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一人百物語 ~ほんとにあった私と私の周りの怖い話~よっつめ

そろそろ知り合いから聞いた話もいれましょうか。

「四隅の儀式」って、ご存じですか?

私たちの間ではそう呼ばれていたんですが、いわゆる霊を呼ぶ儀式です。
私が小学生ぐらいのときに流行り始めて、修学旅行のときなんかにやっては、「やっぱりいない」までを楽しむ遊びでした。
最近では「スクエア」って呼ばれているらしく、40年も経ったらまさかの洋風ネーミングになったものかと驚きました。

内容を簡単に言うと、まずは部屋を真っ暗にして視界を奪います。
目隠ししたりもするようです。
正方形の部屋の四隅に人が立って、右回りに隣の角に向かって歩き、そこにいる人の肩を叩く。
肩を叩かれた人はやはり右回りで隣の角に行き、同じようについた先の角にいた人の肩をたたく、それを繰り返していき、ぐるぐる部屋を回ると霊が来る、というもの。
この話を書くにあたって、この「スクエア」を改めて調べてみたのですが、私の知っているものと違ったんです。
私の知っている「四隅の儀式」は5人で行うものでした。
歩き出すスタート地点には2人立つんです。
ですから延々ぐるぐるできるわけですが、「スクエア」はスタート地点にいるはずのない5人目がいる、ということのようですね。
ならば話甲斐もあろうかと思い、この話を語ることにしました。

仮に彼をSさんとしますか。
Sさんは怪談好きな当時20代。
大学時代からの友達の男ばかりで5人、温泉旅館へ行ったそうです。
卒業旅行に行きそびれた5人は、いつか温泉でも行こうと約束していたそうです。
春の終わりの繁忙期を過ぎたころだったせいか、食事の評判もいい老舗の温泉旅館が見つかり、安くて広い部屋を予約できたそうです。
久しぶりに集まっての旅行。
お酒も入ればいい気分で盛り上がります。
5人は思い出話を肴に、羽を伸ばしていたそうです。

「四隅の儀式って、覚えてるか?」
言い出したのはSさんで、5人いるからちょうどいいと思ったそうです。
知っていたのは2人だけだったので、Sさんは簡単に説明をして目隠し用のタオルを用意しました。
食事をしていた部屋の隣に布団を敷いてもらった別室があったので、5人は隣室に移動したのです。
真ん中に5組の布団が横並びに敷かれた部屋は、おあつらえ向きに正方形でした。
荷物も食事をしていた部屋にあったので、部屋のふちは何もなく歩きやすそうです。
いいだけお酒を飲んでいたので、5人の足元はおぼつかなく、それを互いにからかいあいながら、5人は四隅に散りました。
言い出したSさんが一人目を申し出て、隣にはもう一人が立ちました。
「おお。全然見えないな」
タオルで目隠しをした4人がけらけらと笑いながら四隅で待ちます。
「じゃあ始めるぞー。肩を叩いたらカウントな。叩かれてから歩くんだぞ」
Sさんは全員が目隠しをしていることを確かめて、室内灯のリモコンで電気を消し、リモコンはポケットに入れました。
「行くぞ」
タオルで目隠しをして、左手を壁につけながら、Sさんは歩き始めました。
酔っ払いが黙って待っているはずもなく、歩いている最中あちこちから声がかかります。
「まだかー」
「はやくー」
「うるせえよ」
十歩程度でしょうか。
伸ばした右手が人の体にあたりました。
「はい。いーち」
「次俺だな」
触っていた温もりが離れ、Sさんはそこの壁に寄りかかりました。
「壁に手ぇ、つけろよー」
目隠しした酔っ払いがまっすぐ歩ける気がしないので、Sさんはそう声を掛けました。
「OK、OK」
適当な返事が返ってきてまもなく。
「はい、にー」
そのまま順調に続き、Sさんに誰かがぶつかります。
「はい、ごー」
一周してまたSさんの番です。
「じゃあ二週目―」
くすくす笑いながら、ヤジを飛ばしながら、5人は二週目、三週目と続けていきました。
「はいじゅうろく―」
全員が最初の位置に戻ってきているはずです。
なのにSさんがたどり着いた場所には誰もいないのです。
「あれ?Rは?」
SさんはここにいるはずのRさんを呼びました。
「俺、ここだけど」
対岸の場所から声がかかります。
「なんでそんなところにいるんだよ」
笑いながらSさんは目隠しを外してリモコンで電気をつけました。
「…え、なんで?」
同じく外した目隠しのタオルを手に、Rさんがちいさくつぶやきました。
Sさんは部屋の中央を見下ろして目を見開きました。
敷かれた布団の上には、3人の友人が大の字になって眠っていたのです。
立っているのはSさんと、その対岸にいるRさんのみ。
「眩し…」
電気の明かりで3人が目を覚まします。
聞くとそれぞれ一度歩いた後、無性に眠くなってしまい、次々に眠ってしまったというのです。
そうなると二週目以降にはもう、Rさんと二人だけで回っていたことになります。
SさんはRさんと5番目ごとに会っていたはずなのに、なぜ対岸にいるのでしょう。
そして、3人の代わりに歩いていた人は、誰だったのでしょうか。
SさんとRさんは、誰と肩を叩きあっていたのでしょうか。

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