恋も、愛も、わたしを救わない
◇
夜空を見上げ、手を握り、
好きな人と花火を一緒に見る
それだけで幸せで
それだけで嬉しい
手を引き寄せられ
優しく抱きしめられ
彼の甘い香りが、わたしの中で広がり
彼の胸に埋まっていたくなる
少し離れて、お互い見つめた時
彼から「愛してる…」と告げられ
(えっ?…好き…じゃなくて?!)
パニックになり、身体が動かない
彼の甘いキスで、涙が止まらない
(キスって…甘く感じるんだ…)
その時、はじめて知りました
◇
もう遅いからと、
彼は近くにホテルを取ってくれました
朝起きた時、白いシーツに包まる私達は
外国の映画のワンシーンのようで嬉しかった
なぜ、
特定の異性の匂いを好意的に感じるのでしょう
それは、免疫力を補完する相手を求めるから
そのことは知識として知っていました
でも、その時、わたしは
ただ、ただ、彼と一緒にいたかった
◇
彼とお付き合いする様になって
わたしの気持ちは花のように咲き
目に映る全てがキラキラ輝いている
毎日が嬉しくて、毎日が楽しくて
いつまでも続けばいいのにと思う反面、
この幸せが、いつまで続くのか不安でした
◇
そして、気がつくと、
好きだった、もうひとりの彼に
辛く当たるようになっていました
◇
好きという気持ちはわかります
愛してるというのは
どんな気持ちなのでしょうか
愛という概念はいろいろあって
いろいろな解釈があるのは知っています
愛が本能とするなら、
愛は業とか欲なのでしょうか
(失いたくない…)
そう思いはじめた時
切ない気持ち、悲しい気持ちが溢れ、
どうしたら良いのかわかりません
◇
でも、
このままではいけない
このままでは先に進めない
このままではわたしは弱くなる
わたしは二人の彼に
今の気持ちを告白することにしました
今思えば…
罪の意識が強かったのかもしれません
他に好きな人がいること
迷っていて選べないこと
気持ちを整理したいので待って欲しいこと
大学時代から付き合っていた彼は
哀しそうに「そうなんだ…」と呟きました
花火を一緒に見上げた彼は
わたしの前で泣き崩れました
◇
数週間後
大学時代から付き合っていた彼から
会いたいと、連絡がありました
言葉少なく、抱きしめ合い、
静かな静かなキスをしました
彼から、清涼感のある花の香りがしました
物静かで、落ち着いていて、品のある香り
別れ際、彼が静かに話をはじめました
「君と…別れよう…と思う」
「えっ?…なぜ?…」
「今、付き合っている人がいる…」
「じゃあどうして…わたしを抱きしめたの?」
「最後に…確かめたかったんだ…」
こうして、
5年間続いたわたしの恋は
静かに静かに終わってしまいました
◇◇◇
好きだと言ってくれた彼から
別れを告げられたその日の夜
小雨の降る肌寒い中
愛してると言ってくれた
彼のアパートにたどり着いた
冷えた身体を暖めて欲しいと思いながらチャイムを押すと、中から彼の声が聞こえたので、わたしです…と伝えると、
「悪いけど…今日は帰ってくれる?」
後ろめたさもあって
その日はそのまま素直に帰宅した
◇
次の日の夜、彼から電話がかかってきた
わたしの告白から1週間泣き続けたこと
次の1週間"彼女"が寄り添ってくれたこと
その彼女の為に
わたしと別れる決心をしたこと
信じられなかった
バット・エンドというより、デッド・エンド
ありえない…と、涙が流れた
それでも、彼に「わたし…あなたのことが好きなの…」と伝えた
彼は「君は…その時は…いつも本気なんだよね…僕は…気づいたんだ…」と哀しそうに呟いた
彼の言葉は冷たかった
優しさの欠片も無かった
心は(違う…違う…)と叫んでいたけれど、愛はもう無くなってしまって、彼は戻って来ないと悟った時、それ以上何も言えず泣崩れた
◇
恋彼と愛彼の2人に真実を伝えると決心した時、内心、少し誇らしい気持ちだった
言いづらいことだったけれど
恥ずかしいことだったけれど、ちゃんと言える
辛いこと悲しいことが待ってるんだろうけれど
目を逸らさないで、きちんと向き合える
わたしは
正しい行いをするのだから
正しくて明るい未来が待っている
わたしは、
そう信じていたし、そう信じて疑わなかった
でも、
こんな結末になるとは思っていなかった
こんな悲しい結末は望んではいなかった
◇
わたしは、過ちに気づき
正しくありたいと願ったけれど…
その正しさは、その言葉は、その行動は
大切な人を傷つけ、悲しませただけだった
恋も、愛も、わたしを許してくれなかった
恋も、愛も、わたしを迎えに来てくれなかった
恋も、愛も、わたしを選んではくれなかった
わたしは、もう、独りになんて戻れない
百年の孤独になんて耐えられない
記憶をたどり、記憶をめぐり
結末に至るとはじまりに戻り
何度も何度もそれの繰り返し
わたしは絶望という暗い迷路に嵌り込んでいた
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