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容姿に対する呪いは簡単でかつしぶとい

 悪意を持って投げかけられた言葉じゃなくても、子供の頃の容姿にまつわる評価はその後何十年も当然のように居座るので厄介だな、と思った話。

 わたしは長年、自分は醜いと思っていた。太っていて、骨張ってがっしりした体格で、鼻がぼてっとして不細工で、毛深くて、仏頂面で可愛げのない、決して人に褒められる容姿では無いと思っていた。髪も太くて多いし、爪が弱くてすぐ折れたりかけたりしてみっともない。皮膚も厚くて、端々がすぐ固くなって、それが気になって触るのでささくれたりして汚らしい。小さなことを挙げればいくらでもマイナス評価の「自分の身体部位の説明」ができる。
 なんでかって、それぞれきっかけとなった言葉があったのだ。母に言われた「あんたは鼻さえもうちょっとなんとかなってれば見られた顔なのにね」とか、「歯の色が汚い」とか、「あんた爪弱いねぇ」とか(母の爪は多少力を込めても曲がらないくらい厚くて強くて、魔女みたいでちょっと怖い)。あとはいつも不安そうな顔をしていたのか、しょっちゅう「仏頂面してるとそれが癖になって不細工になるよ」も言われてた。貶す言葉じゃなければ、「あんたは鳩胸だからきっと胸が大きくなるよ」も心底嫌だった。
 母じゃなければ、小学校の身体測定で自分だけ友達より先に40kg台になって揶揄われたこととか、美容院で「髪、多いですね」とため息をつかれたこととかも。
 だから人前で自信を持って振る舞うことができず、おどおどしていじめられるような子供だったし、思春期はまともにクラスメイトの男子と話せなかったし、大人になってからも変な男に引っかかったりしてた。(自己評価が低いと変な男に引っかかるぞ、という桐山くんのセリフはシンプル名言)

 最近になってふと、もしかして思ってるほど醜く無いんじゃないか。いや、女優さんとか、そうでなくても一般の綺麗な人と比べたらそりゃ当然見劣りするけども。このお腹周りのお肉とか、ずぅっと太っているというマイナス要素として持て余して来たけど、触ってると柔らかくてかわいいと思えなくもない。筋張ってて細長い手足の指とか。皮膚が強い、というか、丈夫で荒れたり乾燥したりしないし、吹き出物もできないし赤みも気にならないし毛穴もあんまり気にならない。本当はあちこち、好きになれるものなんじゃないか、と思ったのだった。だって最近は自分が映った写真が見られるし、なんならちょっと綺麗に映ってるな、と思わなくもない。
 そう思ってさらに人と接してみると、好きになってもいいのでは?と思う部分を褒めてくれる人はたくさんいるのだった。例えば、筋張って関節の目立つ手指は、指が長くて綺麗だね、と結構な頻度で言われる。え、女性らしくなくてゴツゴツしてて魔女みたいで気持ち悪くない?というと、わたしの極端な反応と想定外の強い卑下に逆に驚かれる。髪の毛なんか、歳をとってくるとだんだん細くなってくるので逆にちょうどいい塩梅で、どこの美容室に行っても歳の割には綺麗な髪をしている、と褒めてもらえる。歯科医お墨付きの、矯正を考えたこともないくらいの歯並びだし、小鼻なんかメイクでいくらでも誤魔化せるのだった。
 ちなみに胸はびっくりするくらい育たなかったので、幼少期のわたしに「おっぱい大きくなるよ〜」とニヤニヤしながら言った大人たちにはザマァみろ!と思ってる。

 突然容姿が変わったはずはないから、多分いままでも褒められてたのだろうけど、当のわたしが自分の身体は悪い、と頑なになっていたので一個も耳に入らなかった。マイナスの言葉の貯金を、数十年経った最近、ようやくプラスの言葉が追い越して、受け止められるようになってきたのかもしれない。
 みんなが簡単に使える、呪いと祝いの言葉の力の強さを感じた出来事。ここまでプラスの言葉をかけてくれた人たちに感謝したいし、自分も積極的に褒め倒し肯定していきたいなぁ、自他問わず。

 先日、以前の職場の同僚と食事をした際にこの話をしたら「いや、あなたちゃんと綺麗だからね?」と真顔で念を押されたのが嬉しかった。以来、引きこもりなので誰にも会わない日も、メイクした後の鏡を二度見して「びっくりした〜すごい美女がいると思ったら自分だった」という茶番を繰り広げている。

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