見出し画像

つまるところ便秘外来に行ってきた

「なぜ同じことを何度も?これで8回目だよ!」

「えー、なんでだろう、ちゃんとつけたんだけどなあ。」

生後5ヶ月ごろまで、夫婦間の小競り合いの原因の上位3番以内を常に占めていたのが、この「う○ちがオムツから漏れる問題」。しかも、なぜか「汚れ物をいまから洗うのは…トホホ。」というような活動エネルギーが底をついた夜更けの時間によくよく起きるのだった。この、う○ちさん、今後は敬意の意を込めて「殿」と呼ばせていただこう。

育児中のパパママさんたちには100%共感いただけると自負して止まないが、このお殿、非常に頻繁にオムツから外の世界へはみ出ていらっしゃる。どんなに日本製のオムツの質がよかろうとも、どれだけ注意深く、思慮深く、そして懇切丁寧にかつピタピタと1億円のダイヤモンドに触るようなソフトタッチでもってテープを閉めたとしても、手をぐーに高く掲げて誓っても良いが、絶対に絶対にオムツから漏れてくるのが新生児の「お殿」だ。

決してオムツメーカーを批判しているわけではない。現代のオムツは恐ろしいほどに高品質で赤ちゃん自身もおしっこをしたのにも気づかないくらい、ふわふわで快適で速乾性に優れている。蒸し暑くてもお尻がかぶれて、お猿さんのようにお尻が真っ赤っか、ということもない。ロシアには、「パンペルス」(パンパース)という「オムツ」をさす日本語由来の単語があるくらいだ。かつて日本海側の県や北海道に大軍のように押し寄せてきたロシア人の中古車販売業者や筋骨隆々のバカでかい漁師さんたちも日本に着くやいなや、まずはこぞってこの「パンペルス」の爆買いに翻弄することになる。美人な恐妻から何が何でも手に入れてくるべし、とお達しがくだっているのか、極東で販売もしくはさらに5,000キロ先のモスクワやサンクトペテルブルクといった大都市が連なる欧州部へシベリア鉄道でえっちらおっちら運ぶためなのか…

個人旅行客も同様だ。モスクワの空港で日本からの到着便は荷物を見ればすぐにわかる。これでもかとビニールで簀巻きにされたスーツケースに加えて、箱買いしたパンぺルスがターンテーブルをグルグルと旋回していたらそれはほぼほぼ日本から帰ってきたロシア人御一行様たちで間違いない。ちなみに私がロシアに駐在していたころはロシア人にとって日本といえば、「トヨタ、ホンダ(選手)、パンペルス」だった。モスクワに着任したのが、東日本大震災の5日後(本当は翌日だったが突如JAL便が運休となり、4日間空港待機となった)ということもあり、それ以降、これらに「ツナミ」が仲間入りした。

ちなみに、ますます余談だけれど、ロシアの一般市民レベルでは実に親日家の人が多く、大震災から5日後にロシア入りした我々は、どこに行っても日本人か、と聞かれ日本人だと答えると、「日本は大変だった」、「よく頑張っている」と励まされ、夜に飲食店に入ったものならソ連の苦しい苦悩の時代を生き抜いてきた世代の猛者たちに、背中をバシバシとたたかれ、激励され、そして「俺たちの奢りだ!」と言って決して高くない所得の中から1杯、2杯とご馳走してくれるのだった。大抵はウォッカのショットグラスで「日本に乾杯!」と言われながら、ラテンのノリで「アミーゴ!」バリにしこたま飲まされる羽目になる。タクシーに乗れば、日本人なら端数はいらない、ささやかな気持ちだ、と言われ、大使館宛にはあまりにもたくさんの献花や贈り物が届くので、大使館の正門前に献花台が作られたほどだ。なかなか日本で報道されることが少ないが、当時これがロシアの一般市民の日本に対するリアクションだった。

ということで、何度も言うが、お殿が漏れ出てくるのは国際的にも信頼が厚い日本製のオムツのせいではない。たー坊は、出生後総合病院に緊急搬送されてから1.5ヶ月弱入院していたが、その期間中も勝手気ままにブリブリとお殿を豪快に下界に送り出していた。時々浣腸を使っています、と先生や看護師さんから様子を聞いてはいたが、結局退院後自宅に戻ってからは浣腸を使うことは一度もなく、出ない時は綿棒で肛門刺激をして出すことはあったが、基本的には上述の通り順調すぎるくらいブリブリ君だった。

生後5ヶ月頃になると、周囲の同じ月齢の子たちは首が座ったり、早い子だと寝返りを始めたりした。セッカチ母としても、ター坊はそろそろ首がすわって寝返りをするんじゃないかと、生後4ヶ月ごろから一人ソワソワしていたため、このタイミングで意味もなく、たー坊にパンツタイプのオムツデビューをさせてみた。今でも鮮明に覚えている。深く後悔したことを。パンツタイプデビューしたその瞬間、お殿様がブリブリと下界へ降りいらっしゃり、それはもう凄まじい勢いだったもんだから、大人しく寝ているたー坊の背中から、腰のあたりから、重力とは逆方向に這い伝い、自由を手に入れたお殿様はついにベビーベットという大海原へとダイブしていった。悲鳴にならない声を上げながら、オロオロ、アワワアワワでお風呂場へたー坊を担いだ。以来、山よりも深く猛省したセッカチママは、二度とオムツタイプは履かせまい、としてテープタイプに戻した生後6ヶ月ごろ。

この頃、たー坊のブリブリ事情が急変し始めた。離乳食を食べ始めたこの頃からお殿様がウンともすんとも言わなくなった。以来、自力で出ることはなく、綿棒で肛門を刺激してクリクリとお殿様を呼び出す日々に変わっていった。今思えばブリブリからクリクリへ、殿は極端すぎる変貌を遂げた。それでもその後も1日1回は綿棒の力を頼りに快便が続いていた。

が、生後9ヶ月を目前についに殿は忽然と姿を消した。綿棒で肛門刺激をしようにも、9ヶ月となれば、さすがに寝返りをしないたー坊でもそれなりの力で手足をバタバタしたり、のけぞったりするもんで、そもそもジッと大人しくもしていない。かと言って、たー坊が動くことで殿が出てこられるかというとそうもいかないわけで。主治医の先生に相談しても誰に相談しても、「ダウン症の子は腹筋が弱いから」、「首座りとか寝返りとか発達が遅いから離乳食の時期から便秘になる子が多いんですよ」とそれはもう口を揃えておっしゃる。もちろん、発達が遅いのも、腹筋が弱いのもわかっている。待つしかないことも。

でも目の前では、お殿様の立てこもり事案が発生中。じゃあ、発達が進み、腹筋がつくまでどうすればいいんですか?と。誰に聞いても明確な答えはなくて、離乳食で食物繊維の多い食材をあげても、プルーンを加熱してブイーンと初期食にして口に運んでも、最後の頼みの綱として赤ちゃんマッサージに参加してお腹をぐりぐりと撫でてマッサージしまくっても、何をしてもうんともすんとも言わないたー坊のお殿様なのでした。

とにかくお殿様を下界に放流べくどうすべきか悶々とする中、ふと入院していた頃にイチジク浣腸を病院に持参していたことを思い出した。当時教わった通り、幼児用のさらに半分の量にしたものを使ってなんとか殿を引きずり下ろすことに成功。でも、ふと「本当にこれでいいのか?」という思いが頭をよぎった。一旦頭をよぎるといてもたってもいられないのが性分で。Google先生に質問をぶつけてみるも、「浣腸はクセになる」という趣旨の情報で溢れかえり、どうしたもんかとさらに悶々とする日々。旦那さんと殿のブリブリ事案で小競り合ってた頃はなんてハッピーだったんだ。

そうした中、ふと「便秘解消のプロっているんじゃないの?」という疑問が湧き出てきた。これはまた摂食外来のように私が知らないだけではないかと。内科とか?消化器科?とか?・・で、「赤ちゃん 便秘 外来」で再度Google先生に聞いてみたら、なんとまさかのまさか、「便秘外来」なるものがあることを発見!餅は餅屋。プロの人に相談したい、という一途な思いはますます膨らみ、ついに念願かなって小児専門の便秘外来に行ってきた。

そもそも、便秘外来なるものがあるということに驚愕し、さらに先生が本当に小児の便秘専門の方で、ダウン症に限らず、鎖肛や腸の疾患・障害を持った赤ちゃんや健常児の便秘の子の診察など、経験がとても豊富であることにただ目を丸くするばかり。先生から治療法や対処法などを聞き、浣腸はクセにならない、ということも断言&明言いただき、定期的に通院することに。

前回の初診から2週間後。先日再診に伺った際に先生から「便秘解消に向けて本気の覚悟で取り組みますか?」と不意打ちで覚悟感を聞かれ、「ええ、はい。覚悟します」としどろもどろ答えたら、「わかりました。時間はかかる覚悟でじっくり取り組みましょう」と言われた。

「時間がかかる」ってどのくらい?!半年、1年、2年?というグルグルの自問自答を経て、「時間がかかるって、ちなみに、どのくらいですか?」と絞り出した質問に、あっさり「5年くらいは覚悟していただけると」と回答をもらい、とてつもなくガーンな母なのでした。次回パリ五輪までか・・

でも、その先生、「便秘についてどこに行っても誰に聞いても、ダウン症の子は腹筋が弱いから仕方ないと言われるばかりでどうしたら良いか途方に暮れていて・・」と最初に切り出した時、すかさず、

「そうですよね、でも便秘は目の前で起きているわけで、じゃあどうしたらいいの、という話ですよね」

と、まるで踊る大捜査線の青島・室井氏の「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」のような名台詞。心の声をピタッと読み当てられたことに衝撃を受けつつ、その後の便秘に至る仕組みや原因、実際に先生が携わった症例などを聞いて「殿のことはこの先生にお任せしよう」と覚悟を決めたのでした。

病院までは電車とバスを利用して片道1時間半。しかも超人気というか、信頼が厚いというべきか、予約が先までいっぱい。ウェブでの当日予約にトライしたところ予約開始から3分後には枠が満了になるという恐るべしクリニック。何とか当日予約をとったら診察までになんと4時間超。雨が降ったものならば容易に心が砕けそう。1ヶ月後であれば事前予約が取れるということで次回からは事前予約を利用して通院することに。

4年後には殿が立派なブリブリ君に成長していることを心から祈って・・

【果たしてきみはブリブリ君になれるだろうか】

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?