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花散らしの雨が降るとき

花散らしとはまた、なんと美しい表現かとそのことばを知ったときには感じたものだけれど。

雨で満開の桜が散ってしまう風情になぞらえて、三日三晩に続く花見に集う男女が、その夜色事に興じるという春の宴を指す隠語なのでした。

「花散らしの雨」は浜田真理子さんのオリジナルソング。彼女はピアノを弾きながら、酸いも甘いも噛み分けた人が持つ静謐さを湛えた声でうたう。

真理子さんの作品の、どこか日本文学を匂わせる仄暗く叙情的なLyricと、ジャズ音楽の持つ軽やかさが相まった感じがたまらなくすきです。

突然の雷鳴が
1日のはじまり

「これで花は散ったね」と
あなたは云った

なぜかしら?気づいたの

雨の朝、
あなたは出ていくのね

さようならも云わずに
花びらを踏んで

飲みかけのコーヒーは
あなたのマグカップ

花でも飾ろうか…それとも
捨ててしまおうか

雨よ、まだ止まないで
雨音がきざむリズム

やわらかな毛布にくるまって
花散る音を聴きたいな

そんなストーリーが3コーラス、それぞれ異なるメロディラインに乗せて繰り返されていきます。

はじめは、ポエトリーリーディングのような語り口で。次は、ブルースやワルツに乗せて遊びごころを込めて軽やかに。そして最後は、ミュージカルの主人公のごとくドラマチックに、うたう。

あらすじは同じでも、主人公が変わればストーリーはまったく違うものになる。あるいは、あるひとりの主人公が、起きた出来事をどう感じるかによって、人生はまったく異なる味わいになる。そんな示唆に富んだ曲。

他にもこの楽曲には、粋なギミックがこっそりと仕込まれていて、気づくほどになんともいえずに感じ入ることができる。

この曲にインスピレーションを与えたのは、ジャズのスタンダードナンバーである「But, Beautiful」です。

1曲目のコード進行が実は「But, Beautiful」と同じ構成になっています。こういうことを、うたいながら知っていくのがなんともうれしい。真理子さんの感性にはっとするし、わたし自身の世界も深まる心地がする。

恋は、

おかしくて
かなしくて

穏やかなときもあれば、
狂気に満ちるときもある

いいこともあれば
わるいこともある

だけど
すばらしい

いちかばちか、
恋に賭けることが
すばらしく

転んだならそれでいい
まったく気にしないわ

恋は
涙あふれるときも
陽気なときも

まじめでも
あそびでも

どちらにしても
こころが痛む

だけどすばらしい

もしもあなたが
わたしのものだったなら

決してあなたを離さないでしょう

そう願わずにいられないのも恋、
でもそこがいいと私は知ってる

「But, Beautiful」を通奏低音として響かせながら「花散らしの雨」を重ね合わせると、突然訪れた恋の終わりに主人公の女性が感じている、なんとも言えないこころの揺らぎを、よりいっそう味わえる気がする。

満開の桜が咲くような恋に
春雷が訪れて花散りはじめ、

予感のままに終わりを迎える

残された日常には男の痕跡が

愛した日々を祝福しようか
それとも捨ててしまおうか

どちらにしてもこころが痛む

流れぬ涙のかわりに
雨が降り続いている

どうか、まだ降り止まないで
雨音のリズムに身を委ねたい

やわらかな毛布にくるまって
そのぬくもりに包まれながら

別れに傷んだこころの声を
今はただただ感じていたい

もしもあなたが
わたしのものだったなら

決してあなたを離さないでしょう

そう願わずにいられないのも恋、
でもそこがいいと私は知ってる
 

主人公がわたしだったらどうするだろうか。

どうせ同じように傷むのなら、愛した日々を祝福する人生を。
胸に傷の存在を感じたのなら、それは癒えると信頼する道を。

そうあることが難しいのなら、自分の中にある愛を思い出し、
そのあたたかさ、やさしさで、自らにそっと触れてあげてね。

誰かを愛しているあなたこそが、美しく素晴らしいのだから。

そんなふうに、自分をいとおしむ経験へと、昇華する選択をしたいと思う。







読んでくださって嬉しいです。 ありがとー❤️