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【アシスタントレポート】プライドがぶつかり合った全国の切符争い〜神奈川IH予選男子レポート

アシスタントの山宮です。今回の記事は、6月27日に開催された「全国高等学校バスケットボール選手権大会 神奈川県予選(インターハイ神奈川県予選)」最終日の男子の2試合です。今回は初のインタビューにも挑みました。選手のコメントを織り交ぜた記事を、ぜひお読みください。

全国高等学校バスケットボール選手権大会 神奈川県予選 最終結果

 支部予選を勝ち抜いたチームによるトーナメント形式で行われ、ベスト4からは総当たりのリーグ戦で2枠のインターハイ出場権を争う。
 男子の最終結果は以下の通り。

優勝:桐光学園(3勝0敗)
準優勝:法政大学第二(1勝2敗)
3位:湘南工科大学附属(1勝2敗)
4位:県立上溝南(1勝2敗)

 桐光学園が無敗で優勝を決め、残る3チームが1勝2敗の三つ巴に。得失点差で法政二が2位となり、インターハイの出場権を獲得した。

2度の延長戦へもつれた、全国への切符争い――法政二×湘南工大附ゲームレポート

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 堅いディフェンスを基盤に試合を展開する法政二と、鍛えられた走力を生かしたスピーディーなバスケが魅力の湘南工大附。異なる特徴を持つ両者は、春の関東大会予選の5位決定戦で対戦しているが(このときは3点差で法政二が勝利)、今大会は両者ともに1つ上の回戦に勝ち上がり、インターハイへの出場権をかけて戦うことになった。

 この試合を0勝2敗で迎え、インターハイ出場に向けて後がない湘南工大附は、「12点以上のリードをつけての勝利」という厳しい条件が課された。

「12点」の攻防をめぐり、勝負は延長戦へ 
 試合は法政二のエース・佐藤正樹(7番・3年)の得点を皮切りにスタート。インターハイ出場を決める大事な一戦ということもあり、序盤はお互いに硬さが見られたが、その雰囲気を一変させたのが、法政二のコラン直生ジュリアン(18番・3年)。ピックアンドロールから相手ディフェンスを崩すと、的確なパスで稲葉潤(35番・3年)のスリーポイントをアシスト。このワンプレーで法政二は勢いづき、湘南工大附もそれに食らいつくように得点を重ねる。

 湘南工大附はエース齋藤裕太(24番・3年)の連続得点で前へ出る時間もあったが、法政二もコラン、稲葉、センターの坂本温人(17番、3年)が続けて加点し、両者拮抗した試合展開。29-27、法政二のリードでハーフタイムへ。

 第3クォーターは両チームの中心選手の活躍が光る。法政二はコランに加え、前半2得点と精彩を欠いていた佐藤が一変、気迫あふれるプレーで攻め込み、チームを勢いづける。しかし、湘南工大附の齋藤がそれを上回るパフォーマンス。このクォーター11得点の大活躍で6点のリードを作り、インターハイ出場へ望みをつなぐ。

 第4クォーター、決められたら決め返す一進一退の攻防に、会場が沸く。湘南工大附は鈴木春斗(19番・2年)、法政二はコランがスリーポイントを立て続けに3本ずつ沈めるなど意地を見せあう。残り17.6秒、66-66で湘南工大附がタイムアウト。湘南工大附の今野雄三コーチは「ただ勝つだけではインターハイには出られない。延長戦で点差をつける」と策を講じ、ラストポゼッションはボールをキープしてのタイムアップを選択した。

あと2点が届かなかった湘南工科大附
 とにかく12点以上の差をつけたい湘南工大附だが、法政二も負けられない。髙橋昂汰(5番・2年)がリバウンドやドライブ、佐藤が力強い連続得点で先行。先行され、反撃を図る湘南工大附は、齋藤を筆頭に追いかけ、残り数秒の土壇場で鈴木がスリーを沈め同点。クォーター序盤にリードを許すも、底力を見せ再延長へ。

 既に45分間の激闘を繰り広げている両者だが、ここでも湘南工大附の齋藤が自慢の得点力を最大限に発揮。厳しい体勢からリバースレイアップをねじ込むなど、連続13得点。彼の多彩な攻撃パターンに度々会場がどよめく。対する法政二は佐藤、コランに加えセンターの坂本が加点。湘南工大附は止まらない。舩木敬司(1番・2年)のスリーポイント、齋藤の加点で11点リードにまでこぎつけ、待ちわびたインターハイへあとワンゴール。湘南工科大附の盛り上がりが最高潮になったのも束の間、齋藤のファールマネジメントミスで、法政二にフリースローを与えてしまい、齋藤は頭を抱える。しかし、残り3.1秒、10点差でもう一度ボールを得る。タイムアウト、インターハイの切符をつかむラストチャンスへ作戦を練る。

 湘南工科大附のスローイン。法政二はここまで49得点の齋藤を徹底マーク。最後に望みを託したボールは法政二の厳しいディフェンスにラインを割ってしまう。残り1.8秒、最後は法政二がボールをキープし10点差でタイムアップ。50分の激闘を終えると、両者は互いを称え合った。気持ちをぶつけ合う選手の姿に感無量であった。

 再延長に及ぶ激戦を制したのは湘南工大附だったが、選手はうつむき、悔しさをにじませる。得失点差によりインターハイへの出場権を獲得した法政二は、エース佐藤が精彩を欠いていた時間から、コラン、髙橋を筆頭に全員バスケでチーム力を発揮した。湘南工大附は齋藤がチームを引っ張り、鈴木がシューターとして仕事を果たした。今後、他選手の成長が上乗せされれば、さらなる躍進に期待できるだろう。

お前で負けても仕方がない
 主力2人を怪我で欠き、今大会を迎えた湘南工大附において、エースの齋藤にかかる負担は相当なものだった。不用意なファールがあったことは事実だが、今野コーチは試合後、「お前が中心なんだからお前で負けても仕方がない。よくここまで頑張った」とエースをねぎらったという。

 また、この大会は齋藤以外のメンバーも勝負どころで意地を見せた。光るシュートタッチを持ちながら積極性が今ひとつだった鈴木は「外れてもいいからどんどん打っていけ」という今野コーチの声掛けに背中を押され、5本のスリーポイントを含む19得点とエースを支えた。

 春季大会で大敗したアレセイア湘南を破って決勝リーグ進出を決め、今大会2位でフィニッシュした法政二にも勝利。今後につながる手ごたえを得た今野コーチは「ウインター予選では(今回優勝した)桐光に勝つことを目指したい」と目標を掲げた。

不本意に終わったものの、目先は本戦へ
 インターハイの切符を獲得したものの、前半はエースとして不十分なパフォーマンスに終わった法政二の佐藤。しかし後半では20得点と巻き返しを見せた。鈴木恭平コーチは「落ち込んだ時は大丈夫だよと励まして、信じて捨てないで育ててようやくここまで来た」と佐藤の成長を振り返る。対する佐藤は「不本意でうまくいかないことが多かったが、みんなに助けてもらった」とチームメイトやスタッフ陣への感謝を示し、「個人個人の力を高めて、法政を全国に見せたいと思う」とインターハイへの意気込みを語った。

予選で不完全に終わった分、インターハイ本戦では本来のアグレッシブなプレーで法政二を全国に知らしめる立役者となってほしい。


春季大会決勝のリベンジに燃えた県立上溝南――桐光学園×県立上溝南

春季大会の覇者である桐光学園は、チームフラッグに掲げる「堅守速攻」が持ち味のチーム。絶対的司令塔の谷口律(5番・3年)、キャプテンとしてチームを引っ張る前田健冴(4番・3年)、シューターの角田十希(3年・6番)、オールラウンダーのオドゲレル・トルガ(3年・7番)とバランスの取れたアウトサイド陣、神奈川では希少な195センチオーバーのセンター・ウォーレン航喜(3年・8番)と県内有数のタレントを擁する。

 対する県立上溝南は今野海輝(4番・3年)、本木幸介(5番・3年)、安藤祐人(9番・3年)の3選手を中心にオフェンスを展開。スターターの4人が180センチ以上の桐光学園に対し、チーム最長が181センチとサイズで劣る分、八鍬海(6番・3年)、遠藤猛(7番・2年)が体を張ってインサイドを支え、全員で走り、リバウンドやルーズボールにハッスルするチームである。

先手を取っていこう
 「前回(春季大会決勝)は入りの部分で弱気になってしまったので、今日はしっかりと先手を取っていこうと話した」という今野の言葉の通り、県立上溝南は序盤からエンジン全開。第1クォーターで15点を奪った本木を中心に、積極的に得点を重ねる。桐光学園は角田のスリーポイント、谷口のドライブからオドゲレルの合わせと主力が躍動し、ベンチから出場した伊藤正樹(13番・2年)と八田優里亜州(15番・2年)も得点を重ねる。第1クォーターは25-23で桐光学園の2点リード。
 
 第2クォーターも引き続き、本木を中心に得点を続ける県立上溝南。「(上溝南は)4、5、9番がチームの中心ということはわかっていた」(谷口)と、桐光学園は試合前からポイントを理解していたにも関わらず、県立上溝南の勢いを止められなかった。それでも桐光学園は前田の連続スリーポイントなどで徐々にリードを広げていく。テンポのいいオフェンスを繰り広げる桐光学園と、八鍬のリバウンドや中心選手の加点で追いすがる県立上溝南。45-41。変わらず桐光学園リードで前半を折り返す。

 後半、安藤の得点で先行した県立上溝南は、13-3のランで4点のリードを奪う。しかし、「前半からブレイクが出せなかった」と反省した桐光学園の谷口が黙っておらず、クォーター開始から約5分間で3得点にとどまったチームを奮い立たせる。攻守が切り替わると、谷口はそのまま相手ディフェンスを突破し、バスケットカウントを決める。しかし、県立上溝南も
そう簡単に連続得点を許さない。今野、本木が立て続けに加点をすると、勢いのままこの試合最大リード。52-64で最終クォーターを迎える。

意地を見せた桐光学園
 谷口の連続得点で始まった第4クォーター。声を張り上げ、チームを鼓舞する谷口の姿に呼応するようにチーム全員の目の色が変わる。角田やウォーレンの得点で、開始約2分で64-64の同点に追いつき、堅い守りから県立上溝南のターンオーバーを誘発。神奈川ナンバー1としての意地を見せる。

 今野が「(桐光は)少しでもスキが空いたら打ってきて、それを決めてくる強さがある」と語ったように、本来の自分たちの動きを取り戻した桐光学園は、谷口の連続スリー、八田の加点でリードを広げる。県立上溝南は終始、今野、本木が力強さを見せるも、最後はここぞと言わんばかりに畳みかけた桐光学園が77-74で勝利。両者のプライドがぶつかり合い、どちらに転ぶかわからぬ展開だったが、最後に桐光学園がギアを上げた格好となった。

目先は最後のリベンジのチャンスへ
 あと一歩のところまで桐光学園を苦しめた県立上溝南の今野は「3Qまでは、自分たちの気持ちを乗っけて良い試合ができたが、4Qで桐光学園の方が気持ちの面で勝っていた部分があると思う」と振り返り、「最後の大会は、今回のリベンジで優勝できるように頑張ります」と前を向いた。

絶対自分がプッシュしなきゃ
 桐光学園の谷口は「(3Qまで)速攻が出ていなくてチームの雰囲気も重くなっていたので、4Qは自分がプッシュしなきゃいけないと思った」と振り返った後、「インターハイでは桐光学園の最高成績がベスト8なので、その壁を越えられるように頑張っていきたいと思う」とインターハイへ意気込みを語った。

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県内で肝を冷やした桐光学園は、さらなる高みに向けて「堅守速攻」に磨きをかけて、インターハイに臨むであろう。

記者として今大会を振り返る


 今大会は混戦であることが見て取れた。ベスト8の顔ぶれは関東予選から変わっていないが、8チーム中5チームが順位を入れ替えた。順位を上げたのは、レポートでも紹介した法政二と湘南工大附。県立上溝南は順位こそ下がったものの、泥臭くリバウンドへからむチームスタイルと、キャプテン今野が「どこのチームよりも練習している自信はある」と自負する姿に、今後への可能性を感じた。

 前回3位のアレセイア湘南、4位の横浜清風はベスト8に終わった。3年生にとって最後の大会となる、ウインターカップ予選へのリベンジに期待が寄せられる。そして、春夏と連続優勝を果たした桐光学園は、「ウインターカップ予選も優勝する」(谷口)と、県内3冠に向け、さらなる高みを目指す。
 
 最後に、今大会を制しインターハイへ乗り込む桐光学園、法政二の2校の活躍に注目したい。

おわりに

選手として大会に参加してきた身として、歓声の有無を大きく感じました。関係者と限られた部員がどよめく姿を見て、全部員や保護者の歓声や応援があったらどうか、満員の会場だったらどうかと想像すると、物足りなく、残念に思えるものがありました。インターバル間の応援、会場全体が盛り上がる瞬間、それらをより早く取り戻したいと心から感じた1日でした。
 
 また、今一番それを感じるのは選手だと思います。しかし、無観客や収容人数の半数以下の来場が普通となっており、選手たちもそれを当たり前のものとして受け入れ始めているのかもしれません。ただ、遠くない未来、またかつての日常が戻ってくるはずです。今後、たくさんの人が会場に足を運び、遠慮なく歓声を上げ、一喜一憂する環境が戻ってくる日に向けて日々頑張ってほしいです。そして、これからも選手たちの姿を見て、感じたことを発信するために、記者として学びを深めていきたいです。

撮影・執筆:山宮厳己( @genki_bsk
編集:青木美帆( @awokie


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