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Women Negotiating 読書メモ 4. 職場での交渉

職場での交渉というと、賃金交渉を思い浮かべることが多い。賃金交渉について国際的に行われた研究結果によれば、男性は女性より多くの場合、雇用主からの最初の提示額には合意しないことが、顕著な男女差として現れている。

二人の人が全く同じ仕事に応募し、この二人の資質や経験は同じで月額4,600ユーロを提示され、一人は初任給をもっと高くして欲しいと要求して交渉し、5,000ユーロとなり、もう一人は4,600ユーロのままオファーを受けたとすると、このふたりが65才になるまでの収入の差は、年次昇給が5%あった場合には約429,000ユーロとなる。一回の賃金交渉をしただけで収入がこれだけ変わる。

賃金交渉を含め、自分のために野心的であることは多くの肯定的な結果を産む可能性がある一方で、「私は他の人たちより優れています」という賃金交渉の戦術は、女性より男性が成功する。もし女性が同じ主張をした場合には、ジェンダーのフィルターで説明したように、より否定的な効果を生む可能性がある。それでも基本的にはある程度の抵抗にあっておくことには価値があるかも知れない。より多くの女性がこのように振舞うようになれば、それが「普通」に感じられる。

職場での交渉の内容としては、報酬の他にも担当業務、責任、戦略性のある役割、研修の機会、仕事やり方の柔軟性などが考えられる。しかしあなたは、報酬や上昇するキャリア、より大きな責任が重要だとは考えていないかもしれない。これは重要な点で、プロフェッショナルとして自分が何を望み、何を達成したいのかは交渉の最初のフェーズで確認しておく必要がある。

***フェーズ1 自分との交渉***
あなたが実際に行っている業務は、あなたにとって最も満足のいくものか。あなたの能力と経験が最も生かされるものか。これを下記の枠組みで、全体像を捉える。時間をかけ、パートナー、友人やコーチなどの助けも得て検討すると良い。
→ 現在:私は今どんな仕事をしていて、それをどう思っているか?何は合理的で、時間を無駄にしているのはいつか?
→ 将来:もっとやりたいことは何か?私にとって仕事で完璧な未来はどんなものか?
→ 過去:これまでの経験で上記に関係するのは何か?将来やりたいことに関連する過去の成功体験はあるか?過去にどのような仕事を有意義に感じたか?

一般的なルールとしてあなたが何かを変えたい、何かを達成したい、あるいは何かをもっと得たい時が交渉をするべき時のサインとなる。誰かのために何かして欲しいと依頼された時もまた交渉する機会となり、何かを要求して誰かからノーを言われた時はいつでも交渉を始める可能性がある。変化と向上の可能性から利益を得るには、積極的に変化を求めて頻繁に行動を起こすべきで、ただ座って相手が言ってくれるのを待つだけでは不十分だ。
自分との交渉で自分が本当に望むことに心を向けておけば、交渉が始まった後もそのプロセスを導く灯台となる。

実際には仕事内容が不満なのに、もう少し給与が高ければ我慢できるかも、などと考えても基本的な問題が解決されないことに注意する。その場合は最も煩わしいと感じる仕事から免除され、代わりにより好ましい仕事を引き受けるなどが考えられる。また事実の検証や情報収集も重要だ。

最初の要求は「野心的な提案」である必要がある。あなたにとってちょうど満足な条件から交渉を始めると、それ以下ではあなたは満足できず、相手に対して譲歩する柔軟性も余裕が無くなってしまう。つまり交渉相手が交渉プロセスの中で期待する譲歩を認めることができない。あなたの交渉相手は、あなたのことを頑固で柔軟性に欠けると思うだろう。あるいは、最低限要求したかった以下の結果に終わることになる。一方、野心的な提案をしていれば交渉相手に対して自分の考える最低条件までは譲歩することができる。

調査結果によると、楽観的で高い要求は時間とともに交渉相手に影響を与え、交渉がより良い結果になることが分かっている。交渉に幅があり、楽観的で高い要求をする交渉人は結果のために一生懸命働きかけ、我慢強い対応をすることがその理由だ。

このため私たちは最初は必ず拒否されると思われるくらいの野心的な提案から交渉を始めるべきだ。すると相手の反応からどの辺りが境界線か探ることができるし、もしその時は決裂してもあなたはそれだけの提案をする自信のある人だという印象を残すことができる。

実践練習
交渉の機会を見つけ、週に一度はあなたから交渉を始めてみる。

変化や向上が必要なことはあるか?例えば、業務内容、労働時間、責任、給与、アシスト、権限の譲渡、休暇、等々。

自分はどうしたいのか決める。

あなたの最初の提案は野心的なものとする。

***フェーズ2 他に影響を与える ***
自分との交渉であなたの野心的な提案が定まったら、次に以下を考えてみる必要がある。

この交渉の決定権を持つのは誰か。

交渉相手は何を必要条件とするか。交渉相手は誰と交渉するか。交渉相手の世界はどんな様子か。

交渉相手からあなたが欲しいものを得るために、あなたはどのように交渉相手に影響を与えることができるか。どうすると譲歩を得られやすいか?

交渉相手は、あなたが誰か、何をしているか、何を望んでいるかを交渉前に既に知っている必要があるので、あなたは交渉相手にそれらの情報を与え、報告をし、事前に話しておく必要がある。昇給の要求は年度末に言い出さないで事前に、継続的に話しておく。相手が何の情報も持たないままいきなり交渉をすることは避ける。仕事での成果は必ず知らせるようにする。継続的にミーティングを持ち、相手の世界に興味を持つ。インフォーマルなミーティングで関係構築する、「並行する交渉」で自分は相手にどう見られたいのか考えてみる、等が必要となる。

成果のアピールは重要だが他でも仕事は探せるといったトーンは脅しのように聞こえ、対立的になりやすいので注意が必要だ。交渉相手とは関係構築する必要があり、あなたがどんな人かもこのプロセスで評価されている。

交渉相手が日常的に顔を合わせる人でなかったとしても、あなたとあなたの成果、何を望んでいるかについて伝える方法があるか考えてみる。例えばメールや電話などで連絡を取り、ミーティングを申し込む。あるいは懇親会などで関係構築する。または、交渉相手と日常的に一緒に仕事をする人を通じて間接的に影響を与える。この時、あなたが「並行する交渉」でどんな評判の人かが重要になる。

相手が交渉のテーブルにつくことにさえ合意しない場合でも、自分の要求は明確にし、いつであれば話し合えるのか、どうしたら話し合いを始められるか、今話し合いを始めて結論は後日出すことはできるか等を聞いてみる。

交渉にメールを利用することの難点としては、相手の顔が見えず距離を感じること、誤解を生みやすいこと、議論になりやすいこと、CCで多くの人が巻き込まれやすいこと、履歴が全て見えるので最初の議論に戻りやすく結論が出にくいことがある。反対に良い点は、効率的であること、肩書き等に関わらず発言しやすいこと、あなたが相手に認知してもらえる手段となることがある。

交渉にメールを利用するときには上記に注意し、必ず電話や対面での話し合いやカジュアルな懇親会などでの交流などと織り交ぜ、建設的なトーンで相手との関係性は重視する。

あなたの評判が交渉相手に伝わることは重要だ。一般に、男性は自分より上位の人とネットワーキングし、女性は自分と同レベルの人とネットワーキングすると言われており、女性のやり方はキャリアで上昇する目的では利用しにくい。交渉を有利に進めるには、ネットワークする相手を変え、そこで自分の評判を確立することも考えられる。

実践練習

交渉のミーティング前後の時間も交渉相手に影響を与えるために利用してあなたの可能性を広げる。

自分の価値と望みは定期的に交渉相手や他の人たちに伝えましょう。そのように自分の評判を確立しておくことは次の交渉に有効に働く。

自分の要求は事前に交渉相手に伝えましょう。それによって交渉相手はその実現に向けた準備ができる。

***** フェーズ3 合意に達する *****
交渉を行うミーティングのファシリテーションは重要だ。男女で発言権の差があるような状況では、ファシリテーションで出席者全員に発言してもらうことが有効だ。なかなか合意できない状況でも、相手の立場をサポートする観点からの質問をすることで合意に至れることがある。

会議の始まりは、関係構築の雑談から始まることが多い。交渉相手との関係構築は重要だ。金の掘削をする人が地中の金を探索するように相手の良いところや興味深いところを探し、そこから関係構築する。

自分がミーティングのホストとなることができるか考えてみる。心地よい場所で飲み物や軽食の準備をする。
ちよっとした雑談をする忍耐力を持つ。相手や相手の世界を知り関係構築をすることができる。
冒頭に、会議全体にどれくらいの時間がかけられるかなど、交渉の枠組みについて合意する。

雑談が終わったら、交渉の最も難しい部分に入る。あなたは自分の要求について話す。この時、必ずあなたの希望は事前に相手に伝えてあることが重要で、それによって相手は検討する時間を持てる。”No”の返事は期待しておいて、”No”なポイントばかりに拘らず、相手の返事を”Yes”にするヒントは無いか、チャンスとなる兆候は無いか、よく検討する。

意見の違う相手からYesを引き出すときに、自分の正しさを議論することは効果的ではない。相手に質問をすると、相手は話を聞いてもらった、承認されていると感じ、人間関係の構築ができる。ジャーナリストになった気持ちで、その人や考え方に興味を持って聞いてみる。

相手の抵抗が通常より強い場合は、相手の言葉の意味を確認する、事実を再度確認するなど仕切り直す、相手が感情的である場合には侮辱的でない限りは話を聞く、プロセスを一旦中断し、時間をとって新ためてポジティブな雰囲気で話し合う、お互い合意するためにここにいることを確認するなどを行う。

相手に質問しながら相手の望みを叶える新しいアイデアはないかと探ってみること。双方が満足しない合意は結局続かない。

上記のプロセスを経た後に、合意に至る。譲歩をするのであればこの段階で。譲歩するときは、「もし私がXXを譲歩するならば、YYはあなたが譲歩してください。」のように少し譲歩して少し得るようにする。

休憩時間を取ることで交渉が前進することがある。感情的になったとき、新しいアイデアが必要なとき、休憩の間にインフォーマルに相手と話したい場合、新鮮な空気や食べ物が必要な場合は休憩時間をとると良い。

最終的な合意は文書で確認する。この時に相手が合意内容についてこちらの理解と違うなどと言い出しても、感情的にならないこと。お互いの要求を確認し、合意に至るアイデアを検討し、自分はどんな取引が可能か考える、同じプロセスを繰り返す。

実践練習

- 交渉を上手くスタートさせる。冒頭に短い世間話をした後、交渉の時間など枠組みを合意する。
- まず双方の要求を聞き、お互いに質問して理解を深める。
- 合意できる部分を探る。より難しい点は後に。
- 「パイを分ける前に大きくする」ことはできないか、クリエイティブに検討する
- 合意は各当事者に公平に利益が分配されたものとする。合意事項は都度書き留めてゆく。

*****フェーズ4 ミーティングの後 *****
交渉が終わった後に、例えば昇給の要求について上司が合意してくれたのであれば、感謝を伝えること。あるいは、交渉の中で譲歩した人がいるのであれば、その人にも意味のある行動であったことを伝える。そうしておくことが、次の交渉につながる。交渉で大事なのは人間関係だ。

***** 並行する交渉 *****
交渉相手はあなたがこの交渉にどれほどの影響力を持つかを見定める。この評価は無意識に、実際の交渉と並行して行われている。例えばお茶出し役を引き受けるか、断るか、あなたの服装、身振り、どのように会議室に入ってきてどこに座るか、といったちょっとしたことが大きな意味をもち、言語化されることなく交渉に影響を与える。話し方では断定と柔軟性のバランスに注意する。

職場で、きちんと仕切られていない交渉では声の大きい人の影響力が強くなる。こうした状況を避けるには、あなたがファシリテーター役を引き受けることが有効。あなたが交渉に枠組みを与え、建設的で公平なプロセスを進めることで、あなたは影響力のある人と見られる。

実践練習

*職場でどんな風に見られたいか考えてみる。そのために何をすべきか?
*あなたの服装やコミュニケーションについて信頼できる人からフィードバックをもらう。
*ファシリテーター役は積極的に引き受ける。ファシリテーターとなることはその立場での権力を行使すること。


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