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"耐え忍んだ45分間"J1第35節 鹿島(H)vs浦和(A)マッチレビュー

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鹿島 1 ー 0 浦和

 前節広島アウェイ戦を4-1で快勝した鹿島。ACL出場権獲得が今季残る唯一の目標であり、共にACLを目指す浦和との対戦となりました。前節に続いてクォン・スンテが先発GKとして名を連ねており、今節もベテランらしい落ち着きと守備陣を統率するリーダーシップを遺憾なく発揮。もしかすると、今季残りのリーグ戦は彼が先発を務めていくかもしれませんね。

主導権を握った前半の鹿島

 前半45分間、鹿島は高いインテンシティを保ち続けてゲームの主導権を握ることができた。狙いがハマったのは「相手SBの囲い込み」。2トップでSBへの展開を誘発すると、周囲のパスコースを塞いでSHが強襲。ボールをそのまま奪い切るか、ラフなロングパスを蹴らせて回収した。

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 浦和は低い位置からのビルドアップ時(ゴールキックなど)に平野がサリーダして3+1を形成。対して鹿島は2トップを当て、両脇のCBが持ち上がることはある程度許容しつつもサイドへの追い込み、伊藤への牽制を優先した。伊藤番を立てることで鹿島ボランチはCBorサイドへのカバーに集中することができ、セカンドボール回収に貢献。関川、町田がFWユンカー、江坂に対して空中戦で奮闘したこともあり、「相手が蹴っ飛ばす=守備の成功」とも言える状況だった。ユンカーと江坂は縦関係というよりも横並びの2トップに近い形。関川と町田は常に1対1の状況で、ミス=失点に繋がりかねない状況だったものの圧巻のパフォーマンス。時には互いの背後をカバーリングしあうことで、失点のリスクは最小限にとどめようとしていた。

 浦和が大外に開いたSBへ展開した瞬間を皮切りに、内側のレーンに留まっていた鹿島SHがスプリントをかけてアプローチ。前後のパスコースをSBとFWが、中央をボランチや伊藤番が塞ぐことで1on1を作り出すことに成功し、そのままボール奪取もしくはラフ気味なロングボールを蹴らせるシーンが続いた。浦和は前半通してこの守備に苦しみ、敵陣でのプレー時間確保に至れなかったことが悩ましかったはず。逆に鹿島は、この守備がハマったことで相手陣内でのプレーに終始でき、多くのシュートチャンスとセットプレーに恵まれた。その結果、36分に土居のゴールで先制して試合を折り返せたのだから言う事なしだ。

趨勢覆した小泉佳穂という存在

 やられっぱなしであるはずもないリカルド・ロドリゲス監督。ハーフタイムで2枚交代を決断し、ユンカー、汰木に代えて小泉、大久保を投入した。小泉はトップ下に入り、江坂1トップへ移行。大久保はそのまま汰木が務めていた左SHに入った。この交代が試合を大きく動かし、前半とは全く違った様相を呈していく。

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 小泉佳穂投入の影響は凄まじかった。バイタルエリアをとめどなく動き回り、ボランチの動きを牽制することで鹿島秩序を破壊。また平野を下げずに西川が積極的にビルドアップに参加することで中盤の枚数不足も解消した。小泉の投入に合わせ、おそらくリカルド監督がHTで指示したのが「中央経由でのビルドアップにこだわること」。安直に開いたSBへ出すのではなく、必ずボランチor小泉を経由することで鹿島の選手が持つ意識を”内側”へ向けさせてきた。徐々に中央の密度が高まり、外が空く。前半ハマっていた囲い込みの策を計ずるには、余りに立ち位置が定まっていなかった。

 ユンカーが交代したことで前線のターゲットが江坂のみになったものの、もとより地上戦をメインに想定した布陣を敷いたことでメリットのが大きかった。それでも時折ロングボールを後方から引き出し、足元に受けてもポストプレーで起点となる江坂は存在感を徐々に発揮していく。浦和の変化に対して相馬監督がどう指示したのかはわからなかったが、大きな修正や変更は加えられなかった気がする。それもあり、ボールが途切れて時間が止まるごとに鹿島のDF陣やボランチは集まって意見交換を行っていたのも印象的だった。特に三竿とスンテは時間さえあれば指示を飛ばしていたし、彼らがピッチにいた意義は非常に大きかったのではなかろうか。

 浦和の前進を阻むための方策が定まらず、鹿島の自陣撤退をベースに試合が進行。そうなると次に牙を剥いてきたのが浦和SBの西、山中のボールスキル。アーリークロスは常にいやらしいポイントを突いてくるし、隙あらばファーサイドで空いた選手にボールを届けてビッグチャンスを紡ぎ出した。自陣での守備を強いられ、特に町田がサイドへのカバーリングで釣り出されるとPA内の強度が露骨に低下した感じもあった。CBをいかに外へ釣り出されずに行くか、という整理も今後取り組む必要がありそう。槙野投入に合わせて犬飼が入ったことでうやむやになったが、気になるところではある。

とにかく後半は「忍耐」が続き、先制点を守り切った。ひたすら走り、球際で戦い、やれることを精一杯やって掴んだ勝利。勿論シュートチャンスもあったので追加点を奪えていれば、後半もよりポジティブな印象に変わっていた可能性はある。

 LIXIL賞を受賞した安西は飛びぬけて攻守に貢献していた印象も強い。前半は主に攻撃で、後半は守備でその機動力を発揮。終盤になっても全力のスプリントで攻め上がり和泉のサポートに徹した姿には感動すら覚えた(と同時に本当にこの人スタミナ無尽蔵なんだなと実感)。明らかに誰より多くのタスクをこなして組み立てもフィニッシュも崩しもやっていた彼はMOMに値していたはず。ボールを受けて囲まれても簡単に失わなかったしね。それもあってか浦和は後半、常本側での攻めを受け入れていた印象もある。前半は安西が攻めて常本が守り、後半は常本が攻めて安西が守り担当な時間帯が増えていた。攻守のクオリティに関しては間違いなく前者の組み合わせが好ましい。

次節、大分戦へ

 なんとかライバルを下してACL出場権確保に向け前進。得失点差で4位に浮上したものの、神戸も勝ち点を伸ばしたことで3位まで5差を残している。残り3戦は大分、サガン、仙台と残留争い2クラブと激突。更にサガンは今節で王者・川崎を3-1で下しており意気揚々。なんとも荒れそうな相手が残ってしまいましたな・・・・。

勝てて良かった、とつくづく思う後半だった。気になったのが、感覚的にプレーに入りやすいピトゥカなどに対して、周りがどう合わせていくべきかがかなりまだまだ曖昧だと思ったこと。例えばピトゥカが相手GKまでのチェイシングをした時、後方の選手らがどうその後の準備をするのは整理できていいたとは思えなかった。誰が彼の空けた位置を埋めるのか、という問題を常に三竿が責任感以て単独でどうにかする状況ばかりにすら。ピトゥカに合わせるのか、それともピトゥカに合わせて貰うのかははっきりさせておきたいし、それを三竿のみに背負わせるのは違う気もする・・・。

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