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コロナ時代・新たなる始まり 第5話「谷根千を颯爽と」

✴︎第1話〜6話までは2020年に書いたものを2022年に編集し直しています✴︎


ハミングバードの内装工事と、ギャラリーの内装工事はおよそ一ヶ月。同時進行で動いていた。

期間限定のギャラリー運営内容を考えるのは後にしたことで、少し気持ちにも余裕が。床や壁の内装工事だけは先に進めておいた。

『ハミングバード』は、いよいよオープンに向けて準備を始め、タウンワークでアルバイトの募集も開始し、チョコレート屋さんらしい可愛い制服も作ることにした。

およそ20名近くの応募者が面接にやって来た。

面接会場はオフィスTENの事務所の中だ。玄関を開くと志賀海神社の浄め砂。階段を上る途中には、ペルーの山岳民族の真っ赤な帽子に、ブータンの王様謁見用ドラゴンブーツ。事務所の中には、富士山や熊野、天河、そして伊勢のお札と共に、ホピのカチーナや、アイヌ刺繍のタペストリーなどなど…。

とてもチョコレート屋さんを運営する事務所とは思えない場所なのだが、そんなモノに興味を示す人は皆無、というのも面白かった。

ワタシの友人・知人たちは一応に事務所にやって来ると置いてあるモノや本に興味津々。ワタシとの話もそこそこに…これ見ていい?ということも多いのだが、そうしたモノには興味無いという人たちが、アルバイトを続けていく中で、どのように変化していくのか、また、していかないのかも興味があった。

様々な人と面接で話し、準備した制服が似合いそうで、何より爽やかに接客をしてくれそうな人を6名採用した。

コロナ禍真っ最中。聞くと多くの人がアルバイトがほとんど無くなっていて困っているという。確かに、雇用縮小している世間の流れからすると、こんなに沢山の採用は、流れに逆境している様にもおもえたが、そもそも、こんな時期に新たにお店を開くこと自体が逆境しているのだ。

いや、世間の流れなど、オフィスTENを始めた時から気にはしていない。

コロナ自粛に纏わる様々な制約がある中、ワタシは着実に前に突き進んでいた。

オープンに合わせて、厳選したチョコレートや珈琲豆も沢山発注した。更に紙袋を数千枚、ギフト様ボックスや保冷剤など、必要と思える備品も山ほど注文した。人材も揃い、最新のiPadを使ったポスレジの契約も済ませたころで、ワタシはとんでもないことに気がついた。

間もなく届く商品や備品を置く場所も、またアルバイトの着替えや休憩をするためのスペースも、店内には全く無い。要するにバックヤードが無い為、別に絶対に準備する必要があり、それは早急課題だ!

ワタシは大慌てで、適当な場所探しをしたが、これがなかなか見つからず大変だった。

個人の部屋や事務所なら簡単に契約はできるのだが、バックヤードという場所に、大家さんの了解は取りにくいらしい。それに家賃をこれ以上払うのは正直キツい。また、そもそも千駄木は一軒家が多い地域ということもあり、物件そのものが少ないのだ。

幾つも不動産屋さんを巡り、ようやく私個人の契約なら、その様な使い方でも構わない、という物件を見つけることが出来た。
ただし、住居専門の建物ということもあり、近隣の住民の手前、バックヤードや倉庫にしていることは内密にして欲しいとのことだった。そこで「AYAさんハウス」という名でその部屋は呼ばれることになった。

ギリギリセーフでオープンまでに届いた商品などは、全てここに運び込まれ、同様にハミングバードの外観は徐々に出来上がってきた。


ワタシは自転車を購入した。自転車に毎日の様に乗る生活は、高校生の時以来だ。
根津には、事務所と『ホピショップ』がある。『ハミングバード』は千駄木だ。そしてこの頃、同時進行で準備を進めていた『天'sSPACE』は、谷中にある。図らずとも通常「谷根千」と呼ばれるエリア全てに物件を持ってしまった。店舗を素早く巡るには自転車しかない。

これまで自宅と事務所、そしてホピショップの鍵を持っていたが、コロナ禍で新たに2つの店舗に加え『Ayaさんハウス』と呼ばれるバックヤードの部屋の鍵も持つことになり、更には自転車の鍵だ。もうカバンの片隅に入れておける数ではない。

そんな訳でワタシは久しぶりに大好きなY'sを訪れ、お洒落な黒の「首掛けがま口」を購入した。大変な時には、大好きなモノを身につけてテンションをあげることが大事だ。ワタシは新たに持つことになった2つの店舗とバックヤード、そして自転車の鍵をこれに入れ、

颯爽?と自転車に乗る女へと進化した。

ところが、まもなく店が完成する…。そんな矢先にまたしてもアクシデントが起こった。

            続く…


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