恋も、愛も、わたしを救わない



夜空を見上げ、手を握り、
好きな人と花火を一緒に見る

それだけで幸せで
それだけで嬉しい

手を引き寄せられ
優しく抱きしめられ

彼の甘い香りが、わたしの中で広がり
彼の胸に埋まっていたくなる

少し離れて、お互い見つめた時
彼から「愛してる…」と告げられ

(えっ?…好き…じゃなくて?!)

パニックになり、身体が動かない
彼の甘いキスで、涙が止まらない

(キスって…甘く感じるんだ…)

その時、はじめて知りました



もう遅いからと、
彼は近くにホテルを取ってくれました

朝起きた時、白いシーツに包まる私達は
外国の映画のワンシーンのようで嬉しかった

なぜ、
特定の異性の匂いを好意的に感じるのでしょう
それは、免疫力を補完する相手を求めるから

そのことは知識として知っていました
でも、その時、わたしは
ただ、ただ、彼と一緒にいたかった



彼とお付き合いする様になって
わたしの気持ちは花のように咲き
目に映る全てがキラキラ輝いている

毎日が嬉しくて、毎日が楽しくて

いつまでも続けばいいのにと思う反面、
この幸せが、いつまで続くのか不安でした



そして、気がつくと、
好きだった、もうひとりの彼に
辛く当たるようになっていました



好きという気持ちはわかります
愛してるというのは
どんな気持ちなのでしょうか

愛という概念はいろいろあって
いろいろな解釈があるのは知っています

愛が本能とするなら、
愛は業とか欲なのでしょうか

(失いたくない…)

そう思いはじめた時
切ない気持ち、悲しい気持ちが溢れ、
どうしたら良いのかわかりません



でも、
このままではいけない
このままでは先に進めない
このままではわたしは弱くなる

わたしは二人の彼に
今の気持ちを告白することにしました

今思えば…
罪の意識が強かったのかもしれません

他に好きな人がいること
迷っていて選べないこと
気持ちを整理したいので待って欲しいこと

大学時代から付き合っていた彼は
哀しそうに「そうなんだ…」と呟きました

花火を一緒に見上げた彼は
わたしの前で泣き崩れました



数週間後
大学時代から付き合っていた彼から
会いたいと、連絡がありました

言葉少なく、抱きしめ合い、
静かな静かなキスをしました

彼から、清涼感のある花の香りがしました
物静かで、落ち着いていて、品のある香り

別れ際、彼が静かに話をはじめました

「君と…別れよう…と思う」
「えっ?…なぜ?…」
「今、付き合っている人がいる…」
「じゃあどうして…わたしを抱きしめたの?」
「最後に…確かめたかったんだ…」

こうして、
5年間続いたわたしの恋は
静かに静かに終わってしまいました


◇◇◇


好きだと言ってくれた彼から
別れを告げられたその日の夜
小雨の降る肌寒い中
愛してると言ってくれた
彼のアパートにたどり着いた

冷えた身体を暖めて欲しいと思いながらチャイムを押すと、中から彼の声が聞こえたので、わたしです…と伝えると、

「悪いけど…今日は帰ってくれる?」

後ろめたさもあって
その日はそのまま素直に帰宅した

次の日の夜、彼から電話がかかってきた

わたしの告白から1週間泣き続けたこと
次の1週間"彼女"が寄り添ってくれたこと
その彼女の為に
わたしと別れる決心をしたこと

信じられなかった
バット・エンドというより、デッド・エンド
ありえない…と、涙が流れた

それでも、彼に「わたし…あなたのことが好きなの…」と伝えた

彼は「君は…その時は…いつも本気なんだよね…僕は…気づいたんだ…」と哀しそうに呟いた

彼の言葉は冷たかった
優しさの欠片も無かった

心は(違う…違う…)と叫んでいたけれど、愛はもう無くなってしまって、彼は戻って来ないと悟った時、それ以上何も言えず泣崩れた

恋彼と愛彼の2人に真実を伝えると決心した時、内心、少し誇らしい気持ちだった

言いづらいことだったけれど
恥ずかしいことだったけれど、ちゃんと言える

辛いこと悲しいことが待ってるんだろうけれど
目を逸らさないで、きちんと向き合える

わたしは
正しい行いをするのだから
正しくて明るい未来が待っている

わたしは、
そう信じていたし、そう信じて疑わなかった

でも、
こんな結末になるとは思っていなかった
こんな悲しい結末は望んではいなかった

わたしは、過ちに気づき
正しくありたいと願ったけれど…

その正しさは、その言葉は、その行動は
大切な人を傷つけ、悲しませただけだった

恋も、愛も、わたしを許してくれなかった
恋も、愛も、わたしを迎えに来てくれなかった
恋も、愛も、わたしを選んではくれなかった

わたしは、もう、独りになんて戻れない
百年の孤独になんて耐えられない

記憶をたどり、記憶をめぐり
結末に至るとはじまりに戻り
何度も何度もそれの繰り返し

わたしは絶望という暗い迷路に嵌り込んでいた

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