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Women Negotiating 読書メモ 3.ジェンダーのフィルター

交渉のフィルターとは相手をどのように色付けて認識し、どう行動するかということで、権力や社会的地位の考え方、ある状況で実際誰が決定権を持つのかと切り離して考えることができない。「女性は謙虚で自己利益の追求より他に配慮する」といったジェンダーのフィルターは交渉において非常に重要な役割を果たし、資源配分などを扱う目的のプロセスで顕著となる。
 
「女性はあまり交渉が上手くない」と考える人は多く、その根拠として男女の賃金格差がよく挙げられる。しかし実際には女性は女性らしくあるべきとのフィルターの下に交渉にあたらざるを得ず、女性は一般的に男性よりも謙虚で男性のように野心的な要求をするとは思われていないため、女性が昇給の要求をすると男性の同僚が同じ要求をした時と同じようには聞こえず、早々に「欲深すぎる」と判断されてしまう。私たちの多くは世の中からどのような期待をされているか、比較的敏感に感じることができるため、一般的に言って、女性は交渉において自分の要求を下げすぎてしまうのはこのためと考えられる。
 
「他の人の利益を代弁して交渉をする時は交渉は楽しいし面白いと感じる一方で、自分のために交渉をしなければならない場合は突然心理的なブロックが働いてしまい、交渉をとても難しく感じる。」といったコメントは女性からよく聞かれる。女性が自分のために何かを要求することは自分の部門のためにより多くの予算を要求する場合と比べて正当な主張であると受け止められ難い。
 
交渉の内容が昇給であろうと、興味深いプロジェクトであろうと、より大きな権限であろうと、多くの女性はその交渉が自分のために何かを要求するときに困難を感じる。

女性が自分のために何かを要求することは、意識するとしないとに関わらず、その女性自身が持つ女性とはどのように行動するか、あるいはすべきかという考え方との衝突を起こしている可能性がある。
 
とはいえ女性が典型的な「男性の」交渉スタイルを無批判に取り入れることはおそらく裏目に出る。男女の機会平等を向上するには、優位な立場を手放すことによってその人たちは「何が得られるのか」をはっきりさせることは必須となる。優位な立場にいる人を責めることなく、話し合いの全体がバランスの悪さを是正するとみんなが何を得るのかに焦点を当てる。平等を求めて議論を試みるのではなく、公平なバランスを話しあうのが建設的だ。

家庭でこれを実施するには、例えば全ての関係者がそれぞれ望むことと、自分には何ができるかを書き出してみる。仕事と責任の再配分を行うには、あなた自身が何に貢献をしたいのか決める必要がある。そして他の人はどこで貢献できるのかを決め、それから全体の仕事と責任を分配する。このプロセスはとても微妙で、変化が起こる可能性が高いので争いの可能性に満ちている。例えば新しい仕事の配分が固く根付いた男女の既成概念と異なる場合など。交渉はこのプロセスであなたを導く有用なツールとなる。
 
男性と女性ではコミュニケーションの方法が違うという神話があるが、客観的な証拠によれば男性と女性のコミュニケーションは異なると言うよりむしろ同じであることが分かっている。男女の違いは主に、どのような立場で話すのかという地位によるもので、男女が異なるから機会が不平等なのではなく、むしろ機会が不平等であるために違いが起きている。男性、女性の双方によるステレオタイプは未だ健在だが、根拠が無いことも多い。交渉人として交渉の席でこうした潜在意識にある偏見を認識し始めると、私たちは自分や自分が代表する当事者にとってより良い結果を交渉できるようになる。
 
女性にはお世辞を言うべきだ、女性は見栄えが良いことが重要である、女性は女らしくあるべきだ、といった考え方があり、女性の側にも男性を惹きつける女性でありたいという希望がある場合、交渉においては男性と同等に認められたいという願いはダブルスタンダードとなってしまう。
 
女性は自分が政治的に動いて、結果として組織でより高いレベルの活動ができるようになるための情報を求めて得ようとしないことがよくある。こうした男性もいるが、女性により多く見受けられる。しかし通常は組織においては権力を持った男性の発言が効果的であるため、もしあなたが女性として立ち上って何かを述べたら、誰も聞いていない。もし男性が同じことを言うと、彼が言ったことを皆が聞き、このように女性はゲームの中で軽んじられる。それでも演壇に立って話し続けるには相当面の皮が厚く無ければできることではない。

もし女性の交渉人が多くの場合に認められ、目立つ存在で、その成果が評価されていれば、そのこと自体が女性は男性ほど優れた交渉人ではないといった一般的な見方を変える一歩となる。あなたが達成したことにつては、あなたが認められる必要があり、おそらく自慢する必要さえある。女性が成果を強調すると男性が同じことをした時に比べて少し肯定的に聞こえにくいという事実の下に女性は交渉を行っていることを考えれば、この障害をなんとか避けつつしかも注目を集めることができることは重要だ。

例えばそれは面の皮を厚くして、眉を上げられたり腕組みをされても臆することなく自分のために戦略的な要求を行えるようになることだ。直接的で対立的な交渉スタイルを単純に採用することなく、建設的でありしかも戦略的な方法で交渉に影響を与えることは、女性が交渉を行う際の条件を大きく向上させる。

このように女性が交渉を行う条件は完璧からはほど遠いが、交渉において女性が直面する障害は女性に与えられた機会が不十分であることや女性に対する偏見であって、女性の交渉スキルに問題があるということではほぼ無い。女性は自己利益を追求する男性的な方法を取るべきなのか、あるいは謙虚で女性的な方法が良いのかといったことが問題ではなく、単純に私たちは皆、協力的で自信のある個人として交渉することを目指すべきだ。
 
現在成功している交渉人のコアスキルと能力とは以下のようなもので、女性には建設的で効果的な交渉人となる十分過ぎるほどの資格がある。
• 聞き上手で交渉相手個人に興味を示す
• 尊敬を持ち、自分とは異なる見方や願いに対処することができる
• 良い関係を築き、健全な関係を維持することができる
• 解決を見出すにあたり、創造的・革新的である
• 正しさを証明するより合意に至ることに焦点を当てることができる
 
女性にそして男性に何が適切で何なら可能かについての見方の多くが次世代に引き継がれる。より多くの父親が6ヶ月の育児休暇をとって家で小さな子供と過ごす場合には、家族の生活とキャリアは様々な方法でバランスを取ることが可能なのだという説得力のあるメッセージとなる。より多くの女性がCEOになったり、著名人となってメディアで意見を求められることなども同様に、何が「普通」で受け入れられることなのかという見方を広げる。

実践練習
女性と男性にとって何が可能で、何をすべきで、何はすべきでないかについて、どのような考え方を次世代に伝えたいですか?

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