潜水士
私は潜水艦の訓練生の一員。
チームメートは沢山いたけど、数人だけは思い出せる。
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AちゃんはA君が好き。
あの二人はお互いに両思いだと思う。
何をしていてもAちゃんはA君を目で追っている。
訓練の時、お昼休みの時、
A君が先に海に出たあの日も。
でも A君は帰ってこなかった。
Aちゃんは悲嘆しながらも海の仕事を続けていた。
Aくんが戻ってくることはなかったけど、
Aちゃんは待ち続けていた。
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Bちゃんは不思議な子。
どうやら、深海のライトを付ける任務の
あの先輩が好きらしい。
ある大しけの日、
ライトをつけに行った先輩が戻って来なかった。
次のその任務をBちゃんがかってでた。
ただの1クルーである私たちに
なにかしらの役割を貰えるなんて
非常に名誉な事だけど
Bちゃんの眼光には、光も希望もなかった。
きっと先輩とともに
海の藻屑になりに行くのだろう。悲しい。
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Cちゃんは海を愛する人だった。
海そのものを愛し、海がどれだけしけても、
無のように凪いでも、その愛は変わらなかった。
だからこそ、
海を憎みながらも離れられないでいるAちゃんに
深く同情していたと同時に、哀れんでもいた。
海はそんな悲しみをも包み込む、広大さがあるのにと。
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私にももちろん好きな人はいる。
D君である。
初めはなんとも思ってなかった。
だが、Dくんが海に出る日、あの歌を歌ってくれた。
潜水士の中では有名な話だ。
その歌を歌うとは つまり
愛を伝えようとしているということ。
想い人からのあの曲なら両手をあげたり、
ガッツポーズしたり、
はたまた両手で顔を隠して
恥ずかしがってみたりするだろう。
でも私は何も答えられなかった。
なぜならXちゃんが
Dくんを好きなのを知っていたから。
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私が初めて潜水する日だった〇/〇、
何故か私は潜れなかった。
私の代わりに潜ったのはXちゃんだった。
何をどうしてそうなったのかは分からないけど
私は次の潜水の時ために
Xちゃんと感覚共有させられた。
水に潜る瞬間、息ができなかった。
Xちゃんはボンベをつけていて、
そこから呼吸している。
私は陸にいて ボンベなんて必要ないのに
呼吸困難に陥って閉まった。
どうやって呼吸したらいいのか分からない。
誰か呼吸の仕方を教えて欲しい。
そう願いながらも 苦しんだ。
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その一件から私は
潜水士として落ちぶれてしまった。
みんなからも遅れを取り
水さえも怖がるようになった。
そんな私に D君は無関心だった
今やXちゃんに夢中である。
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一方的な悪意だけを押し付けられ
自由に泳ぐことができなくなり
好きだった人も他人にとられ
孤独になっていった 私の話。
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孤独を自覚していなくとも
他人と距離を置いていたり
苦痛を味わう夢ばかり見るのは
心の底で孤独や苦痛を感じていて
叫びたくても叫べないからだろうか…
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