見出し画像

調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律案 についての調査★政治家女子48党浜田聡議員のお手伝い

 今まで調べた法律は、すべて一部改正の法律案でした。つまり、すでに施行されている法律を、時代の変化などに適応させるために部分的に改正、する提案です。今回は、新たに立法される、ということです。
 令和5年4月4日に衆議院法務委員会にて、この議案を含め、法務省提出3法案が審議され、全会一致で採択すべきものと決した、と法務委員長が本会議で述べています(1:11~)。

 どのような意見が交わされたのか、調査の参考のためと議事録や録画動画を探しましたが、見つけることができませんでした。
 3法案のうちのひとつは、こちらのnoteに調査結果が報告されています。

 本調査について述べる前に、このADRについて詳しくは、このnoteをご参照いただけるとよいのですが、簡単に触れておきます。
 ADRとはAlternative Dispute Resolution 法律用語では「裁判外紛争解決手続き」のことです。裁判外、ですから、訴訟や起訴により弁護士をつけて争う以前に、調停や示談などで和解して解決するということです。
 
 本ブログでとりあげる法律は、これを外国との(国際的な)ADRが進められるように、我が国の法律を改正する、ということになります。
 
では、本法律について、まず言葉の意味から調べていきます!

調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法案 

  

シンガポール条約

 ここでまず「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約」とはなにか、をみていきます。
 これは、2018年に採択されたいわゆる「シンガポール条約」※のことを指していると考えられます。
 ※正式名称 「シンガポール国際商事仲裁センターにおける解決手続きに関する国際協定 United Nations Convention on International Settlement Agreements Resulting from Mediation」
 

法務省HP「調停に関するシンガポール条約」概要 p1

 概要にもあるように、シンガポール条約が締結される経緯として、
国連総会で1966年に設置された、UNCITRAL(United Nations Commission on International Trade Law)国連国際商取引法委員会が国際間での商取引が円滑にすすむために条約や規則などを調整してきたようです。
 ここで、なぜシンガポールなのだろう?とふと疑問に思いました。

なぜシンガポール?

 1991年にシンガポール国際仲裁センターSIAC(Singapore International Arbitration Centre)が設立され、企業間の国際商取引での紛争を、裁判ではなく仲裁によって解決することがグローバルスタンダードになっている、とのことです(TMI総合法律事務所ブログより)。
 そして、このSIACの評判がとてもよいようです。過去10年間の仲裁の申し立て件数は、2020年で1,080件にのぼっている、とのことです。このうち94%の1,018件が国際紛争とのことです。

(シンガポール・アニュアルレポート(2020)より抜粋) https://www.siac.org.sg/images/stories/articles/annual_report/SIAC_Annual_Report_2020.pdf

TIM法律事務所の見解では、シンガポールがこのような仲裁地としてふさわしい理由をこのように分析しています。

(前略)これまで香港を中心に活動をしてきたグローバル企業が、中国による香港への圧力を懸念してその活動拠点を他の地域・国に分散する傾向にある中、シンガポールはその取り込みにも熱心であり、紛争処理についてもシンガポールのSIACに流れているように思われます。

さらに、米国と中国との間で緊張感が高まる中、シンガポールであればいずれにも肩入れすることなく比較的中立性が保たれていると考える企業が多いことも理由の一つと考えられます。

いずれにしても、この数値から見て明らかなように、国際仲裁機関としてのSIACは益々盛況であるといえます。

シンガポールは、裁判所にしろSIACにしろ、その広報活動に大変熱心で、それを裏打ちする充実した設備(各種会議室や最新機器、IT化)が備わっている上、その更なる拡充が続けられています。シンガポール、SIACが国際仲裁機関及び仲裁地として現在の地位を確立した要因としては、当然、アジアのビジネスハブとしての地の利があることや、イギリス法をルーツとする実体法や手続法が安定していること、言語が英語で利用しやすいこと等が挙げられますが、国際仲裁のハブとなることを目指し、国を挙げてプロモーションを実施したことによるところも大きいと思われます。

TMI総合法律事務所ブログより(文中の太字は筆者によるもの)

 シンガポールが、国際的な調整役としてこのように重要な役割を担っていること、それを国策として推進してきたことを今さらながら知りました。
日本も、このような役割を担うポテンシャルがある国だと思います。中国が絡んでいる枠組みでは難しいかもしれませんが、QUADなど、対中国を見据えた国際機関ではその役割を発揮できることを願います。

 このような背景があって、シンガポール条約が制定される運びになったことが納得できました。

そして、法務省の概要にかかれているように、このシンガポール条約に批准する(自国の法律を、国際条約に適合するように調整した上で従うことを約束すること)ために、自国の法整備が必要であり、その法整備に準備期間が必要だったということです。ADRの強化もその一環と思われます。
 関係する法律は、次のようなものです。

法務省HP シンガポール条約(概要)p2

法律案の理由

そして、今211回国会に提出された法案では、新規に法律文が作成されました。理由はこちらです。

調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の締結に伴い、その的確な実施を確保するため、和解の仲介を行う手続において成立した国際和解合意に基づく強制執行を可能とする制度を創設する必要があ る。これが、この法律案を提出する理由である

法律案と理由

  これを読むと、外国間との紛争解決において、国連機関で締結した条約には日本としてこれに賛同し、国内の法律を整えることは必要な事だと言わざるを得ないと思いました。

法律案要綱

 法律文要綱を読みますと、主なポイントとしては以下のようになります。
 〇 「調停(人)」「国際和解合意」の言葉が刺す意味を定義する。
 〇 法律の適用範囲を規定する(何を除外するかも規定する)
 〇 和解を執行する手続きの規定
 〇 裁判所が申し立てを却下できる場合の規定
 〇 その他、裁判を進めて行く上での記録方法や手続き的な規定

 この中で、気になった点が二つあります。

〇 和解を執行する手続きの規定
 について、このような文がありました。

国際和解合意に基づいて民事執行をしようとする当事者は、債務者を被申立人として、裁判所に対 し、執行決定(国際和解合意に基づく民事執行を許す旨の決定をいう。以下同じ。)を求める申立てを しなければならないものとすること。(第五条第一項関係)

法律案要綱p4

 そもそも裁判ではなく調停で解決するための「和解合意」に関するものではありますが、民事執行から先の内容は、前掲した地方自立ラボさんのnoteで解説されている、日本国内のADR,ODRの現状への是非、にグラデーションしていくように思いました。

 次に、
〇 裁判所が申し立てを却下できる場合の規定 

 7国際和解合意の対象である事項が、日本の法令によれば、和解の対象とすることができない紛争に 関するものであること。
 8国際和解合意に基づく民事執行が、日本における公の秩序又は善良の風俗に反すること。

法律案要綱p8

 いくら、国際和解合意が望ましいとはいえ、日本の法令や、日本での常識的な価値観に照らすと、申し立てを認められない、ということは確かにあるんだろうな、とは思いました。具体的にどんなことがあるのか。。。ちょっと想像がつきませんが、宗教的、文化的なことが発端の紛争かな?と。相容れないものもありそうです。


 新しく法律ができるとともに、従来の法律との整合性をとるために、太字が新設(追加)されました。こちらは単に文言を追加しただけ、という感じです。こちらは参考まで。(新旧対称表より)

① 民事訴訟費用等に関する法律  別表八の二 仲裁法 
平成十五年法律第百三十八号)第四十四条第一項又は第四十六条第一項の規定による申立て又 は 調 停 に よ る 国 際 的 な 和 解 合 意 に 関 す る 国 際 連 合 条 約 の 実 施 に 関 す る 法 律 ( 令 和 五 年 法 律 第 号 ) 第 五 条 第 一 項 の 規 定 に よ る 申 立 て 
四千円

② 民事執行法 第二章 強制執行 第二十二条 (債務名義)
六の四 確 定 し た 執 行 決 定 の あ る 国 際 和 解 合 意

法律についての調査は以上になります。

筆者の感想と採択/不採択

 この法案は、令和5年4月21日㈮ 参議院本会議で採決されます。シンガポール条約締結に伴い、国内の法整備が必要、という流れは理解します。国際間の問題を、今の日本が、国連を無視しして独自に解決することは不可能です。ですから、この法律の理由には賛同します。そして、趣旨は素晴らしく望ましいことです。 ですから、この法律には賛成です。
 しかし、運用など、その実行が現場現実に近づくほど、結果が法律の趣旨から離れ、何のために法律(省政令を含める)を整備しているのかわからなくなってきます。
 政府が全てを規定できるのでしょうか。
 今、AIの進化のスピードがすさまじい世の中です。このような変化のスピードに、日本の細かい法律が追い付くのか大変疑問です。
 今まで法案調査をいくつかしてきましたが、すべてに共通して感じていることがあります。法律の趣旨(大義名分)は高らかに述べられるけれども、その大義名分を国民に(現場現実で)守らせるために、微細な許認可を中央集権的に集約し(なんとかセンター、なんとか協会etc.)、権威付け(認可)して(価値観を規定する)例外を認めない、というワンパターンです。 
 どうか、議員、省庁のみなさん、本来の法律の趣旨を忘れず、法律を整備してくださることを一人の国民として願っています。

かわさき減税会
減税あやさん💛


よろしければサポートをお願いいたします!行政研究、地域の活動へ生かして参ります💕