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ショートショート023『告白雨雲〜とある取調室にて』

ここはとある県警の取調室。
今日もとある事件の容疑者を捕まえて、こってり絞っている最中だ。
初犯のくせに、なかなか自白が引き出せない。
べらべらあることないこと喋ってばっかりで、ちっとも終わりが見えない。
証拠はそろっているのに、困ったなぁ。

と思っていたら、僕の先輩兼相棒のとある刑事がビーカーとガラス棒を持ってやってきた。
理科の実験で使う、あれだ。
ビーカーの中身はどろっとした白い液体とさらっとした黒い液体。
僕はあれを見るたびに、黒ごま杏仁豆腐に見えてしまう。
「なぁ、やっこさんよ。杏仁豆腐でも食うか?」
先輩刑事がそう言って、容疑者の前に置いた。
黒ごま杏仁豆腐に見えていたのは、先輩も同じなのか。

「あれー、買収ですかー? 警察がこんなことしていいのかな? 釈放されたら、SNSで広めますよ? いひひ」
容疑者は汚い顔をさらに歪ませて、ガラス棒を手にした。
たぶん、スプーンだと思っているのだろう。
ひょいとすくい上げたその時、むわっと黒い雲が広がった。
「うえっほん、ぐえっほん。えほっ、えほっ。うわ、冷た! なんだこれ、氷水が降って……ぶえっくしょ! わああすみません、もうやめてください。本当は……俺が、俺がやりました。認めますから、どうかこの雲を取って!」
「よし、今回の犯行を認めるんだな? この証拠一件ずつ聞くぞ」
先輩刑事がぐいっと容疑者に詰め寄った。
「はい! 喋りますから、このまとわりついてる雲をどうか! 寒い!」
容疑者はぶるぶる震えて、椅子がガタガタ言っている。
僕は別の席で調書を取りながら、今回も先輩の手柄だなぁとため息をついた。

この先輩刑事、実は刑事兼サイエンティストなのだ。
様々な実験を繰り返し、次々と警察アイテムを作り出している。
特にこの「告白雨雲」は超大ヒット作だ。
ビーカーの2つの液体を混ぜると、雨雲が発生し、みぞれを降らせる。しかもそれは自白剤に似た効果があるのだ。
法的に大丈夫なのか、という声もあるが、警視庁も時々使っているようなので、まぁ不問に処す、というところなのだろう。

「先輩、今回はみぞれの量が多かったですよ。片付けるの僕なんですから、次は調整してくださいよ?」
僕は口を尖らせながら、モップで濡れた場所を拭く。
「あぁ、すまん」
先輩は僕の調書を読みながら、上の空で答えた。
まったくもうとぶつくさ言いいながら、僕は雨雲とみぞれが顔にかからないよう気をつける。
いつも減らず口叩くくせに、実は先輩が好きだなんて告白してしまったら、コンビに支障が出てしまうからね。
それは僕が刑事人生をかけた秘密だ。

<了>
(『沈黙のパレード』の記事を書いたので、こんなんが浮かんでしまいました……。しかもまた文字大幅オーバー。すみません)


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