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フランスから食関連ニュース  2019.10.29

フランスにおける旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。

1. 今週の一言

フランス第二の規模を持ち、美食の町として知られるリヨン市。1872年創立の歴史あるグランゼコール、EMリヨン経営学大学院があり、1968年に「ル・プチ・ポメ(文無しの意)」という任意団体が生徒たちの中で立ち上がって、以来、毎年秋に同名でシティ・ガイドを無料で発行しています。今も約30名の学生有志が関わっており、大半がレストランを紹介するガイド。「ル・プチ・ポメ」がおすすめする店はRPPP(recommandé par le petit paumé)の印が入ります。リヨン市民は、フェスティバルも兼ねてお祭り騒ぎとなる毎年の発行を楽しみにしているのですが、今年の51版目「ル・プチ・ポメ2020」は、10月12日に発刊されたものの、その内容が物議を醸し、さまざまな催しが禁止されました。11月16日にはリヨン市を挙げて開催されるクリスマス・マーケットで、フリーで配布されるはずでしたが、リヨン市警備委員会は「ル・プチ・ポメ」の参加を却下。リヨンのコミューンであるヴィルールバンヌ町もすべての配布を拒否。EMリヨン経営学大学院学長も「ル・プチ・ポメ2020」は、学校組織とは独立したものでコントロール下にはないと釈明しながら、学校の名を汚すものとして、構内での配布を禁止して、さらには発禁さえも求めています。7500ユーロの補助金を支給しているリヨン市は、編集長に説明を求めているという始末です。

実は「ル・プチ・ポメ」はぎりぎりの表現で批評を繰り返し、今までも実は訴訟問題になったこともありました。今年のガイドは、有色人種への差別や宗教問題、身体の不具を持つ人への中傷など、誰の目を通しても不快に感じる表現が頻発していたことが問題だったのです。「ル・プチ・ポメは、今までも暗示的な表現を好んでおり、それは差別ではない」とは編集長の言。ムハンマドの風刺画からイスラム過激派テロリストに襲撃されたシャルリー・エブドの事件を思い出さざるをえませんでした。ヴィルールバンヌ町は、町を挙げて、必死で人種問題と戦っているというのにと、ガイドの浅はかさを非難していました。そんななか、フェイスブック上のある情報が検閲にかけられ、消去されたのではないかと嫌疑がかけられて問題になっています。国鉄の労働組員たちが、唯一の情報交換手段としているフェイスブックに、労働管理局がコントローラー(警備員)がいない場合、職務を拒否できるという条例が発表されたのをいち早くアップしていたが、それがブロックされた。結果的に、フェイスブック側の操作ミスだったということでした。

情報は、このように即座に発信し分かち合うことのできる時代です。だからこそ、多くの人々の目にさらされる。何らかの感情を波立たせることもできる。弱者を生み出す手段ともなってしまい、コントロールもでき、されている。発信する自由を手にしているからこそ、それには責任を伴うこと、一方的でない深い反芻と知識とが必要であるということを、発信する側として、己に課さなければと感じます。

映画の父と言われるフランスの発明家リュミエール兄弟。エジソンが開発したのぞくタイプのキネトスコープを、多くの人がひとときに鑑賞できる、投影するタイプのシネマトグラフを1894年に開発して、映像作品を1422本残しています。多くの作品は、見えるものを撮影しただけのものでしたが、その中の、はじめてのフィクションは、コメディでした。単純な笑い、滑稽さの力強さが、多くの人々に笑いをもたらしましたが、滑稽さと中傷との境界線を知ることができるのは、叡智と思います。

2. 今週のトピックス

【A】リサイクルコーヒーのゴマージュクリーム、新発売 ナチュラルを謳ったウェブコスメクリエーター・マガジンPrescription Labの新商品は、コーヒーの出がらしを使ったボディケアのためのゴマージュクリーム。ひまわり油とココナッツオイルなどの植物油をベースに出がらしコーヒーと砂糖をミックスしたもので、カフェインによる肌の活性化効果を謳っています。コーヒーは11区のカフェとのコラボレーション。出がらしコーヒーをリサイクルしています。容器もリサイクル・プラスチック由来で、もちろんリサイクル可能です。https://www.prescriptionlab.com/

【B】世界大都市気候先導グループ、世界都市サミットC40開催 3年毎に開催される世界都市サミット「C40」が、スウェーデン・コペンハーゲンにて10月8日に行われました。「C40」の正式名称は世界大都市気候先導グループ(The Large Cities Climate Leadership Group)で、2005年に前ロンドン市長ケネス・ロバート・リヴィングストン氏が中心となり創設された都市サミットです。2016年からはパリ市長アンヌ・イダルゴ氏が議長を務めていましたが、今年からはロサンゼルス市長エリック・ガルチェッティ氏が議長を3年の任期で務めます。

参加都市である世界94都市の市長、あるいは代表者が集合。今回は若者代表として「ZERO HOUR」を立ち上げたアメリカ人のジェミー・マルゴリンさんを招待したことも話題となりました。マルゴリンさんが「あなた方市長が必要なことに対処していくか、あるいはあなた方が退場するかです」と、はじめの言葉を述べて開会。

食生活を見直すことこそが地球を救うとし、そのことにより食環境におけるCO2の60%減を約束できると発表。さらに2030年には2015年比でゴミを半分に減らすこと、また、パリ、ソウル、メキシコ・グアダラハラなど14の都市が「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」と称して、学校給食や市職員食堂などの見直しを図ることを約束しました。総合すると1年に5億食が対象に。アンヌ・イダルゴ市長は、2050年には学校給食の90%を持続可能な食材由来にする、市職員など公の施設の食堂において、肉食の20%減を目指し、ヴェジタリアン食も推奨していくと発表しました。

【C】成人の食事改善のための全国キャンペーン開始 フランスは国民の健康を改善するために、2001年より全国栄養健康プログラムを推進していますが、毎年行われる調査にて近年の結果を鑑み、国を挙げて、成人の食事改善のための全国キャンペーンを10月22日より1ヶ月にわたり開始することになりました。

調査によって明らかになった数字は以下の通りです。

18歳から54歳までの成人の男性の85%、女性の94%が1日の食物繊維の摂取量として望ましい25gの目標値を達成していない。

成人の60%以上が全粒のシリアルを取り入れていない。

83%が推奨される飽和脂肪酸量の摂取量を超えている。

63%が1週間に150g以上のシャルキュトリー類を食している。

30%が甘味飲料を1日に1杯以上飲んでいる。

以上を受けて、「フルーツや野菜、乾燥野菜の摂取量を増やすこと」や「運動量を増やす」、「自分の家で調理する」、「オーガニック食品、季節のものでローカルの食材をできるだけ摂取」、「魚は脂身の少ないものと多いものを交互に食する」、「乳製品、全粒粉のもの、オメガ3の豊富なオイルやオリーブオイルをバランスよく摂取」、「肉やシャルキュトリー、アルコール、甘味飲料は控える」などを推奨して、健康に良い食生活を提案しています。

テレビやソーシャルネットワークでのプロモーションの他、全国栄養健康プログラムが立ち上げたサイト「Manger bouger(食べて動こう)」上では栄養摂取教育を目的とした、レシピ提案や質疑応答式として、多くの人々にわかりやすくアクセスしやすい扉を設けることに。https://www.mangerbouger.fr/

経済格差によって陥りやすい栄養不足を解決するための、さまざまな工夫もサイト上で提案しています。

【D】クラフトビールブームでフェスティバル爛漫 フランドル・フランセーズと呼ばれるフランス北部地帯(オー・ド・フランス地域圏)はベルギーと同様ビールの生産地としても知られてきました。フランスではドイツと隣り合うアルザス地方に次ぎ、2番目の生産量を誇ります。その首府リール市で今年4回目になるビールのフェスティバル「ビエール・デュ・バル」が11月4日から1週間にわたり開催されます。リールのさまざまなカフェやバー、ブラッスリーなどでビールのテイスティングやペアリング、ビール料理、生産者とのディスカッションなどを用意。週末9、10日にはリールのサン・ソヴァール駅にて大きなイベントが。フランス19県、世界16カ国にわたる70以上の生産者が一挙に集合し、すべてのビールを試飲できるという滅多にない機会となります。https://www.bierealille.com/

カナダ・モントリオールで始まった「モンディアル・ドゥ・ラ・ビエール(ビール世界大会)」は、パリでも2016年から5月に開催され、今年4回目と「ビエール・デュ・バル」に呼応しています。https://www.mondialdelabiereparis.com/

いずれもフランスのビールブームが背景に。ワインの消費量が減少傾向なのに対して、2018年にはフランス人の1年のビール消費量が32リットルと前年に比べて2リットル増。この傾向は2015年から続いています。ヨーロッパの平均消費量が70リットルであるのに比べれば、まだまだ及ばないのですが、クラフトビールの伸び率が消費を牽引しているのが特徴です。2006年にはクラフトビール醸造所が246社だったのに対し、2018年には1100社に。現在は毎日1社が創立されている計算になるそう。全体のビール売り上げ高の7%を占めていますが、2016年よりそれを2倍に伸ばしています。「テレビを見ながら、チップスとビール」というイメージを離れて、ビールを味わうという楽しむ層が厚くなっていくのでは。大手ビール会社もクラフトビール製造への参入に投資を決めています。日本酒のコンクールKura Masterの代表者でもある、ホテル・ル・クリヨンのソムリエ、グザヴィエ・チュイザは、ガストロノミーダイニングのペアリング・コースメニューの一皿にクラフトビールを合わせて出すこともしばしばです。

3. 今週の日本@フランス、ワールド

【A】JFOODO、日本酒のプロモーションのためのポップアップレストランをパリに JFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)は、2017年4月1日付でJETRO(日本貿易振興機構)に設置された日本産農林水産物・食品のプロモーション組織。この秋、パリにおける日本酒の市場拡大を狙って、ポップアップイベントを開催することに。10月31日から11月2日にかけて、サンジェルマン・デプレ界隈の魚専門ビストロ「ユゲット」にて海鮮と日本酒のペアリングメニューを提案するという内容。「海鮮には白ワイン」といったステレオタイプな楽しみ方ではない日本酒とのペアリングを、日本酒のエキスパートとソムリエが常駐の店内に設けたポップアップ・スペースで提供するということです。注文した料理に対し、日本酒1杯がフリーで振る舞われます。料理はオマールや帆立のリエット、カニ、牡蠣、エビのセビーチェ、ムール貝、チーズ、またデザートも用意します。https://foodandsake.com/

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