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安倍元首相と日本の宇宙産業

今回はCEO中村の担当です。

2022年7月8日、歴史に残るに違いない、ショッキングな事件が起こりました。安倍晋三元首相の銃撃暗殺事件です。よもや令和の日本でこのようなことが起こるなど、一体誰が想像できたでしょうか。あまりの出来事に、私の元には海外から心配のメールも届きました。

あまり知られていないと思いますが、安倍元首相は、日本の宇宙ビジネスが大きく飛躍するきっかけを作ってくださった方でした。今でこそ、宇宙ビジネスは社会において大きな注目を浴びるまでに成長しましたが、これには日本政府の政策が大きく寄与していると私は考えています。

2010年代前半までは、日本の宇宙政策は大手企業による国策事業を中心に回っていました。当時、宇宙スタートアップは数えるほどしかなく、政府からはほとんど無視される存在だったのです。ところが、2016年ごろを境に、政府の宇宙政策、特に宇宙産業政策は急速にスタートアップを中心としたものに変化していきます。この正確な理由は定かではありませんが、宇宙業界で起こりつつあった民間を主体とした大きな地殻変動が大きな影響を与えていることは間違いありません。

米国では、2000年代前半はSpaceXやBlue Originなどのビリオネアの自己資金による起業が中心でしたが、同後半から2010年代前半になるとNASAや大手宇宙企業出身者による新興の宇宙スタートアップが次々と生まれ、大型の資金調達を成功させて注目を集めていましたし、日本でもそうした動きが生まれつつありました(アクセルスペースも2015年に19億円のシリーズA資金調達を実施しました)。今ではアジア最大級の宇宙カンファレンスに成長したSPACETIDE第1回が開催されたのも2015年です(次回は今月下旬に開催され、私も登壇予定です!)。

また、2016年にアクセルスペースがスタートアップとして初めてJAXA衛星の開発案件を獲得したことは、宇宙スタートアップの技術が成熟し、実用的な領域に入ってきたことを印象付けました。

同じく2016年は、「宇宙活動法」と「衛星リモセン法」のいわゆる「宇宙2法」が成立した年です。それまでは、宇宙スタートアップにとって事業活動の根拠法が明確でなく、急な規制変更による事業継続上のリスクがありました(シリコンバレーでも、当局による規制変更が原因で事業停止に追いやられるスタートアップが時折見られます)。この時は、宇宙スタートアップにとってなるべく事業のやりやすい法制度になるよう、政府から丁寧なヒアリングがあったことが印象に残っています。

2017年には、宇宙政策委員会から「宇宙産業ビジョン2030」という政策集が発表されました。2030年代早期までに日本の宇宙産業の規模を1.2兆円から倍増させるという野心的な目標を掲げ、それを実現するための主要なプレイヤーとしては宇宙スタートアップ、いわゆる「ニュースペース」企業を徹底的に中心に据えていることが特徴です。この政策は世界的に見ても当時かなり先進的で、大きな注目を集めました。

極めつきは、安倍首相の当時の1000億円発言です。2018年3月、安倍首相は宇宙スタートアップ向けに官民合わせて5年間で1000億円の投資枠を作ると宣言しました。これは世界的にも大きな衝撃で、海外の宇宙スタートアップから「日本に会社を作れば大きな投資をしてもらえるのか」という問い合わせが私のところにまで殺到することになりました。

1000億円発言があった日は、ちょうど第3回宇宙開発利用大賞の表彰式でした。アクセルスペースは経済産業大臣賞を受賞し、当時の世耕弘成経済産業大臣と安倍首相に事業紹介をさせていただきました。安倍首相は私の話を熱心に聞いてくださり、ぜひ日本の宇宙産業を牽引していってほしいとエールをいただきました。4年も前の話ですが、首相からの激励に大変勇気付けられたことを、昨日のことのように思い出されます。

衛星の模型を前に、安倍首相に事業説明(2018年3月)

今はただ、安倍元首相のご冥福を心よりお祈りいたします。

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