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揖保乃糸の特級品「三神」が、「足るを知る」を教えてくれた

30も半ばに近づいたこの頃、「足るを知る」という言葉について考えるようになった。
稼ぎが増えたり、家族が増えたり、いろんな環境の変化に甘えて、欲張っていいものをたくさん味わっていると、一時的には幸せな気分を得られるけど、それって本当の私の生活ランクを考えると、実は分不相応なんじゃないか?とか。
なんでそんな考えが浮かんだかというと、すごくしょうもない話なのだけど、人生史上メチャクチャに美味しい素麵を食べたことがきっかけだった。

先日、素麵の老舗ブランド、揖保乃糸シリーズの最高級ランク「三神」をいただく機会があった。
揖保乃糸にはいくつものランクがあることは知っていたのだが、この「三神」は中でも「特級品」と呼ばれる素麵らしい。

上質の原料小麦粉を使用し、組合が選抜指定した数軒の熟練した製造者にしかつくれないため、製造量は「揖保乃糸」全体のごく僅かです。手延そうめん「揖保乃糸」の最高級品です。

揖保乃糸ホームページより

当たり前だけど、スーパー等で気軽に買えるものではなく、贈答用の商品。なんといっても5,400円もする。
「三神」の逞しい筆文字が中央にドンッと据えられた、重厚なオーラを感じる木箱からは確かに「特級」みを感じる。お中元やギフトなどで贈るための、スペシャルな一品といった佇まいである。

左下の「古もの」の文字も絶妙

中を開けると、キッチリとまとめられた美しき素麵の束たちが整然と並んでいる。
通常の素麵と比べると、0.55〜0.6ミリと非常に細麺で、ゆでるときも細心の注意を払わないと、繊細すぎてすぐにポキッと折れてしまう。
いざ湯がいて実食すると、びっくりするくらい喉ごしがツルッとまろやか!!これは、まるで飲み物である。
清流のごとく、口から喉へ、喉から奥へと流れゆく素麵。どこからか川のせせらぎが聞こえてくるようだった。
間違いなく、いままでの人生のなかで一番おいしい素麵だと確信した。
これが素麵界の「神」だったのか。

私と夫は、この7月の素麵ライフを「三神」と共に過ごした。
しかしながら、あまりの美味しさから、なくなってしまうのもあっという間。
夏バテで素麵がないと生きていけない我々は、「三神」がなくなると同時に、近所のサミットに走り、取り急ぎ200円くらいの素麵を買い足した。
食べた瞬間、お互いに目を見合わせた。そして、悟った。
「『三神』を一度知ってしまった人間は、もう200円の素麵には戻れないのだ…」と。

「足るを知る」とは、古代中国からのことわざだ。
「足るを知る者は富む」、つまり満足することを知っている者は、たとえ貧しくとも精神的には豊かで、幸福だ…ということである。

どんなに「三神」の味をもう一度欲しがっても、私たちの生活レベルでは、これを日常食にすることなど到底できない。
せいぜいスーパーで売っている普通の揖保乃糸を「ちょっといいヤツ食べちゃおう」って感覚で買うような、そんなレベルで生きてきたのに、一度底上げされてしまったランクを戻すのは難しいのが人間の悲しき性。
でも、200円の素麵でも、「これはこれで小麦っぽさが逆に満足感あってイイネ!」って思えるようになれば、何年かに一度食べられるかもしれない最高級素麵にもっとありがたみを覚えることができるだろう。
中流家庭で生きる私には、いまこそ「足るを知る」精神が必要なのだと強く感じるのだった。

素麵ひとつで、ここまで考えてしまった私は、夏の暑さに少しやられているのかもしれない。
無論、それだけ「三神」の美味しさの威力がとてつもなかった、ということが伝われば、それだけでも十分満足である。


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