コロナ時代・新たなる始まり 第6話「出来上がる喜び」
✴︎第1話〜6話までは2020年に書いたものを2022年に編集し直しています✴︎
予定していたことが、急に変更になる。それは、何か計り知れないモノからのメッセージの様にも感じ…。
「扉のガラスのことですが、実は…」
佳世子さんから電話がかかってきたのは、オープンまであと10日と差し迫っていた頃だった。扉硝子には、ハミングバードのロゴマークが入る予定だった。
しかし、佳世子さんの元に業者さんから「文様が細か過ぎる為、このまま入れることは不可能。デザインを簡素化するか、シールプリントにしてガラスに貼るしか方法が無い」と連絡があったという。
扉は大切な店の顔だ。内装も外装も細部までこだわり、扉下部分にはチョコレート文様も入れてもらっている。なのに最も目立つ大切なガラス部分が、納得いかないものは、やはり嫌だった。
あまり考える時間も無い中で、私は突然閃いた。
そうだ!ステンドグラスでハミングバードを作ってもらえば良いのだ!!それを扉にいれたなら、どれほど素敵だろう❣️
アテならあった。
実は『ハミングバード』と同時進行で谷中に借りたギャラリー『天'sSPACE』の内装も進めていた。ギャラリーの斜め向かいにステンドグラス屋『nido』という店があるのだが、6月上旬、『nido』の矢口さんと真野さんという女性が2人で「何屋さんになるのですか?」とひょっこり遊びに来てくれた。
私たちは、ご挨拶も兼ねて『nido』を訪問してみた。
店内には、うっとりするほど美しいステンドグラスの品々が並んでいた。私はその時『ハミングバード』の入り口横に、ステンドグラスの洒落た小さな看板を下げられないかと思った。しかし、店舗が道路から少し引っ込んでいるので、店の入り口に、吊り下げてもあまり見えない、ということで、ステンドグラス看板案は立ち消えになっていた。
しかし、ここにきての扉ガラス問題が起こった。私はこの際、ロゴマークという案から大きく離れて全く異なるハミングバードを『nido』さんに作ってもらい、扉にはめ込んでもらうのがベストだと瞬時に思った。
問題は時間だ。オープンまで10日と差し迫っている中で、完成するのだろうか。
真っ先にその案を佳世子さんに提案すると「それは素敵だとは思います。…でも、これまでの経験上、ステンドグラスを制作してもらうのは、とても時間がかかることなので。残念ですが多分無理だと思いますよ。ここは無事にオープンさせることを優先して、妥協してシールプリントにしませんか?」という返答だった。
磯部さんも「扉の塗装が仕上がり、はめ込む日までに後1週間。その日までにステンドグラスが完成していたなら話は違いますが、まずは普通のガラスを入れて一旦お店を完成させませんか?その上で少し落ち着いた頃、改めて完成したステンドグラスのガラスをはめ込む、というのでどうでしょうか?」という。
それも致し方ない。
確かに、お願いしようとしているのは、小さな作品ではなく、玄関扉のステンドグラスだ。そう簡単にできるはずもない。
ただ、聞くだけ聞いてみようと思った。既に私は美しいハミングバードのステンドグラスが入った扉しか想像できなくなっていたのだ。
nidoさんに相談してみると、よほど切羽詰まった感が伝わったのか、それとも情熱が伝わったのか。「わかりました。時間は確かにありませんが、出来ると思います。やってみましょう」と力強く快諾してくれたのだ。
私はその心意気が嬉しく、伺った代金に少しだけ気持ちを上乗せして支払うことを申し出た。
早速、翌日にはハミングバードの図案が送られてきた。最初に届いたものは、私の理想とは大きくかけ離れたものだったが、何度も根気強く図案を私の理想に近づけようと書き直してくださった。そこには、ハミングバードのみならず、さりげなく薔薇も入れてもらうことにした。
実は10年ほど前になるが、あるご縁からブルガリアの大使とお会いしたことがある。ブルガリアは、薔薇を国家事業としているのだが、薔薇の精油がどれほど体に良い成分を含んでいるか、という話を聞いたことがある。
この店では、薔薇も少し関わりを持ったものを扱いたいと漠然と思っていた。
チョコレートの品揃えをしていくうちに、薔薇とチョコを組み合わせた商品を作り出したい、と思うようになり、ブルガリアからローズを輸入している商社からオイルを取り寄せ、チョコレート工場にお願いして商品開発を行った『ホワイトローズチョコレート』も完成したところだった。
それから数日後、nidoの矢口さんから「完成したので見に来て欲しいと」と連絡が来た。
まさに想像した通りのものが出来上がっていたのだ。
いよいよドアにガラスが入る日。
私は仏像に目が入るような、魂入れの儀の様な感覚になった。
こうして、セレクトチョコレートと珈琲豆の店、ハミングバードの外装は完成した。
珈琲も、18年取扱い続けている『天の珈琲』(オーガニックボリビア)に加え、『幻のゲイシャ』と名付けたパナマ・エスメラルダ農園の珈琲豆や、『ハワイコナ・エクストラファンシー』『ブルーマウンテンNo.1』など、最上級のスペシャルティ珈琲を揃えた。そして、折角ならばハウスブレンドを、ということで、その名も(『ハミングバードブレント』という珈琲も完成させた。
ブレンドを決めるということが、これほど大変なことなのか…と思ったが、およそ10時間。少しずつブレンド具合を変えて「これだ!」と思える味に辿りついた時には、まさに感動だった。
オープン1週間前からは、バッグヤードに続々と商品が届き、オープン前日の夕方5時。ようやく内装工事が終了となった。
つづく…
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