衛星でビジネスをするということ(第1回)

こんにちは、アクセルスペースCSO(最高戦略責任者)の太田です。
宇宙ビジネスに関連する記事は数年前と比較すると目にする機会が非常に増えたな、という印象を持ちます。しかしその中身は業界の概要であったり、どのように社会が便利になるのか、と言った利活用の話あるいは技術的な話が中心ではないかと思います。私のパートでは衛星の技術の話とその利活用の間をつなぐ「衛星を使った事業構築の考え方」について、複数回にわたって紹介していきたいと思います。人工衛星を使った事業化や新規事業に興味のある方、アクセルスペースで一緒に働きたいと思っている方などに向けて発信してゆきたいと思います。

さて、今回はいきなり事業に関する話になる前に、人工衛星の歴史と軌道の種類について簡単に紹介したいと思います。
皆さんは世界で最初に打ち上げられた人工衛星の名前と打上の年はご存じでしょうか?

答えは1957年にソ連が打ち上げた「スプートニク1号」です。米ソの冷戦時代、この「スプートニク1号」が米国よりも先に打ち上げられた衝撃は「スプートニク・ショック」とも呼ばれ、のちの「アポロ計画」にも繋がったものでした。宇宙開発が好きな方であればご存じの方も多いかもしれません。

では、世界で最初の商業衛星 はどのような衛星で、いつ打上げられたかご存じでしょうか?

答えは1965年に打ち上げられた「インテルサット1号」、世界で最初の静止軌道に投入された通信衛星です。商業衛星と言っても単一の企業ではなく、1964年に発足した国際機関「国際電気通信衛星機構(International Telecommunications Satellite Organization)」が保有・運用していました。今でこそ国を跨いだ情報のやり取りは手軽に行うことができるようになっていますが、当時は非常に貴重な通信手段であり、商業衛星と言っても構築・運用費用も多額であり、国際機関という形が取られていました。個人的にはこのように国も跨いでどこでも通信ができる/アクセスができることが人工衛星を使うことの最大の強みだと思います。

さて、この静止軌道とは、地球の赤道上空3万6千kmにある円軌道を指し、地球の自転速度と同じ速度で回るために、地上から見た時の見かけの位置が「静止」していることから名付けられた軌道です。このため、静止衛星を1基投入するだけで衛星が位置する経度の地域に対して24時間365日安定的にサービスをすることが可能です。言い換えると静止軌道でない衛星は全て地上から見た時の見かけの位置が刻々と変わってしまいます(このような衛星は「静止衛星」との対比として「周回衛星」と呼ばれることがあります)。このため、周回衛星で特定の地点(例えば東京)から見た時に定期的・安定的なサービスを提供しようと思った場合、複数の衛星が必要になるなど、非常にややこしくなってしまいます。
周回衛星がどのような動きをするのか、簡単に説明することは難しいのですが、静止衛星によらない24時間/365日の継続的なサービスの提供を行うため、多数の衛星を周回軌道に投入する事業者もいます。古くは1998年にサービスを開始したイリジウムや今まさに衛星を打ち上げ続けているSpaceXのStarlinkやOnewebもこれに当たります。

ですが、周回衛星の中でも比較的物事をシンプルに考えられる特殊な軌道があります。それが太陽同期軌道(Sun Synchronous Orbit略してSSO)と呼ばれる軌道です。詳細は省きますが、SSOに投入した衛星は世界中の特定の地方時刻(例えば11:00)の上空を飛び続けるという特徴があります。これは観測衛星で非常によく使われる軌道で、アクセルスペースが運用しているGRUSもこのSSOに投入されています。観測衛星のデータを処理する際、どの地点のデータも地方時刻が同じであるため、例えば影の向きや長さについては季節変動による違いだけとなるため、データの処理がしやすいこと、そして世界中で撮影頻度が一定・定期的になるという非常に重要な特徴を持っています(正確には緯度によって若干変化します)。

ここまでごく簡単に典型的な人工衛星の3つの軌道を紹介しましたが、これが事業性とどう繋がってくるのでしょうか?次回はいよいよ具体的な例を引きながら、これらの軌道の特長を事業の特長という側面から見ていきたいと思います。


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