シケたモクがあればいい
酒を飲んでいた。
地元が田舎で古い土地だからか、土着性の強い性質の人が多かったのか、
年に三回ぐらい小学校の同期の飲み会がある。
私が誘われる飲み会だけで三回ぐらいあるのだから、本当はもっと頻繁に行われていると思われる。
この飲み会のすごいところは、私(生まれついての陰キャ)が三回連続でキャンセルした次の会も、
声をかけて誘ってくれるところである。
こんなコミュニティ、なかなかない。
さて、前回の飲み会は割とちゃんとしたお店で行われた。
というかすごくちゃんとしたお店で行われた。
そのとき、私はみんなが所謂電子タバコというものを使用しているのを見て、とても驚いた。
普段、自分の周りに電子タバコなどというものを使っている理性と品性を兼ね備えた人物がいなかったからである。
よく考えたら私もここに出席している皆もいい大人。
子育て真っ最中の家庭を持っている人が大部分である。家庭を鑑みてタバコはきっぱりと止める、止めるとまではいかないまでも電子タバコ。
大人の判断である。
浮かぶ顔浮かぶ顔皆ヘビースモーカーである自分の環境を恥じた。
と、同時に私は電子タバコというものについて、ある発見をした。
ヤバイ、私、この臭いめっちゃ苦手。
普段ヘビースモーカーの煙の中に生きてきてなんなんだとお思いだろうが、
私はタバコのにおいは全然気にならないタイプだ。
なのになぜかそれよりも断然健全である電子タバコのにおいが何でかもう、全然ダメなのである。
楽しい飲み会の最中、突然の持病の癪で帰っちゃおうかな・・・と思いつつ、あちら側とこちら側のあまりの格差にアタシはもうドブの川でしか生きられない魚になっちまったのさ・・・と心に哀しい風を吹かせていたのである。ちなみに二次会まで参加した。
そんな前回の飲み会の思い出を抱えつつ、今回の飲み会のお誘いである。
勢いで「参加する!」と表明したものの、前回の飲み会のことが気になってしょうがない。
なぜいつも勢いだけで生きてしまうのか。
しかも悩みの理由が「電子タバコのにおいが受け付けないから」という実に狭量なもの。これ知られたら社会的に抹殺、Twitter大炎上必至の心の狭さである。だからTwitterには書けない。ここにひっそりと書き記すのみである。
まあでも、酒の誘いである。
私は喜び勇んで会場に向かった。
今回の会場は、前回とは違ってかなりくだけた場所であった。
○○ちゃんの家、とまではいかないが限りなくそれに近い、そんな感じの場所であった。これ以上は言えないのごめん。
そこに続々と集まる同窓生たち。
何度も書くが、私が生まれついての陰キャで相手の記憶に残っていないことと、私の脳の容量が512Kbしかないせいで小学校のころの記憶が限りなく透明に近い透明であることが相まって、お互いに、
「誰・・・?」
となってしまうこともあったが、概ね和やかに会はすすんでいった。
1時間ほど経ったころだろうか。
参加者の男子(小学校の同級生なのでこの表記を許して欲しい)が、会場の主に向かって、
「ごめん、いいかな」
と言った。
「いいよ、ここ、一週間ぐらい閉めるし」
と返事をする会場の主、Aちゃん。
何?何の会話なの?
思う間もなく、男子の手に握られているのは例の電子タバコ・・・ではなく、
タバコですよねそれ。
そしてそれにぞろぞろと続く喫煙者たち。
「え、こないだ電子タバコ吸ってなかったっけ」
と聞くと、
「いつもは電子タバコだよ」
という返答が。
前回の飲み会のときに、
「もう、ずっとこれだよね・・・」
と言いながら電子タバコを吸っていたAちゃんも、
「いつもは電子タバコだけど、一日の一番最後の一本はこれじゃないと落ち着かないんだよね」
と言いながら細いタバコを小粋に吸っている。
そこには、電子タバコを吸う小綺麗な大人たちはなく、
授業中に前の席のヤツの背中に容赦なくサロンパスのスプレーを突っ込んで吹きかけ、
痛がりながら爆笑する前のヤツを見ながら爆笑するわんぱくな男子どもと、
交換日記を他の子に見られて泣いてしまう繊細な女の子たちしかいなかった。
私の隣に座っていた男子がばしん、と私の肩を叩いて言った。
「あやちゃん、所詮人間は火から逃れては生きていけないわけよ!」
私知ってる・・・ゴンドアの歌にあるもの・・・
そう思いながら私は、誰かがふざけて作ったハイボールのビール割りをごくごくと飲んだ。
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