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それは大人の飲み物だった #紅茶のある風景

紅茶は、わたしを少し大人にしてくれる飲み物だ。
30歳を超えて、わたしも本当に大人になったけれど。
温かい紅茶を飲むといつもよみがえるのは、小学生の時の思い出。


小学生のとき、エレクトーンを習っていた。
先生のお家へ、母に連れられ毎週習いに行った。

先生は、優しいけれど厳しかった。練習嫌いですぐ飽きてしまうわたしは、手に負えない生徒だったと思う。それでも、粘り強く指導してくれた。

和歌山の田舎に似合わず、先生ははっきりした顔立ちの美人で、服もいつもシュッとしていて、お家はとてもお洒落。
リビングにはガラスの棚があって、綺麗な置き時計や、洗練されたお皿が並んでいた。
普段は草むらでバッタやカマキリを追いかけているわたしも、先生のお家では少しお姉さん気分。
レッスンの中身よりも、自分の前の生徒さんがレッスンを終えるまで、マガジンラックに入っていたファッション誌を読み漁っていたことなんかが思い出される。

そんな、お洒落な先生が主催の発表会は、これまたお洒落なカフェで開かれた。
わたしは、スパンコールのついたピンク色のワンピースと、白い靴を履いて行った。子どもらしい、発表会用の装いだった。

カフェの中に入ると、壁は真っ白で、窓ガラスが大きくて、日光がさんさんと降り注ぐ空間。
笑顔で先生が迎え入れてくれた。先生は、青みの光沢があるカーキ色の、この日もシュッとしたワンピースを着ていた。
不思議な素材だった。都会の女の人という感じがした。

演奏者と家族のテーブルに用意されたのは、トレイが段々になった英国式アフタヌーンティーのセットだった。トレイにはサンドイッチや色とりどりのケーキ、そしてスコーンが並ぶ。
わたしはこのとき10歳、人生で初めて「スコーン」なるものを食べ、あまりの美味しさに夢中になった。スコーンと、温かい紅茶のポットを何度も何度もお代わりした。
紅茶がお代わりできるシステムにも驚いて、何種類も取っ替え引っ替え。
その印象が強すぎて、この日の演奏のことは全然覚えていない。笑

「先生はこんなに大人っぽい、お洒落なものを、いつも飲んでるんや!」
という衝撃で、ちょっと背筋を伸ばした。


今も、温かい紅茶を飲むと、あの日のことを思い出す。
アフタヌーンティーを体験して、少し大人になったような気がしたこと。
先生への憧れと、畏怖みたいな気持ち。

そして、練習は大嫌いだったけれど、音楽のことが好きになったのは、やっぱり先生のおかげだったなぁということ。
本当は、ほっこりする飲み物なんだな、紅茶は。

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