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ノンデザイナーのフォント旅 #02 Wingdings

はじめに

今回のアイキャッチを見て、「あれ?」と思ってもらえていたら
私の目論見は半分成功しています。
#01のComic Sansのようにそのタイトルのフォントで記載予定だったのですが、今回ばかりはそうはいきませんでした。

そう、"Wingdings"は記号を集めたフォントなので、
アルファベットと数字を表したくてもできないのです!
と、いうことで、自分では名乗れない"Wingdings"に代わって、
フォントの優等生"Helvetica"に付き添いをお願いしました。

※上下対照関係にしたかったのですが、調整の仕方がわからなくて
不協和音みたいなカーニング?になっています。

上段 フォント"Wingdings"で入力した"#02 Wingdings"
下段 フォント"Helvetica"で入力した"#02 Wingdings"

初めて一覧を見たとき、コンピュータのフォルダがあってすごい!
この時からPCアイコンが反映されてたんだ!と思いました。
成り立ちを調べていると当たり前のことだったんですが…笑
ハサミのアイコンがどういう場面で使われていたのかすごく気になります。

今回は、どこかでこの文字を見たことはあるけれど、
これってフォントだったの?という疑問でいっぱいになりながら
調べました。

そろそろ、「こいつデザインする気あるのか?」と言われそうな順番で
進んでいるフォント旅ですが、
デザイン領域でよく利用される有名なフォントは
他の方がリサーチしてくださっていると思うので、
我が道を突き進みます!!!


調べる前のWingdingsへの印象

前回のサンズの例に漏れず、
こちらも大好きなゲーム"UNDERTALE"のキャラクター、
W.D. ガスター博士(W.D.がWingdingsの略)が
話す際に使われているフォントです。

といっても、かなりの低確率イベントやゲームデータ改変でしか出会えず、
通常のゲームプレイではほぼ現れないキャラクターなので、
普通にプレイした方はご存じないと思います。

ちなみに、一部のファンの間では、"Wingdings"は
「ガスター文字」と呼ばれています。
ガスター"フォント"じゃないところが面白いですね。

詳しいことは「こぼれ話」で書きます。

※"UNDERTALE"はネタバレ一切なしで楽しんでもらいたい
ゲームなので、少しでも気になったらプレイ推奨です!
もう一度記憶を消してやりたいほど素晴らしいゲームです。
(PCゲーム STEAMなら980円でお得です!)

成り立ちと周辺

まずは動画のご紹介

ぱっと見で分かりやすい動画があったので紹介します。

活版印刷前後の装飾

グーテンベルクによって活版印刷が発明されるまでは、
本を作る手法は手書きによる写本が中心でした。

ただ、手書きなのでどうしても労力と時間がかかってしまいます。
これを解決しようとしたのが活版印刷ですね。

写本の中には数々の装飾が加えられた装飾写本が多数作られており、
情報伝達に加えて鑑賞に耐えうる、一種の芸術作品でもありました。

活版印刷が導入されて
初期に印刷されたものは「インキュナブラ」と呼ばれ、
手書きによる手間を省略しつつも、
いかに装飾写本そのままを再現するかが重要でした。

↓グーテンベルクが印刷した世界初の聖書のときは文字を活字で印刷した後
手書きによって装飾が加えられていたようです。

当時、印刷された聖書は装飾画家や朱書き師などによって手書きでイニシャルや朱書き、欄外装飾などが入れられたので、1冊として同じものはありません。

慶応義塾大学メディアセンター デジタルコレクション グーテンベルク42行聖書
https://dcollections.lib.keio.ac.jp/ja/gutenberg/explanation

↓国立国会図書館による特設ページ

装飾活字"Dingbat"と時間効率

ただ、せっかく印刷で労力と時間を節約できたのに、
結局手書き要素が残ってしまっては本末転倒です。

そこで発明されたのが、"Dingbat"という絵文字フォントでした。
先に装飾部分を再利用可能な活字で作っておけば、
装飾の手書き要素を減らすことができます。

ヘルマン・ツァップ(Herman Zapf)氏の"Zapf Dingbats"と"Zapfino"

フォントに詳しい方なら、"Optima", "Palatino", "Zapfino"などなど
多数の名作フォントをデザインしたヘルマン・ツァップ氏を
ご存知かと思います。
彼もまた、Dingbatを含んだフォントをデザインしています。

  • "ITC Zapf Dingbats"
    1997年にデザインされた"Dingbats"を集めたフォントです。
    ITCは"Zapf Dingbats"がライセンスを受けている
    International Typeface Corporation社のことです。

  • "Zapfino"
    1998年にデザインされたカリグラフィの要素が強いフォント。
    繊細な線がとても美しいです。

  • "Zapfino Extra"
    2003年にツァップ氏と小林章氏が共同でデザインした"Zapfino"の
    再編版(PCフォント)です。
    ※ツァップ氏がデザインの指示・監修、
    小林氏がPC上での編集を行っていたようです。
    ちなみに"Zapfino Extra Ornaments"にDingbatsが収録されています。

    その他個人的に面白いなと思ったのが、「記念数字の追加」がされていることです。
    確かに周年記念でポスター制作があるので最初からデザインされてあると
    便利ですね。
    他のフォントにもそういうプリセットがあるんでしょうか🤔

↓小林氏の"Zapfino Extra"コメンタリーより抜粋。
二人の信頼関係が伝わってきます。

最初のうちは Zapf氏も「ここを細く」というふうに細かく指示を出していたが、少し経ってからは「この字を良くしろ」というだけで細かい指示を出さなくなり、また私も指示がなくとも完璧に直せるようになりました。Zapf 氏の見ているところや考えていることが解るために私はZapf 氏の右手になることができたのです。

ライノタイプ社 Zapfino Extra(ツァプフィーノ・エクストラ) http://www.linotype.co.jp/Zapfino%20Extra%20detail.html
優雅な"Zapfino"でドイツ語で愛を叫んでみる

↓文字盤に"Zapfino"を採用した時計もあるみたいです

Microsoftへの搭載

"Wingdings"は、1990〜1991年にKris HolmesとCharles Bigelowによって
編成されました。
(元々は別のフォントファミリーの補完の役割だったようです。)
コンピューター関係に加え、伝統的なアイコンも含まれています。

※symbolやdingbatsなどの通常のフォントセットには含まれない文字を表示するフォントをパイフォントというようです。

Wingdingsには別バージョンのWingdings2とWingdings3があります。
サンプルを見ると分かりますが、内容もかなり違います。

ヴィンセント・コネア氏の"Webdings"

前回の記事のテーマ"Comic Sans"の作者であるコネア氏も、
1997年に、Windows98のフォント"Webdings"をデザインしています。

こちらの方が画面に奥行があって風景をイメージしやすくて好きかも。

Webdingsの一部

Unicord 7.0

2014年のUnicode 7.0では、"Wingdings"や"Webdings"から派生した
記号が含まれていて、特殊なフォントを使わなくても
表すことができるようになりました。

Symbolフォント

アルファベットが割り当てられている位置に別の文字が割り振られている」という点では、Symbolフォントとも共通しています。
分類としてはDingbatsという括りの中に、
Symbolフォントというカテゴリがあるイメージかなと思います。

Webサイトを作るときにFont Awesomeを使ったことがあるので
そちらの成り立ちを調べても面白そう。
アイコンって眺めているだけでも可愛いんですよねー。

↓Symbolフォントで日本地図が作れる"Prefectly"の活用事例

↓「アルファベットが割り当てられている位置に別の文字が割り振られている」ということは、
フォントを変更したときに予期せぬ内容になることがあるので注意

↓Symbolフォント周りの情報がまとめてくださっている!と
思ったんですが、編集履歴が9〜10年前なのでまた変わっていそうですね。

こぼれ話

"UNDERTALE"のガスター博士

さて、今回このフォントを選ぶきっかけになった
W.D.ガスター博士は超低確率で出てくる謎多きキャラクターです。
物語の進行時点では既に死去していることが示唆されており、
語りかけて来ることは本来あり得ないキャラクターでもあります。

※"UNDERTALE"には小さなネタや隠し要素が大量に散りばめられていて、
発表から約8年経ってもなお、ファンの考察が活発なゲームです。
ちなみに、公式からガスター博士について明確に言及されたことはないので、あくまでもファンの考察でしかありません。

↓"Wingdings"が出てくる場面 ※不協和音が続くのでミュート推奨

↓ネタバレ注意⚠️

"UNDERTALE"の一部ファン界隈で、
サンズ・パピルス・ガスター博士は「フォントファミリー」
と呼ばれています。

もちろん、書体用語のフォントファミリーではなく、
フォントを基にしたキャラクターの家族、
ということで「フォントファミリー」と呼ばれているようです。
※一応サンズとパピルスの父親…という設定が囁かれています。

「はじめに」でも触れましたが、文字をそのまま読める
"Comic Sans"や"Papyrus"とは違い、
"Wingdings"はそのままでは読めません。
作者はなぜわざわざ解読が必要なこのフォントを使ったのか🤔
個人的には、異質なもの、理解できないものの象徴
でもあるのかなとも思います。
エンコードの方式が異なると文字化けするのと同じように、
別の世界の住人であることも示唆されていそう。

解読といえば、ポケットモンスタールビーサファイアでも、
謎解きに点字が使われてますね。
記号⇄文字で相互変換できるものでまとめても面白そう。
(モールス信号とかエニグマ暗号とか)

米津玄師のツアーグッズ 2023

米津さんは"UNDERTALE"のファンを公言していて、
「ごめんね」という"UNDERTALE"をイメージした曲を
作られているほどです。

そんな彼の新しいツアーグッズがこちら。
KUUSOUを"Wingdings"で表記すると、グッズに表示されている
記号の並びになるようです。

https://twitter.com/hachi_08/status/1647890389943328768?s=20

表面上では理解できないけれど、元ネタが分かる人には分かる。
基になったテーマを深く解釈し、その感覚を大事にしている姿勢こそ、各種作品とのタイアップで信頼されて所以かもしれません。

西洋絵画を理解する際に聖書の内容を知っていること≒教養の素養が
前提になっているのと似た構図な気がします。


テーマ解釈型のアーティストといえば、
「小説を音楽にする」というコンセプトで活動しているYOASOBIもですね。

「アイドル」はアニメ「推しの子」のOPタイアップ曲ですが、
こちらの楽曲も、原作者が書き下ろした小説「45510」(赤坂アカ 著)
を基にしています。

本筋ではないのでアニメを見ているだけでは分からない、
絶対的なアイドルへの信奉と歪んだ執着の深掘りが
曲にも反映されています。

ブラウザクラッシャー You are an idiot.

元々は楽しい記号なのに、どうして黒地に白だと
こうも怖くなるんだろう。

参考資料

↓まずGigazineさんの記事で概要を掴んで、
その成り立ちにのめり込んでしまいました。

↓国立国会図書館によるインキュナブラの特設サイト
フォント旅も蓄積できたらこんなサイトを作ってみたら面白そう

↓"Comic Sans"でもお世話になった本

Microsoftの学習用ドキュメント

まとめ

ただの記号フォントだと思っていたのに、こんな歴史があるんだな、
という発見があってとてもワクワクしました。

思考があっちこっちに飛ぶので、ほぼ私だけが楽しい記事になってしまいました…。
どうにかしてまとめてみようとはしたんですが、
永遠に出せなくなりそうだったので、
上手いまとめ方を思いついたらまた整形していこうと思います。

まずはアウトプットして、それから人に伝える形を模索する方が
自分には合っていそうです。
デザインって、情報の取捨選択も大事だなー。
的確に伝えようとすると、むしろ捨てるべきことの方が多くなってしまう。


装飾活字を見て、学生時代に「本が好きだから」という理由で
マインツのグーテンベルク博物館に行ったことを思い出しました。

あの時は下調べが不十分すぎて、スタッフさんが
ドイツ語でマンツーマンで話してくださった贅沢な時間を
半分も理解できなかったのを後悔しています。
(ここ見ても大丈夫ですが?的なことをドイツ語で話しかけたから
理解できると思われたようでした)

印刷周りのドイツ語をnoteでまとめたら面白そう。
活版印刷の実演が見れるので、また行きたいなあ。


ちなみに、入力した文章を"Wingdings"に変換してくれる
サイトもありますので仲間内で暗号を作りたい気分のときにぜひ。


WordPressサイトではドイツ語学習関係の情報を発信しています! 良ければこちらもどうぞ! 無知の知晴れ https://awonohata.com/