見出し画像

"猟犬達の追撃" J1 第17節 鹿島(A)vsセレッソ大阪(H)

#17 vsC大阪

鹿島 2 - 1 セレッソ大阪

鹿島がリーグ5連勝、セレッソはリーグ6連勝中と好調維持する両雄の対決となった。日程としては鹿島が中6日と余裕をもって準備できたのに対し、セレッソは中2日。負傷明けの選手も抱えるセレッソにとっては決して楽な台所事情ではなかったのかもしれない。リーグ最少失点を誇る堅守のセレッソ。難敵相手にも勝ち星を挙げてきた鹿島だが、まさに正念場となった。

リスク上等のハイプレッシング

 立ち上がりこそ様子を見ていた鹿島だったが、徐々にパスコースの制限から「奪う守備」へと切り替えていく。特に狙い所となったのが

①相手2ボランチがDFラインからボールを引き出した瞬間

②DFライン、ボランチからSHor2トップに送られる縦パス

の2つあたり(②はそもそも狙った形というより、縦パス多めなセレッソに対する自然な反応だったかもしれない)。①はかなり用意された戦術だったように思える。というのも、相手ボランチがボールを受けた瞬間の反応が素晴らしく、悉くボール奪取に繋げる事ができたからだ。しかし、SHとボランチの挟み込みでボールを奪えたシーンは即ショートカウンターを発動できたものの、躱されたりショートパスを捌かれると空けたスペースを使われてしまい逆にピンチにも。特にC大阪の奧埜は鹿島が空けたスペースを使う判断が良く、彼のオフザボールに悩まされる前半でもあった。

 狙いの全てがハマったわけではなく、セレッソの思い通りに展開されてピンチを迎えるシーンも少なくなかった。鹿島のショートカウンターに対しても、ゴールに対する最短のルートを瞬時に塞ぐなど良い守備が目立っていた。流石はリーグ最少失点といったところ。特に瀬古&ヨニッチのCBコンビとGKジンヒョンのユニットは堅牢の一言。鹿島のゴールシーンも、彼らのパフォーマンスがあったからこそのギリギリな得点だったように思える。

空きがちなC大阪両ボランチの脇

セレッソの守備

 ひとつ個人的に印象に残っているのが、セレッソ大阪の守備対応について。鹿島CBがSBへボールを展開すると、必ず対面したSHはかなり速くチェックにいく。前方向へのプレーを制限するためのもので、そのプレス自体はかなり効果があった気がする(小泉、永戸はボールを受けた後前すら簡単に向けなかった)。ただ気になったのは、そのプレスに対してボランチを始めとした周囲の連動性に欠けた場面があったこと。たった1人のプレッシングでは単純にスペースを作り出すだけになってしまい、鹿島はむしろその空いたスペースを用いて前進できる局面が多々あった。疲労なのか、故障明け藤田などのズレなのかは不明...。鹿島からすれば、このズレを利用しない限りかなりビルドアップで手こずったので幸運だった。

優秀なコンダクター、奧埜

 セレッソの個性的なメンツで一際輝きを感じたのが奧埜。決して派手な仕事ばかりをするわけではなかったのだが、総合力とインテリジェンスで役割を全うする素晴らしい選手だった。最前線近くをスタートポジションにしつつも、ボールの位置と相手選手の動きに合わせてポジショニングを調整するセンスがずば抜けていた。鹿島のボランチが上記の狙いを実行するのにスペースを空ければ必ずそこを突いてきたし、マーキングやカバーリングのズレを見つければ必ずそこを咎めてきた。

 セレッソの攻撃手法は速い縦パス(クサビ)を前線奧埜や清武に打ち込み、そこから坂元やメンデスへパスを配給していくスタイルが基本か。清武は崩しのアイディアを提供する役割も担っているのでアタッカー色が強いため、どれだけ奧埜がボールを触って攻撃できるかが肝なのではないか。実際にこの試合での得点シーンも、奧埜のスルーパスがチャンスを創造している。味方の動きを見逃さない、振り返りながらのスルーパスは精度と速度共に最高クラス。まさにしてやられた、という形だ。ブルーノ・メンデスが最前線でフィニッシャーに徹底でき、坂元が1対1に集中できるのも奧埜の影響が大きく思える。実際に、彼に代わって柿谷が入るとセレッソの攻撃カラーは様変わりした。

 柿谷がセカンドトップに入ると清武とのコンビプレーが目立ち、坂元はアイソレーション気味に。坂元を孤立させ1対1で制す狙いだったのならわかるのだが、坂元への配球が止まったのでおそらく不本意だったか。確かに清武と柿谷の高い技術でサイドを破られる事もあり脅威ではあったが、狙い自体は絞りやすかったのも確かだ。奧埜は試合出場が多く、連戦での疲労もあったはず。それでも代えられない理由が彼にはあるのだ。

クロージング成功、5-4-1シフトの鹿島

セレッソ戦終盤

 後半開始直後もハイプレスで相手の出鼻を挫き、そのまま押し込み得点できた。理想的な後半スタートを切った鹿島だったが、その後も手を緩めることなく前線でのプレッシングを行っていった。アラーノ、和泉の両翼は機動力を遺憾なく発揮することが出来、まさにうってつけの配役だったかもしれない(荒木も悪くはないが、彼の守備は高い位置でこそ活きる)。それでも疲労で足が止まり始めた70分~はかなり失点の匂いが漂っていた。セレッソからすれば、その時間帯に畳みかけたかったのだが。

 78分にザーゴが動く。残り10分+アディショナルをタイミングでMFアラーノに代えてDF町田を投入、5-4-1のフォーメーションにシフトする。DFラインの密を高めつつ、ボールを奪えば冷静なショートパスで前進とボールキープを繰り返していく。前節はクロージングに苦しんだが、今節はタイミングと狙いがガッチリとハマった。特に86分瀬古が警告を受けたシーンの直前に見せたセーフティパスワークは理想的だったのではないだろうか。色気を見せずに淡々とボールキープを見せる鹿島は、まさに「鹿島る」ことの真骨頂を見せてくれた。

タイトなゲームを制する勝負強さこそ、鹿島の強み

 楽な試合では決してなかったし、負ける可能性も十分あった。鹿島の失点シーンなどは反省して改善しなければならない。虚を突かれた格好でなす術なく失点してしまったのだから、今後も再現されて失点を重ねる可能性が残っている。あってはならない失点ではあった。とはいえ、そんな試合をモノにできたことは本当に大きな収穫だ。

 セレッソという素晴らしい相手に結果を出せる事を我々は誇るべきだろう。試合終盤、レオ・シルバのハンド疑惑(個人的にはPK)などもあって終わり方自体は後味が良くなかったが、それを差し引いても素晴らしい試合だった。坂元は評判通り高い推進力とアジリティーを見せてくれたし、彼相手に奮闘した永戸は大きな手応えも感じているだろう。坂元はブレイクスルー候補生どころか、既にブレイクしている存在。攻めても速いのだから、守っても速い。昨季J2でプレーしていたとは思えないインパクトを受けた。

 前節課題と感じたクロージングの仕方にも改善が見られたし(クロージング開始する前の10分間は怪しかったが)、鹿島を応援する誰もが手応えを感じた試合だったはず。次節は敗北を喫した湘南だ。彼らに見せつけてやろう、過去の我々ではないことを。戦術のしがらみなどなく、個が組織を活かし、組織が個を活かす今の我々を。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?