国家戦略特別区域法および構造改革特別区域法の一部を改正する法律案について
国家戦略特別区、といえば思い出されるのが養父市の農地取得による成功例です! しかし、今回の法律案では、これが全国展開されないことが決定されました。その理由なども調査し、驚くべき事実を発見しました。
Ⅰ まず、タイトルに含まれる二つの法律についての概要を調べてみた。
国家戦略特別区域法とは
日本国内において特定の地域(東京湾岸、大阪湾岸、名古屋、福岡、北九州)を「国家戦略特別区域」として指定し、そこでの事業活動を促進するための法律。2013(H25)年に制定、翌年に安倍内閣にて施行。
国が「国家戦略」として位置付ける分野において、新たなビジネスモデルや社会システムを創出するための様々な特別措置が講じられる。国や地方自治体が主体となって、民間企業が参入した事業を成功させていく政策である。
現在検討中の規制改革は、交通、農業、医療など様々分野に及んでいる。
具体的には、内閣府HPを参照のこと。
構造改革特別区域法とは
2002年(H14年)に制定。規制の特例措置により、事業を拡大する意図は国家戦略と同じだが、地方自治体からの要望などを受けて実施されることから、地方自治体の動きに重点が置かれている。
Ⅱ 経緯(令和元年までの同法律を調査した)
”国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律”
が閣議決定されているのは、
H26年、H27年、H29年、令和元年。
調査した結果から、気になったところをピックアップする。
H29年の法律
H29年の法律について考察された論考を読んだ。
国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律(平成29(2017)年6月23日法律第71号) 其田茂樹 公益財団法人地方自治総合研究所研究員
より、気になった点について述べる。
a 規制のサンドボックスを制度化する
規制のサンドボックスを含む、主な改正事項としては、概要として以下の図を参照されたい。
国家戦略特区と構造改革特区との一体的な運用を図る観点から行われた、同時提案募集は、2017年3月31日に締め切られる予定が、2022(令和4年)年3月31日まで延長された。その意図や意義も明確ではないようだ。
あらゆる分野の規制を一手にひきうける特別区域法の性質と、国家戦略と構造改革という、国マターなのか、地方自治体マターなのかが曖昧であることが、所管省庁、政府も整理できていないような状況だと論文からは理解した。
令和元年の法律
令和元年の特徴は、スーパーシティ型の採用である。これは、縦割りの提案ではなく、区域会議を設けることにより、自治体、事業者、内閣府という横軸で提案を検討することからスタートするものだそうだ。
この区域会議ではどのような話し合いが行われているのか興味を持ち、議事録の有無を、浜田事務所を通して内閣府に問うた。
回答は以下のようであった。
スーパーシティに関する区域会議は開催されていないかもしれないが、区域会議そのものは、養父市で過去に11回、区域会議が開催されていた。
(議事録については調査中)
大阪府・大阪市のスーパーシティ戦略!
大阪府のHPでスーパーシティ構想がなんだかキラキラ素晴らしい!笑
区域会議がなくても?
もうすでにかなり計画が進んでいるようです笑
大阪市にメールで質問してみました。
質問1内閣府によると、区域会議はまだ開催されていない、ということであるが、大阪市HPなどを拝見すると、すでに事業者と自治体との間で、計画が進められているようにお見受けしました。今後、区域会議において内閣府を交えて話し合いが行われるとすれば、どのような点が内閣府マター案件(内閣府の意見、許認可など?)として考えておられるでしょうか。それとも、区域会議が無くてもほとんどの計画は進められるのでしょうか?
質問2スーパーシティ区域指定は、あとつくば市だけです。つくば市は、県とは関係なく進めているようです。大阪府と連携する意義について教えてください。
質問3つくば市と連携、協力するような点はございますか?質問は以上3点です。よろしくお願いいたします。
以上の質問について回答を更新します。
観光のために酒造体験施設つくっていいよ?!
構造改革特区の改正については、「酒造製造体験を実施」を取り上げる。
内閣府の回答では、この「酒造製造体験」とは、観光客などが「酒造りを体験できる施設」という意味だそうだ。こんなこと?まで「特例」として法律を改正する必要がある、ということに驚く。これが「構造改革」なのか?! こんな細かい改正が行われるのは、元の法律(規制)が、非常に限定されたポジティブリストであるため、そこに該当しないものについて、ひとつひとつ「認可」を与えていかなければならないのではないか。
Ⅲ 本題の…令和5年3月3日 閣議決定!
法案の概要はこちら。
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/kettei/pdf/r050303_sankou.pdf
国家戦略特別区域法に関する改正のポイント
〇補助金などの交付財産を、その目的以外に、譲渡、交換、貸付などに使えるようになる。
〇情報システムで扱われる情報の整備と互換性だけでなく、正確性、安全性、信頼性の確保に関しても、政府が援助するようになる。
〇農地法における特例が削除された。(あらためて、構造改革特区法として規定が追加された。)
〇概要の※にある、オンライン服薬指導に関する件。「医薬品、医療機器等法」(正確には、「医薬品、医療機器などの品質、有効性、安全性の確保などに関する法律」)に関する特例が削除され、あらためて、オンライン(遠隔)での服薬指導について「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の特例 (二十条の五)」に規定された。
構造改革特別区域法に関する改正のポイント
〇狂犬病予防法(昭和25年)の特例について(概要には狂犬病の記載がないが)。それまでは、狂犬病予防員を都道府県が任命していたが、市区町村の区域範囲では少ないので、今後は市区町村の職員で獣医師を任命し、それが同時に都道府県が任命したことにする。
〇農地法(昭和27年)の特例について これまでは国家戦略特区会議が定めていたものが、構造改革特別区域法にあらたに組み替えられた。
ここで最も気になったのは、農地法の特例が、国家戦略特区マターから、構造改革特区になったことだ。
現在、国家戦略特区延暦特別区域法に規定されている自治体は養父市だけである。
国家戦略特区の事業だったものを、構造改革特区へ移行するのだ。
ちなみに、今回削除された農地取得の特例とはこのような法律だった。
国家戦略特区は内閣府が地域を限定する意味合いが強く、構造改革特区は地方自治体からの要請を受けるかたちである。
上記の諮問会議でも、養父市ですでに成功している事業者にも配慮し、地域の事情に沿った提案ができる、前向きな改正であることが意見として見受けられる。
養父市の成功例を認めて、より全国へ広がり易くした、ということなのだろうか。養父市にもメールフォームで質問したが、エラーになり、
担当課にも電話が通じない。来年の9月までは特例措置が適用されているのだが。
この件に関し、令和4年12月22日 第56回 国家戦略特別区域諮問会議 において、岸田総理を交えて方針が決定されたという報道があった。
この報道の中で、ある一文に目が留まった。全国展開を疑問視する意見の一つとして「特例の活用実績が6社、1・65ヘクタールにとどまるとしてニーズを疑問視する声があった」ということが、書かれている。
これは実は、後述するⅢの、朝日新聞の報道内容なのだ。
この報道内容について、ワーキンググループは朝日新聞に対して公式に抗議文を提出し、コメントを公式に発表している。この件については次章を参照してほしい。
Ⅳ 養父市の実績と報道とワーキンググループの意見の広報について
国会での質疑
内閣府HPにある、規制改革メニューは、実施例が掲載されていて、
読んでいても嬉しくなる。その中でも、農林水産分野では養父市が際立っている。
養父市の成功を表すグラフについてだが
政府HPのグラフと、論文のグラフ(P32 ~p34)、からパット見でも印象が全く違う。また、グラフの基準年が政府はH22からの比較。論文はH28年からの比較である。特区が始まったのH29年からであれば、論文のグラフのほうが適切だと思うのだが。。。
国会では、日本(にっぽん)維新の会 柳瀬裕文議員が第210回国会 地方創生およびデジタル社会の形成等に関する特別委員会で養父市の成功例の今後について質問していた。
この質問は、大臣が所管外だ、ということで答弁を回避している。そもそも、国家戦略特区を所管する内閣府の役割は、多岐にわたる分野を一括して権限の移譲や、義務の緩和を検討することである。所管外で答弁を回避するとは、内閣府の役割として責任逃れとしかいいようがない。
そして、この質問のあと、養父市の成功例のその後についての国会質問はおこなわれていないようだ。
法人農地取得事業の「ニーズと問題点調査」
その後、内閣府と農水省が、法人農地取得事業の「ニーズと問題点調査」を行った。その結果が、令和4年10月の第55回国家戦略特区諮問会議で報告された。
それを読むと、ニーズがあるという答えもあるのだが、圧倒的に、農地を取得することによる事業失敗のリスクや税制上のデメリットを恐れ、リースで十分だ、という意見が多く見受けられた。
しかし、ワーキンググループの資料では、報告が「ニーズがある」とされている。
この報告を見る限りでは、ニーズがある、とされている。
また、そもそもこの養父市の特区制度を知らなかった、という市区町村も多かったのは驚きだった。特区の内容を知らない自治体にそのニーズの有無を尋ねても、その答えは、そのニーズの有無について、誤った傾向を示すのではないだろうか。
アンケートに対して様々な疑問が残りつつも、結果的に今回の閣議決定のように、全国展開はしない、となったのである。
ワーキンググループと報道
国家戦略特区事業には、制度設計を検討するワーキンググループが設置されている。
それにしても、養父市の取組に関する報道について、朝日新聞の報道は事実と異なること甚だしい。
農業用地の拡大については、ワーキンググループも2022年6月にコメントを発表している。 このような情報も、かなり関心をもっていなければ、一般国民には知られない。国策には、世論喚起が重要である。オールドメディアの報道の現状から、もっとワーキンググループの頑張りに国民としても関心を寄せたいと思った。
また、2022年2月23日農業新聞の報道によると、その断念の根拠の一つが、「特例の活用実績が6社、1・65ヘクタールにとどまるとしてニーズを疑問視する声があった」とある。「活用実績」は、獲得された1.65ヘクタールの借地を、どれだけ活用したか、という割合が判断基準なのであって、1.65ヘクタールが多い少ない、の話ではないのだが。。。
Ⅴ もし国会議員だったら質問したいこと
①今回の閣議決定では、養父市の農地取得に関する国家戦略特区の全国展開が断念された、と承知しています。第55回国家戦略特区諮問会議における、
内閣府と農水省による「法人農地取得事業のニーズと問題点調査」の結果をうけて、今回の決定になったと考えます。
第55回のワーキンググループによる報告では、ニーズがある、と報告されています。この報告を覆す、最も大きな理由はなんでしょうか。
②国家戦略特区の主旨は、経済的に国際競争力を高めることにあると考えます。そのために、構造改革による、自治体と地域の事業者との連携の事例が養父市の農地取得だったと考えます。事業にはリスクがつきものですが、
先の調査結果をよむと、ニーズが無い側の回答には、事業のリスクを不安視する意見が多々見られます。このようなリスクを回避するために、養父市が挑戦し、成功事例を作ったのですから、もっと養父市の事例を参考にしてチャレンジする自治体や企業を応援することが、国家戦略特区の意義だと思います。単にアンケート結果の多少で、全国展開を断念することは、特区の主旨に反すると思いますが、内閣府の見解をお聞かせください。
③今後は、養父市の試みが、構造改革特区として引き継がれ、ある意味、全国展開する余地が残されている、と考えてよろしいでしょうか。そのためには何が必要だと考えますか。総理の考えをお聞きしたいです。
調査は以上です。
かわさき減税会