見出し画像

衛星システム技術の裏側note(第1回)

こんにちは、アクセルスペース CTOの宮下です。先週からはじまりましたAxelspace noteですが、私のパートでは超小型衛星システム、運用システム、衛星画像データ処理システムなど『技術の裏側』に関して紹介してゆきたいと思います。人工衛星などの宇宙技術・宇宙開発に興味のある方、アクセルスペースで一緒に働きたいと思っている方などに向けて発信してゆきたいと思います。また、実際にアクセルスペースの中の人はどんな環境、どんな気持ちで衛星システムの開発に挑んでいるのか、どんなことにワクワクして、どんなことに苦心しているのかなども紹介してゆきたいと思います。この『衛星システム技術の裏側』noteは、私だけではなく、社内エンジニアメンバーにも登場してもらい、マニアックな記事を書いてもらおうと考えています。

さて、第1回目の今回は改めて衛星システムの難しさを紹介し、我々がどんなことを考え、どのように想像し、技術開発に務めているのかを紹介したいとおもいます。
それでは、衛星システムは何が難しいのでしょうか?

  • 衛星を軌道に入れるまでが大変

    • ロケットの調達が難しい(打上スロットの確保、打上コスト)

    • 相乗り衛星は打ち上げ日を我々都合では待ってもらえない(衛星納期が超厳密)→規定の日時までにロケット射場に衛星を完成させて持って行かないと衛星のダミーが代わりに打ちあがっていく(お金は返ってこない)

    • 強い打上振動・衝撃が掛かる

    • 打上失敗のリスク

    • 各種法的な契約、免許取得等

  • 軌道上で衛星を正しく動作させることが大変

    • 宇宙放射線対応・耐性

    • 熱・温度環境(太陽の日照・日陰のサイクル)

    • 真空環境

    • 電力確保

    • 地上との長距離通信

    • 24時間365日ノンストップ

    • 軌道遷移・維持

  • 打ち上げたら基本的に修理ができない

  • 衛星運用が大変

    • 24時間365日ノンストップ

    • 衛星とは常時通信できない

    • 通信速度の制限

  • ビジネス利用として衛星をちゃんと動かすのが大変

    • 確実な姿勢制御

    • 確実なミッション実行(撮影など)

    • お客さんに満足いただけるデータ・プロダクトの生成と早い提供

上記の様々な難しさを克服できる衛星システムを作らなければなりません。宇宙に打ち上げてしまうと物理的な修理が非常に難しいため、電源トラブル、通信トラブル、搭載コンピューター(OBC: On Board Computerと我々は呼びます)の基本ソフトウェアのトラブルなどが発生した場合は、衛星は即死となってしまい、ビジネス的に大きなリスクとなってしまいます。そのため、打ち上げる前に地上で宇宙環境(振動・衝撃、宇宙放射線、温度環境、真空環境、・・)を模擬した環境試験を実施するなど、「二度と触れられない衛星を打ち上げ後に確実に動かすためにはどうすればいいのか?」という難しさと日々ぶつかっています。また、その宇宙環境を地上で完全に模擬することができないという難しさもあります。地上での試験が多くなればなるほど、コストと期間がかかり、衛星本体に試験によるダメージが蓄積してゆきます。例えばロケットの振動を模擬した振動試験は比較的「模擬しやすい試験」ですが、これをやりすぎると打ち上げる前に衛星が破損してしまいます。このような衛星開発を厳しい納期(遅延は許されない)で開発する必要があります。

このような難しい衛星システムをどのように設計し、製造し、宇宙で動かすのか?アクセルスペースのエンジニアはチームで想像力を働かせて開発を進めています。私自身、学生時代とアクセルスペースの衛星をあわせ、のべ12機の人工衛星を打ち上げてきていますが、ミッション成功の嬉しさともに、数多くの失敗や不具合も経験してきました。経験的に思うことは「設計時に不安だと思った箇所は必ず軌道上で発生する」ということです。軌道上での不具合は、自分たちの想像を超える(または地上でのその環境を模擬できなかった、地上で検証できなかった)ところで起こるものであり、自分で不安に思っているような箇所は必ずと言って良いほど問題が起こります。完璧なモノづくりというのはエンジニアリングにおいてはなかなか難しいものですが、チームで知恵を出し、相互に検証しあうことで、軌道上で何がおこるのかという「宇宙に対する想像力知恵くらべ」ともいえる開発は、宇宙開発の楽しさの一つだと思っています。もちろん開発中は辛いこともたくさんありますが、自分が作った衛星が宇宙に行き、初入感(衛星がロケットから切り離され、衛星から電波にのって最初のデータが届くこと)の瞬間はその開発の苦労が吹っ飛ぶような嬉しさがあり、皆で喜びを分かち合います。「うおー」という感じ。これだから衛星開発はやめられないと(個人的には)思います。とはいえ衛星は打ちあがってから本当の勝負なので「うおー」の後にはすぐ衛星をちゃんと動かすような体制になります。本当は「うおー」の写真なり動画をここに貼りたいけど、顔が写っているので避けておきますが、皆さんとても良い笑顔です。

今回の記事は、こんなところで終えたいと思います。次回は、衛星システム全体は、どんな構成になっているのかを紹介し、機械系の部分だけではなく、電気系(アナログ、ディジタル、通信)、制御系、ソフトウェア系、ITインフラ系など様々なバックグラウンドを持ったアクセルスペースのエンジニアがチームとして衛星システムという複雑なシステムを作り上げているというような記事を書きたいと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?