には罹患していない人の割合のこと)が96%と高く、便中カルプロテクチンが陰性ならば、粘膜に強い炎症がある可能性は低いと考えられます。 
②の予測に関しては、定期的にカルプロテクチンを測定していた場合、1~3カ月の測定間隔で,陽性(カットオフ値55~300μg/g以上)であった場合,2~3 カ月後に再燃する確率は53~83%とされています。(*5)ただし、次に述べますが、測定キットによって、陽性とする基準値が大きく違うため、判断が難しい面もあります。 
④に関しては、日本で使われている測定キットの中で、ある特定の物しかIBDとIBSの鑑別には使用できません。

一方で、気を付けるべきところは、おもに以下の5点です。
①ほかのお薬(痛み止め(NSAID)や、胃薬(PPI)など)、IBD以外の原因によるの大腸の炎症(感染性腸炎など)、大腸がんなどでも陽性になる
②測定値が時間帯、採取部位によって変わる(日内変動)
③測定値が場所やキットによって変わってしまう
④保険の問題で基本的には3か月に1回しか測れない。また、同様の理由で、大腸内視鏡と同じ月にはできません。
 
こちらの①に関しては、検査が陽性であった場合は内視鏡でチェックを行うことを考える必要があります。また、②の問題もあり、検査値の変化が、そのまま粘膜の炎症の程度を反映しているとは言えません。あくまでも、陽性か陰性か(カットオフ値という基準値を超えているか、いないか)で、現在粘膜に強い炎症がありそうか、なさそうかを判断するための材料にすぎません。
 
これらのことから、現時点では、ほかの血液検査や、症状による判断などを組み合わせて、総合的に判断するのがよさそうです。

(2)便ヘモグロビン検査(Fecal immunochemical test: FIT)

ここで言う便ヘモグロビン検査とは、健康診断などで行う便検査と同じものです。良く知られている者でもあり、結果もすぐに出ます。カルプロテクチンに比べるとIBDにおける研究の数は多くはないですが、診療に役立つことが明らかになってきつつあります。 
 Mayo内視鏡スコア0(粘膜に全く炎症がない状態)を基準とすると、感度92%、特異度71%と、とても良い指標になりうる可能性をしめした研究があります。(*6)

4)今回参考にした主な文献

(*1)Turner D et al; International Organization for the Study of IBD. STRIDE-II: An Update on the Selecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease (STRIDE) Initiative of the International Organization for the Study of IBD (IOIBD): Determining Therapeutic Goals for Treat-to-Target strategies in IBD. Gastroenterology. 2021 Apr;160(5):1570-1583.
(*2) Roseth et al: Scand J Gastroenterology 24:50-54;19
(*3)松岡克善ら:医学と薬学 74:717-726、2017
(*4)Theede K et al : Inflammatory Bowel Disease 22 :1042-1048,2016
(*5)De Vos, M.et al.:Inflamm. Bowel Dis. 19;2111‒2117, 2013
(*6)Nakarai A et al:Am J Gastroenterology 108:83-89,2013












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