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【対談】日々人生を感じるー高齢者福祉の魅力って?ーこれからの福祉を考える

「福祉」と聞くとどんなイメージを思い浮かべますか。
どんな仕事をしているのか分からない...なんだか大変そう...

働く人も、支援を受ける人も、社会に生きるひとりひとりが幸福に生きるために必要なことはなんだろう。

自身も福祉に携わり続けてきた筆者が、福祉業界で働く人の声を聞いていきます。

2人目は介護付き有料老人ホームで介護士として働くかなさん(仮名)です。

「この人のために働いている」と実感できる仕事がしたかった

ーー介護付き有料老人ホームでは、日々どんなことをするんですか?

入居者さんの食事、トイレ、お風呂、寝る、起きる、そういった日常生活に欠かせないことのお手伝いをします。高齢者の方が住んでいて、24時間お手伝いしてくれる人がいる施設で働いています。

ーー高齢者福祉の現場で働きたいと思ったきっかけはなんですか?

就職活動をしていた当初、福祉は視野に入っていなかったんです。一般企業を見ていく中で、お金を生み出すために働いているイメージを持って、私はやりがいを持って働けないだろうなと直感して。お金のためだけではなく、「この人のために働いている」と実感できる仕事がしたかった。

高齢者福祉に携わった経験はなかったので、働くと決めた時は周りからも心配されました。「大変そう」という感覚はあったうえで、「すごく素敵だな」と思ったんです。

ーー福祉と一口にいってもさまざまな分野や関わり方がある中で、どうして高齢者に関わる仕事がしたいと思ったんですか?

これは私の考え方なのですが、高齢者って一番守られない気がしたんです。高齢者は成人した大人の親で、成人した大人には親よりも大事に思うパートナーや子どもがいる。親を一番大事にはできないんじゃないかな。そうではない場合もあると思うけれど、おじいちゃんおばあちゃんってすごく寂しいと思ったんです。

朝は紅茶をのむ。小さなことからその人らしさを一緒に叶える

ーー日々高齢者の方と過ごす中で、どんなやりがいを感じていますか?

1回の嬉しいことで10の嫌なことが吹き飛びますね。「ありがとう」って言われるとやっぱり嬉しい。それは「自分ができないことを手伝ってくれてありがとう」だったり、「一緒にいてくれてありがとう」だったりする。手を握ってあげたり、ちょっとお話しただけでも「ありがとう」と伝えてくれるんです。高齢者の方の心の隙間にちょっとでも入り込めたと思えた時にやりがいを感じます。

ーー高齢者福祉は、社会的に「介助する」イメージが強いと思っていて、そこも大切な要素としてありつつ、「一緒にいる」仕事なんだと話を聞いて思いました。

介助は当たり前と捉えているんです。日常生活に欠かせないことがある中で、ゲームをしたり、本を読んだり、自分のやりたいことをやる。なので、24時間の生活の中でその人らしさ、やりたいこと、今まで当たり前にやっていたことを一緒に叶えることを大事にしたいと思っています。趣味でもいいし、「朝は絶対紅茶を飲む」とか、そういう小さなことでもよくて。

高齢者なので、だんだんできないことが増えていく。自分で歩けていた人が歩けなくなって、普通の食事を食べていた人が離乳食のような食事になって、お喋りできてた人が喋れなくなる。その過程で、寝たきりになった人が、元気なときはお花が好きだったからお花を飾ろう、お花の香りがするアロマを焚いてみよう、と試行錯誤をたくさんします。そして、その人が最後に旅立って、家族の方から感謝されたときに達成感を感じますね。

ーー私も1回だけ高齢者施設に行かせてもらったことがあります。人生を歩んできた方々なので、達観している部分がすごくあると感じ、そんなお話を聞くのが好きでした。

私の施設にもいろんな人がいます。社長さんだった人、お医者さんだった人、研究者だった人...。若いときの話を聞くのもとてもおもしろいです。夫婦で入居している方からお互いの話を聞いたり。日々人生を感じていますね。

ーー働く中で、どんな瞬間が好きですか?

いちばんほっこりするのは、家族と楽しそうにお喋りしてるときです。家族が「お母さん来たよ」というと、ぱっと表情が一気に変わって。逆に寂しくなる瞬間でもあります。私たちも一緒に過ごす中で、「ありがとう」と言ってもらえることも、いっぱい笑ってもらえることもある。それでもやっぱり「私たちは私たちなんだ」と思います。

のらりくらり、気持ちによりそいながら

ーー介助をしながら、その人らしさややりたいことを一緒に叶えていく。実際にやるとなったら大変なことも多いのではないかと思うのですが、どうですか?

「スケジュール通りに仕事をしないと」という思いと、入居者さんの気持ちがマッチしない時が大変ですね。「お昼ご飯行きますよ」と言っても、「今お腹すいてないから食べない」と言われたり。入居者さんの気持ちを優先してあげたい思いと、他のスタッフや他の入居者さんに迷惑をかけられない責任の狭間でいつも揺れています。

ーー高齢者福祉の現場で働く中で、難しいと感じることや葛藤はありますか?

認知症の人は感情の起伏が大きくなりやすい特徴があるので、入居者さんの感情の起伏に対応するのが難しいと感じることがあります。そんな時は、距離をおいたり、他のスタッフさんに相談したり。入居者さんの気持ちに寄り添うことが大切な一方で、流されすぎないように意識しています。

ーー働く中で印象的だったエピソードを教えてください。

認知症の入居者さんに、パジャマに着替えて寝かせる介助で、「こんなベッドで寝られるわけないでしょ!」と怒られたことがあります。しまいには「こんな若い人にこんなとこ連れてこられて、私を閉じ込める気なの、なんて人なの!警察に訴えるわ」と言われて、傾聴していたら、泣けてきてしまったんです。その時に、全てを受け止めていたら自分が持たないと思い、のらりくらりする術を覚えました。のらりくらりするのは悪いことではなく、自分に心の余裕が生まれ、温かい気持ちで接することができると思っています。

今まで立派に生きてきた人。彼らの人生を否定しない

ーー今まで働いてきた中で、変化したこと、気づいたこと、今こんなことを考えている、というところをお聞きしたいです。

この仕事は、分かりやすい正解があるわけではなくて。だからこそ、1人1人が正解だと思うんですよね。その人が笑ったら、「ありがとう」と言ったら。つらそうな顔をしていたら、まだ正解にたどり着けていないと思うので、これをやめてみたらいいのかな...とたくさん考える。なので、毎日トライアンドエラーですね。(笑)

ーーかなさん自身は高齢者福祉をどう捉えていますか?

高齢者は今まで立派に生きてきた人で、その方々の人生を否定してはいけない。私たちがすることは、彼らが今できなくなったことに手を差し伸べること。感情が高まっていたり、他者に攻撃的な言動をすることも、その人自身が苦しいという考え方をするんです。なので、苦痛を引き起こさないためにどうするかを考える。その考え方がすごく好きです。

ーー働いている中で、印象的だった体験を教えてください。

この間亡くなられた方で、お好み焼きが大好きなおばあちゃんがいて。口からは食べ物が食べられなくなり、点滴で最期を迎えようとしていて、最後にソースを綿棒でちょっとつけて、乗せてあげたんです。家族に担当の人が提案し、実施しました。入居者さんと家族さんと私たちで、「入居者さんがどうやって最期を迎えたら嬉しいか」を考え、3者で歩いていく。それが私たちの仕事だと思っています。
                  (聞き手:彩)





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