見出し画像

コロナ時代・新たなる始まり 第15話「未来に向けて」


あれは確か…2020年の2月のある日のこと。新型コロナは、まだ、それほど深刻な状態でもなく、ワタシは2年掛で準備していた大きな企画の為の出張から東京に戻ってきたばかりだった。この頃までは、普通にHopiショップを営業していたこともあり、その日は久しぶりにお店に出ていた。

Hopiショップは、前にも書いた通り2014年に奇跡の如く誕生した店である。店の大家さんは、いわゆる地元の名士。Hopiショップが入っている建物の他にも、周囲の土地や建物を所有されていて、ご自身のお仕事の他に、それらの管理会社も奥様と共に営まれている。丁寧で穏やか、そして細やかな心配りのある大家さんご夫妻は、まるで平和の民と呼ばれるHopi族の人々のようだ。

そんな大家さんが、お店にやって来て、
「天川さん、そろそろ私、隣の敷地にある古いアパートを取り壊して、新しい建てものに替えようと思っているんですよ。まだこれからなので、具体的に工事が始まるのはまだ先になりますが、始まったらかなり音も響くでしょうし、トラックが出入りしたりして、こちらのお店にも迷惑をかけてしまうと思うので、先にお伝えてしておこうと思いまして…」と言った。

思えばその2年前。2018年のゴールデンウィークに、古いアパートの前にある駐車場で『青空インディアンマーケット』というのを開かせてもらったことがある。



Hopiショップはその道の先にある。写真に写る白いパラソルと看板が出ているのがHopiショップだ。

人通りが多いゴールデンウィークに、ここの駐車場で何か関連したことをしていたら、それが同線になってHopiショップまで多くの人がやって来るのではないか、という大家さんのご厚意だった。

その時、大家さんから「まだまだ先の話ですけれど」と前置きをして奥のアパートが老朽化しているのでいずれ取り壊し、この駐車場とともに新たにマンションをつくる予定にしている、という話は聞いていたので、驚くことはなかった。

ただ、その建物の一階は店舗にする予定で、広さはホピショップのほぼ倍くらいになる予定だと聞き、ワタシは急にドキドキした。
そして咄嗟に「その場所は、カフェにすることも可能ですか?もしも可能なら、家賃などの折り合いがつけば、ワタシ借りたいんですけれど」と言っていた。

前にも書いたが、ワタシには20年以上長年ずっと思い描いていた夢がある。

自然の叡智と命の尊厳をテーマに様々な企画を行ってきた私達ならではのカフェだ。

心も身体もホッと出来るような様々な仕掛けがあり、
それでいてお洒落で美味しくて…。
時にギャラリー的に、時にライブや上映会などの会場としても使える、そんなカフェ。
そこで、ワタシ自身も執筆が出来たなら最高だ、と思い続けてきたが、これまでコレ!と思える物件に出合うこともなく、いつか叶えば…という夢のままだった。

しかし、Hopiショップの隣に新たに建物が誕生し、一階は店舗で、そこそこの広さもある。もしもそこでカフェが出来たとしたなら…それは夢以上のものとなる!

大家さんは、ワタシが興奮気味に言った言葉をニコニコしながら聞いた後「ここで天川さんがカフェを本当に開いてくださるのなら、こちらも大歓迎ですよ」と言ってくださったのだ。

ワタシは家賃など具体的なことが気にはなったが、きっとその時にはどうにかなるだろうと思い、この場所でカフェが出来ると思っただけでワクワクが止まらなかった。

ただ、この会話は2020年2月のことである。

その直後から新型コロナウイルスが世界全体に爆発的に広がり、日本でも緊急事態宣言が出され、全ての動きがストップした。

Hopiショップも開くことが難しくなり、
大家さんが話されていた、老朽化した古いアパートも解体されることもなく、かなり長い間そのままだった。

そんな中、これまでずっと書き綴ってきた通り、2020年5月以後、ワタシは激変に継ぐ激変。

ノンストップで神様に動かされるかの如く、台風の突風のような猛烈な勢いで、新たな2つのお店づくりが始まった。

まさに寝食忘れ…いや、何かは食べてはいただろうが、本当に寝る時間は殆ど無く、早朝から深夜まで、やる事が次から次に、あり過ぎるほどあり…。本当に目が回るほどだった。

Hopiショップは、完全に閉めたままの状況が続いていたが、やがてコロナが落ち着いた先の未来の為に、家賃を支払い続け、行く度に扉を開き空気の入れ替えをし、その都度、新しく建築されるという敷地を見てみたが、しばらくは進展らしいものは見られなかった。


2021年6月の末。セレクトショップは軌道に乗りはじめ、ハミングバードも改装工事が決まり一段落して、毎月同様、Hopiショップの家賃を支払いに大家さんのもとを訪ねた時、驚いた。新たな物件の工事は既に始まっていたのだ。

奥様の話によると、数日前に、地鎮祭が終わったところで、本格的な工事がようやく始まったばかりだという。

フェンス越しでの風景だったが、ワタシも浅井も、何故かホピのプラザ(村の中心にある儀式で歌や踊りをする場所)に、少し似ているように感じ、そんな話をしながら「ここには、きっとホピと繋がるカフェが出来るね」と言って笑った。

2021年夏。新型コロナは再び猛威をふるい、オリンピックは無観客開催となった。世の中は再び混乱し始めていたが、ハミングバードも、セレクトショップも、どちらも新しい店舗ということもあり、それなりにお客様がやって来てくださり、忙しい日々が続いていた。
あっという間に、またしても家賃を支払いに例の敷地の前を通った時、

ワタシは目を疑った。一ヶ月でこんなに工事は進むのだ。

駐車場だった時、そしてまだ、建物のカケラも見えなかった時にはこの場所でカフェにを…と無邪気に夢描いていたが、資金面で強烈に不安になって来た。

2つの店舗にお金というお金のほとんどを既に注ぎ込んでいる。逆立ちしたところで、新たにお店を開く資金は殆どない。それもHopiショップの倍の広さであり、家賃に付随する敷金礼金。そしてカフェにする為のキッチンなどの設備など諸々…。以前、カフェオープンにかかる費用を以前調べたことがあるが、腰を抜かすほどの金額だったことも思い出した。

建物の完成予定は2022年2月末、ということことだったが、カフェにする為の工事も考えるとオープンは3月下旬。
これは具体的に資金をどうにかしなければ絶対に間に合わない。

ワタシは信用金庫の担当者に連絡を入れて、融資の相談をした。しかし担当者からは渋い返答しかもらえなかった。

理由は以外の通りだ。

一、2020年に融資をしたばかりなので、更なる借財は返済金が増えて会社の運営を苦しめるだけになること。
二、Hopiショップを開くことが出来ない現状で、隣の物件を借りても意味がなく、Hopiショップを開いてからにした方が良いこと。
三、根津にもう少し観光客が戻るまで、カフェは見合わせた方が良いこと。
四、コロナ禍でも奇跡的に新しい2店舗が順調に伸びているのだから、当面は新たな2店舗の売り上げを伸ばすことだけに集中すべきであること。
五、その場所に拘らなくても、コロナ禍で廃業する飲食店は出てくる。居抜きで借りたら設備にかかる資金は大幅に減らすことも出来るので、カフェをしたいのなら、コロナが落ち着いたら、そうした店舗で始めた方がよい。

などなど…。

不安になっているワタシの心に、信用金庫担当者の言葉はいちいち説得力があった。

ワタシはカフェ計画を速やかに中止にすることが正しい判断だと思った。建設は着実に進んでいる。大家さんに迷惑をかけないためにも一日も早く伝えた方がよい。大家さんのご厚意で、カフェにするなら…とお勝手口まで作ってくれようとしていた工事も今なら止めることもできる。もちろん、新たに私達以外にテナント募集をする余裕も今なら充分にある。

ワタシ自身も新たに始めた2つのお店の運営にチカラを注ぎながら、止まったままになっている執筆に時間を裂こう。また新たな企画で動いていることもある。進む勇気も必要だが、止まる勇気も必要なのだ。カフェは、いつか、いつか…と夢見ていたから楽しい。でも、現実問題として、はたしてこれ以上できるのだろうか。

ワタシは、悶々としながらしばらく考え、2021年9月。大家さんに取りやめることを伝え、詫びた。

大家さんは、残念がられながらも、今の世の中の状況などを思うと当然の判断だから…とこちらの申し出をそのまま受け入れてくださった。

ワタシは極力、カフェのことは忘れようと思い、違うことにチカラを注いだ。しかし、忘れようと思えば思うほど、思いは巡るものだ。

そして、ワタシは思った。ここで諦めたなら、一生後悔するだろうと。

これまで全て、目の前に現れた物件は奇跡的に現れた場所ばかり。このカフェの場所だって、そうではないか。TENの事務所から徒歩2分。なんと言ってもHopiショップの隣だ。これまで、どれぐらいHopiショップに来られた方々から、近くにカフェはありませんか?と聞かれたことだろう。
今は閉まっているかもしれないが、カフェになれば、Hopiショップが開くまで、何かの会場として使えるだろう。それに、いつかカフェが出来る日の為にと、取り扱ってきた珈琲を、今はハミングバードで提供し始めているではないか。

それに、ハミングバードパフェなども、簡易的なイートインではなく、カフェならゆっくり楽しんでもらえることも出来る。
そうだ!カフェの最低限ノウハウや、ルートは、既にハミングバードで出来ている。それに、あんなに素晴らしい大家さんが長年構想してきた新たな物件だ。絶対に素晴らしい物に違いない。
それに、このカフェの主なるお客様は、観光客ではなく、きっとこのカフェを目指してやって来てくださる方々だ。

そうだ!問題があるとしたら資金面だけだ。

それなら、今こそクラウドファンディングで、多くの方々に協力を呼びかけてみよう。

そう思った途端、ワタシの目には、カフェで寛ぐ人々の姿が見えた。見えたなら出来る!ワタシはそう確信した。

すると不思議なもので、物件を借りる敷金礼金まではどうにか目処が立った。

2021年10月末。ワタシは再び大家さんに、やはりお借りしたいと伝え、正式に物件の申し込みをした。

それまで20年近く、夢描いてきたカフェを『TEN’sカフェ』と呼んできたが、ワタシはそこを『ハミングバードカフェ』と名づけることにした。

そして、2022年1月4日。還暦を翌日に控えたワタシは、奈良の天河神社に行った。

還暦を天河で迎えたい、それも、20年共に一緒に仕事をしている浅井と共に。

ワタシはご神殿で59年間の全てに感謝し、新たな暦を迎えるこれから先を祈り、同時にこれから『ハミングバードカフェ』が無事に誕生することを祈った。

翌日、2022年1月5日。ワタシは天河神社で還暦を迎え、



天河では友人に、東京にもどったあとは、
家族に還暦祝いをしてもらった後、

ワタシはいよいよクラウドファンディングに向けて動き始めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?