あの日見たアイドルの事を僕はまだ知らない。
大学を卒業して1年
ぬるま湯に浸っていた生活が
突如ハードモードとなり心身ともに疲労が激しい。
夏の照りつける日差し。
こんな暑い中なんでスーツなんか着ないといけないんだよ
正直全て投げ出して逃亡したいが……
唯一の支えが辛うじて僕のことを立ち上がらせてくれる
…ブブッと携帯から通知音がなった。
○○:今日も来たっ…待ってたぞ…!!
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「皆はどんな曲が好き? 良かったら教えてね〜^^」
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○○:うわぁ…和ちゃんは今日も可愛いなぁ…!!
そう。
僕の唯一の楽しみはこれ。
アイドルに全く興味がなかった僕の初めての推し
この子からのメッセージが一通届くだけで
その日は最後まで頑張りきれる
○○:はぁ…早く仕事終わらせてスタ誕見たいなぁ…
会社から帰ってコンビニ弁当を食べながら
スタ誕を見るのがいつもの日課
そんな事を考えながら
いつも通りそつなく業務をこなしていた。
まさか…あんな事が起きるなんて知らずに……
────────────────
時刻は23時
自分が出来る最大効率で仕事したはずなのに…
結局こんな時間になっちゃうなんて本当やだわ…
早く帰って和ちゃん見よーっと!
明日の仕事の事は一旦忘れルンルン気分で家に帰る。
すると携帯の通知がなった
僕がとっている通知は和ちゃんのメッセージだけなので
和ちゃんなのは確定だ
一体どういう内容が送られてきたかなぁ〜と
ウキウキでメッセージを開くと…
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「今私の大好きな場所に向かってます!楽しみ!」
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という内容だった
○○:こんな夜に外出なんて危ないよ…!!
和ちゃんを心配しつつ、家へとまた歩を進める
数分しか経ってないが…
また携帯から通知が聞こえた。
○○:和ちゃん目的地着いたのかな?
もしかして…メンバーの家だったりしてね!
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「あともう少しで追いつく!」
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また夜道の写真とともにメッセージが来ていた
○○:こんな何も無さそうな所に用事なんて…
あと…"追いつく"ってどういう事だろう?
……なんとなくムズムズとした変な感じがする
なぜかというと
この道…
今通ってきた僕の家へのルートにすごく似てるから…
○○:ま、まさかね…!! そんな事あるわけ…
追撃するかのように携帯が震える。
僕は唾を飲み込み…メッセージアプリを開いた。
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「今ある人の後ろにいるんだー! 誰でしょう!?」
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震えが止まらない。
そんな訳ないと思いつつ……
後ろを振り向けない。
頼む…気の所為であってくれっ…!!
意を決して後ろを振り向くと…
○○:っ…!! だ、誰もいない…
そ…そうだよな…流石に和ちゃんがいるわけ…
ホッと胸を撫で下ろし前を向くと
「わーっ!!!」
○○:う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!?
「あはは!驚きすぎですよ○○さんー!」
○○:え、えっ!? 和ちゃん…だよね…?
和:はいっ! 井上和と申しますっ!
やっぱり気のせいじゃなかったんだ。
和ちゃんはずっと僕の後ろを着いてきていた…
でも…なぜっ…!?
○○:な…なんでこんな所にいるのっ…!?
しかも今…真夏の全国ツアー中だよね!?
そう
今和ちゃんが所属しているアイドルグループは
真夏の全国ツアーというのを開催していて
明日は明治神宮野球場でのライブのはずだ。
和:そうですね! 明日は神宮なので気合いいれないと!
○○:なおさら早く帰らないとダメじゃん!
和ちゃんに会えたのはとっても嬉しいけど…お家帰りな?
和:はい!だから今から帰りますっ!
○○:あっ…そうだったんだ
じゃあどうせなら送ってくよ!心配だし!
和:あっ、大丈夫ですよ!
気にせず○○さんはお帰りください!!
断られたみたいでちょっと寂しかったが…
自分が帰らないと和ちゃんも帰らなそうだったので
大人しく帰ることにした。
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あともう数分で家だ。
やっとゆっくり出来る…… と思いきや
○○:和ちゃん!! なんでずっと僕の後ろついて来てるの!?
和:私も家こっちなんですもんっ!
○○:あぁ…そうなの…?
ここら辺は住宅街で和ちゃんが住んでそうな家などないと思うのだが……
そんなやり取りをしていると自分の家に到着した
○○:じゃあ僕は家に帰るから…
和ちゃんも気をつけて帰りなね?
僕は一旦家に入って、その後和ちゃんを安全に見送ろうとしていたのだが……
和:よしっ!! じゃあ失礼します!!
○○:ちょ、ちょっと!?
なぜか僕の家に入ろうとする和ちゃん。
急いで止めに入る
○○:ここは僕の家だからっ!!
あなたにはあなたの家があるでしょ!?
和:今日からここが私のお家ですっ!!
○○:は…はい…!?
和:不束者ですがよろしくお願いしますっ!!
○○:ちょっと待って…ちゃんと説明してくれる…?
和:何も説明することなんてなくないですか?
ポカンとした顔でこちらを見つめてくる
○○:はぁ…じゃあとりあえず中入って…
軽くお話聞いたら絶対に帰ってもらうからね?
和:ん…帰りませんけど、とりあえずお家入りましょう!
一体何が起こっているのか?
僕は遠くから彼女を見守れるだけで良かったのに、
こんなに目の前に彼女がいるなんて未だに信じられないぞ……
後編へ続く
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