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スタートアップ研究:第二回【Discord】

第二回は最近リモートワークでの活用も広まりつつあるDiscordについて調べました。前回のPatreonに引き続き、USではコミュニティ形成には欠かせないツールとなってきているDiscordですが、実際何の価値を提供しているのか、なぜ多くのユーザーに支持されているのかを見ていきたいと思います。

注目したきっかけ

直近の調達(2020年6月)で$3.5Bの評価額がつけられていたが、その背景が知りたかった
② コミュニケーションツール市場というZoomやSlackの主戦場にどのように後発プレイヤーとして参入していけたのかが気になった

Discordの基本情報

<サービス内容>
Discordは元々、ゲーマー向けのコミュニケーションツールとして誕生し、現在ではゲーマーに限らずあらゆる属性のコミュニティ内で利用できるコミュニケーションツールへと発展している。

プロダクトとしてSlackと比較されることが多く、実際インターフェイスとして似ている部分は多いが、最大の違いとしては、音声・ビデオグループをDiscord内で作成することが可能であることだ。現在Slack+Zoomを利用しながらリモートワークをしている方は想像がつきやすいかと思うが、音声・ビデオ通話をしたいときに都度Zoomのリンクを発行し、共有するというプロセスが、Discordを利用していると省け、スムーズにチャットと音声・ビデオ通話を行き来できる。

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Discord上ではユーザーがそれぞれ複数の「サーバー」というグループを立ち上げることが可能で(Slackの「ワークスペース」とほぼ同じ概念)、その中にテーマごとのチャット、もしくは音声の「チャンネル」を作成できる。各サーバーの目的・使い方は様々で、ファンと交流する場として、ゲームディベロッパーや大物インフルエンサーなどが公式アカウントとして運営する、大規模サーバー(最大数十万人のユーザーが所属)も存在するものの、主なユースケースとしては、実際の知り合い・友達同士で5-10人の小規模なサーバー上で一緒にゲーム・勉強・仕事等をする場として利用されている。

<ビジネスモデル>
Discordは基本機能に対して課金する予定はなく、また広告収益によるマネタイズも考えていないとのこと。現状では、下記3種類の収益源が存在。
① Nitro Plan:ユーザー特典が利用可能になる月額$9.99の有料プラン(下図参照)

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② Server Boost:サーバー参加メンバーによるサーバー支援システム。一口(1ブースト)月額$4.99で、集まったブースト数次第で拡張する機能が変わる

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③ サーバー内ショップ:ゲームディベロッパーの運営する公式サーバー内で販売するためのラインセンスフィー(金額不明)とゲームの販売手数料(10%)

Forbesによると、①Nitro Planには約100万人のユーザーが課金しており、Nitro Plan単体での売上が約$120Mと推計されている。

創業からこれまで

Discordの前身となるHammer & Chisel社は2012年に設立された。創業者は、2011年にGREEへOpenFeint社を$104Mで売却した、シリアルアントレプレナーのCitron氏。創業から2015年までは、ゲームディベロッパーとしてMOBAの開発・運営をしており、Benchmark、Tencent等から累計$9.2Mの資金調達をしていたが、ゲームディベロッパーとしての結果は出せなかった。しかし、ゲームの開発・運営をする中で、ユーザーの声としてあるゲームプレイ中の課題を発見した。それは、プレイヤー同士で協力プレイをするときに利用するコミュニケーションツールに対しての不満だった。その課題に着目したCitron氏とチームは2015年にDiscordをローンチし、事業をピボットさせる。ローンチ直後からユーザー数は急伸し、僅か8か月でユーザー数は290万人まで成長(下図参照)。また、2017年末には1,400万 DAUの達成を発表しており、その数字は約2年後の2019年10月に公表されたSlackの1,200万DAUを既に越していた。(もちろん当時のDiscordの場合はほとんどのユーザーが課金していないので、フェアな比較ではないが。)
直近では、COVID-19の影響で、ユーザー層の多様化が急激に進んだこともあり、2020年6月には“Your place to talk”というスローガンのもとで、ゲーマー用のコミュニケーションツールから全てのコミュニティ向けのコミュニケーションツールへとリブランディングしている。

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これまでなぜ成長できたか

Discordの成長は、UB Venturesの記事で紹介されている、Product-Led Growthの根幹:「プロダクトをいち早くエンドユーザーに届け、その価値をできるだけ早く感じてもらうこと」を忠実に実践したことが、これまでの成長の背景にあると考える。
① 価値をできるだけ早く感じてもらう
Discordは直近のリブランディングが発表されるまでは、ゲーマーのニーズに応えることだけに集中して開発を行っていた。数あるゲーマーのニーズの中から、「高画質・多数接続のゲームの処理・通信を邪魔せず、セキュリティの高いコミュニケーションツール」を開発・提供することがDiscordのコア価値であると特定。プロダクトを見ると、このコア価値を提供するための工夫が随所に見られる。下記はその一部。
・チャット内で送られるGIFが自動再生せず、CPU使用率の節約を実現
・通話の発信・受信の概念をなくし、通話チャンネルへの出入りで音声通話が接続される仕組みを構築し、通常の通話機能システムの複雑さを軽減
・IPアドレスが特定できない仕組みを構築し、ゲーム中の妨害行為を防げるセキュアな環境整備(昔のSkypeは特定が可能だった)
ターゲットユーザーのバーニングペインを特定し、それを解決することに集中した開発体制が、ユーザーに「価値をできるだけ早く感じてもらう」プロダクト作りを実現した。
② いち早くエンドユーザーに届ける
エンドユーザーに届ける方法の特定の重要さについてCitron氏はGreylock Partnersとのインタビューの中で語っている。

“Even if the product is right and the distribution channel exists, if you don’t know how to find the distribution channel and get the word out in the right way, you can have the right product and it doesn’t matter.”

今ではユーザーがユーザーを呼び込むバイラルが起こっており、マーケティング費に多額投資せずにエンドユーザーへプロダクトを届けられているが、初期はエンドユーザーに届ける過程で試行錯誤していたようだ。最初期にゲーマーの目・耳にDiscordというプロダクトの存在が入るように働きかけたことで最も効果があったのは、Redditへの投稿とTwitchとの機能統合だった。特に後者については、多くのファンを抱えるTwitch配信者が必要とする機能を実装することで、配信者たちが自らファンにDiscordの招待リンクを送り、効率よく広めてもらえるきっかけとなった。

最後に

これまでゲーマー向けのプロダクトとして成長してきたDiscordが本当に他のユーザーセグメントのニーズに応え、より一般的なコミュニケーションプラットフォームへと進化できるかは、まだ正直わからないところではある。ただ、この事例から言えることとしては、やはり大手先行プレイヤーが多く存在する領域は、ニッチなユーザーセグメントを切り出し、そのセグメントの「ど真ん中」のニーズを捉え、徹底的にそのニーズに応えていくことで、後発としても十分戦う余地があるということがわかる。これからの起業を考えられている方などは、既存のメジャープロダクトが捉え切れていない特定ユーザーセグメントのニーズに着目するとアイディアの糸口になるかもしれない。

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