ほどく(ひなた短編文学賞落選作)

結構よく書けたかもしれない。と自分では思ったんだけど、結果には結びつかなかった。わたしは好きな作品だけど、他の人にはハマらなかった。(もしくは文学賞が求めてる作品のテイストから外れてた)という、よくある話の一つとして、またここに出しておく。作品に対して反省はしない!わたしは好きだ!

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ものにはその形で過ごした思い出がぱんぱんに詰まっちゃってるから、それをほどいて新しい形にしてあげるのがいいわ。それが供養ってもんよ。
と、サエコは築五十年と少しの古い祖母の家の縁側で、あたしたちにとって懐かしいタンポポ色のカーディガンを撫でながら言った。
あたしとサエコが大好きだったこのカーディガンは、あたしの伯母さん、つまりサエコのママが編んでくれたものだった。あれは二十年以上昔。サエコが小学二年生の時だったと記憶している。サエコの家の隣に住む、いとこのあたしは小学一年生。サエコの持ってるものは何でも素敵に見えたけど、とりわけこのカーディガンは光って見えた。
「うらやましかったな、このカーディガン」
あたしがそう言うと、サエコは顔を上げ、ふふ、と微笑んだ。
「わかってる」
昨年祖父が亡くなって、それを追うようにして先月祖母が亡くなり、昨日あたしたちの親とその子どもたちで、祖父母の遺産の形見分けがやっと終わったところだった。この家も住人が誰もいなくなったので、間もなく売りに出されるのだと母に聞いた。
今目にしているこの縁側とも庭の木々とも、もうすぐでお別れだ。
「ホントいうとね、この家あたし欲しかったんだ」
サエコがふとこぼすように、小さな声でいった。
「でも喧嘩になっちゃうから、お金にしてみんなで分けた方がいいなって」
「サエコのとこ、今賃貸だもんね」
「そう。夫の会社にも近いから、都合良かったんだけどさ」
「いろいろ難しいよね」
「そう。で、このカーディガン」
昨日遺品を整理していた時に、古い箪笥の底からサエコの母が見つけたのだった。
「あたしたちが取り合いばっかりしてるから、お祖母ちゃんが隠しておいたんだよね」
「そう。で、それっきりおばあちゃんもあたしたちも忘れてちゃってて、今ここ。あれだけ引っ張り合ったのに、わりと綺麗だよね」
長い年月を経たのに、それは虫食いもなく鮮やかなタンポポ色のままだった。ところどころ伸びた様な跡があるのは、あたしたちが引っ張り合ったせいだ。
「これほどいてさ、編みぐるみ、編もうかなって思うんだ」
サエコが言った。編み物が得意だった伯母に似て、サエコも編み物が得意なのだ。
「いいね。黄色だから、キリンとか?」
「そうだね、悩むなぁ。キリンも可愛いけどライオンとか猫もいいね」
「クマとか犬もかわいいよ」
「うーん、ちょっと考えてみるよ。あたしの技術でできる範囲になるし。それでさ、二つ。だよね」
「そう、二つ」
あたしたちは同じくらい大きくなったお互いの腹部に目をやり、互いのお腹を撫で合った。
ぽこん。
サエコのお腹の赤ちゃんの、動く足が触れた。

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