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スタートアップ研究:第一回【Patreon】

第一回は以前から個人的に気になっていたPatreonについて改めて調べました。直近ではCOVID-19の影響でユーザー数を急激に増やしているPatreonですが、事業内容等の概要について述べた後に、これまでの成長を遂げられたのかについて少し考察していきたいと思います。

注目したきっかけ

① プロジェクト単位での資金調達が前提となってきたクラウドファンディング領域の中で、定期的な資金調達を可能とするモデルの構築に成功していること
② クリエイターのエンパワーメントにインターネットは大きく貢献してきたが、広告収益が中心。収益構造上、コンテンツの質より、Viewを多く獲得できるコンテンツが優先されてきたが、新たな収益源を実現することでコンテンツの在り方も変化していくのではないかと考えたため

Patreonの基本情報

<サービス内容>
Patreonは自社を「クリエイター向けメンバーシップSaaS」の会社と定義づけている。一定数のファンを保有するミュージシャン・アーティスト・YouTuber等に対して、直接ファンから定期的な収入を得られるようなシステム(CRM/CMS/決済システム/アナリティクス)を提供。これまで主に広告・イベント収益といった不安定な収入しか得られなかったクリエイターに、安定収益の確保を可能にしている。また、ファンからの定期的な支払いと引き換えにクリエイターはファン向け限定コンテンツやイベントを提供する仕組みとなっている。
国内では、GCP投資先でもあるOSIROや、THECOO、mosh等が類似サービスを提供している。

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<ビジネスモデル>
Patreonは各クリエイターが設定したサブスクリプションの金額の内、5%、8%、もしくは12%の手数料収入を得ている。なお、12%のプレミアムプランは$5,000/月の収入、且つ何かしらのメディア上に10万フォロワーのいるクリエイター向けとなっており、加入者に対しては、システム提供の枠を超えて、個別コンサルティングサービスの提供、商品開発・物販支援、プレミアムネットワーキングイベントへの招待などを行っている。

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トランザクションに対する手数料モデルであるため、Patreonを通じた収入を得ているユーザー(クリエイター)は離脱しにくく、当然、収入を得ていないユーザーは離脱していく傾向にある。そのため、コアユーザーを$1,000/月以上稼ぐことのできるユーザーと定義しており、コアユーザー数と、コアユーザーのARPUが主要KPIとなっている。

<創業からこれまで>
PatreonはYouTube上で活躍する現役ミュージシャンであるConte氏によって2013年に設立された。Conte氏自身がPatreonのプラットフォームで数千ドルの資金を集めたことが話題を呼び、初期は口コミでユーザーが増えていった。
当初はKickstarterなどのクラウドファンディングサービスと比較されることが多かったものの、現在では、寄付・貢献のためのマーケットプレイスという位置づけではなく、クリエイターのためのビジネスツールへと発展している。
順調な成長の中、2019年7月には10万人のユーザーの獲得と、年間GMV$500Mを達成し、$60Mの資金調達を完了。更にCOVID-19の影響で、デジタル広告予算の縮小・リアルイベントのキャンセルによって収入への大きな打撃となったクリエイターが、これまで以上のスピードでPatreonを利用し始めており、今年の4-5月だけで、新規ユーザー10万人を獲得している。

これまでなぜ成長できたか

Patreonに関する記事・ブログ等を読んでいく中で、2017年が現在のクリエイター数・GMV成長における転換期になったのではないかと考える。下記の資金調達時に発表しているクリエイター数とGMV(クリエイターに支払われた総額)を見ても、2017年から両方の数字を開示している。

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① Key MetricをFinancially Successful Creator数(FSCs)と特定
創業初期からバイラル性が効くプロダクトであったため、ユーザー獲得は順調に進捗しているように見えたが、その中には、月に$1ドルも稼げないようなクリエイターも混ざっており、企業成長には直結していなかった。そこで、当社は一定の収益を生み出すことが可能なクリエイターの数(FSCs)を伸ばすことに注力するようになった。また、FSC=「フォロワー数や知名度が高いクリエイター」とは限らず、Patreonを利用したエンゲージメント量や、発信するコンテンツの精度などがクリエイターの“稼ぐ力”に直結しているとの仮説を立てた。このようなFSCになりうるユーザーを効率よく獲得するためのサービス設計が必要だった。

② CSからのフィードバックによる仮説構築とプロダクトへの落とし込み
上記の課題感を持った中、PatreonのGrowthチームは実際にクリエイターとコミュニケーションをとっているCSチームへのヒアリングを重ね、下記6つの仮説を導き出した(原文ママ)。6つの仮説を要約すると、Patreonのサービス自体は、将来FSCになりうるクリエイターの認知は取れているものの、プロダクトの使い方がユーザーに伝わり切っていないことが本質的な課題という仮説を立てた。

Hypothesis 1: Creators with the potential to earn life changing income are lurking in the funnel somewhere
Hypothesis 2: Creators don’t immediately grasp how to use Patreon, but with a few concrete examples they come alive and totally get it
Hypothesis 3: Creators don’t know, and go nuts over, low 5% cut, no contracts, and owning their content
Hypothesis 4: Creators are afraid of asking for money, & this can be solved with in-category comparables
Hypothesis 5: Creators are not 100% secure or confident in the success of their campaigns. They don’t always necessarily themselves as successful. They need to be inspired and supported emotionally
Hypothesis 6: highest-earning creators don’t trust an editor that feels too simple or easy -- they need friction to build trust

そこで、Growthチームとしては、ページエディター内に他のクリエイターの活用事例の掲載や、成功しているクリエイターのインタビューを読めるブログの立上げ等、ユーザーが参考にできる事例を多く開示した。従来プロダクトの使い方はCSが1対1で教えていたが、問い合わせる前に離脱してしまう有望ユーザーを取りこぼさないための改善を施した。また、通常UI/UXをシンプルにし、誰でも操作できるプロダクトを作ることが良しとされているが、Patreon上での活動に、真面目に取り組むクリエイターが集まってくるサービスにするためにも、少し複雑なUI/UXにアップデートし、ユーザー自身が利用後、「手間をかけて作り上げた自分だけのページ」というような感覚が持てる設計に変更した。このようなプロダクトの改善によって優良なクリエイターの獲得が進み、2017年のクリエイター数5万人、GMV$150Mの達成に繋がった。


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最後に

順調に成長しているように見えるものの、2019年1月には代表のConte氏は現状のビジネスモデルだけでは持続的な成長を遂げられないとインタビューに答えている。この先事業としてどのような進化を遂げていくのかはわからないが、上記で紹介した事例のように、プロダクト改善を行う際に、顧客の声を最も聴いているCSや営業部隊のヒアリングを入念に行うことは、日本のスタートアップにおいても参考なるだろう。

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