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遠雷


唐突だが、私は雷が苦手だ。

もともとびっくりすることや物音に敏感で、苦手ということもある。

雷に関しては、小学生の頃一度実家に堕ちたことがあるのも大きい。幸い、火災にはならなかったけれど被害は甚大であった。落雷は鬼瓦に直撃したため一部瓦が飛び散り雨漏り、エアコン、コンロ、電話、インターホン、テレビ、ありとあらゆる家電が壊れた。特にエアコンは、夏真っ盛りの時期に使えなくて困った。気分だけでも涼しく、とドライアイスを仰いでいた。



そんなわけで、雷が苦手なはずだった。




大学院に進学した私は、初めて日本海側の県に住まうことになった。魚介が安くて美味しいし、穏やかで自然もあり、とても素敵なところだった。

そこで初めての秋、雷が鳴った。10月か11月頃だったと思う。山の方が鳴っている。そんな時期に雷鳴を聞くのは初めてのことだったので驚いていると、友人が教えてくれた。



(季節が変わるんだ、もうすぐ雪が降るよ)



まさにその通りで、その日を境に寒さは増し、数日後に初雪が降った。

私は嬉しいような感嘆のような畏怖のような、まるで神様に会ったかのようだった。




時は過ぎて、卒業前の3月初旬

私は友人と海辺へ向かった。天気は最悪で、気温も低く吹雪いていた。車から降りて、岬を歩く。海も大荒れで、黒い日本海が唸っていた。とりあえず煙草を震えながら吸う。

雪が弱くなった。ふと海の方を見ると、晴れ間が見え光が差し込んでいる。


そして遠くの方から雷鳴がし、海に稲妻が走った。


黒く捻れる日本海、雲の合間から差す光、舞う雪、細い稲妻


私はその美しさに呆然とした。世界が唸っているみたい。世界はこんなにもうねり、優しく、恐ろしく、密かに鳴って生きている。


私はこの景色を一生忘れないでいたい。







昨年秋、恩田陸さん原作の“蜜蜂と遠雷”が映画化された。私にとって、色んな意味で本当に特別な作品と感じた。

今は原作を読み進めている。



私は今日も命を鳴らしたい。



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