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#9 オリジナル小説 終
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ヨルガの転生を見届けた後、長老が自分に語りかけてきた。
「私がどうしてこんな化け物じみた形相をしてるか分かるかい?
年月が経ち過ぎて、人型を保てなくなったからだ」
「そう、なんですか」
暗がりの洞窟で白い大きな塊はうねうねと蠢めく。
「死人とはいえ時間は無関係では無いんだ。どんなものも生まれ変わらなければどんどん劣化して行く。もちろん私の継承者としてここ
#8 オリジナル小説
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「私を突き落として、ここから」
白い服がはためいている。
何を言ってるんだろう。目の前の人物と過去の記憶が交差して、まるで実感が湧かない。ガラスの壁がこちらを阻むように距離感があった。
この子は誰だろう、私は知らない、知らない、知らない……
「そう、誰も私の味方してくれないの。わかった、わかったよ。でもさアサヒ、私を連れ出すなら最後まで責任持ってよ」
「
#7 オリジナル小説
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私は人殺しだ。
悲痛な声が響いた。彼女は肩を震わせうなだれている。
もしも時を戻せるなら。しかしやり直しは二度と効かない。
「親友だったんだ」
地面に足を落としたままぽつりと言葉を漏らす。聞いたこともないほど弱々しかった。
「よく遊んでた、小学校までは平和だった。おかしくなったのは中学からだ。クラスが離れてしまってからしばらくして、彼女が不登校になったと
#6 オリジナル小説
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手を合わせたままヨルガは問う。
「それで君はどうするの?」
「長老の所に行くんでしょ?一緒に行くけど」
「その後よ。私が準備期間に入ればもう会うことは無くなるけど、自分の家に帰るの?」
サッと血の気が引くのを感じた。薄々感づいてはいたが、それしか方法がない。またあの日常に戻ることは死ぬ程嫌だが、中学生の身では何もできない。でも戻ってどうする?学校へは行けな
#5 オリジナル小説
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朝だ。
自分はゆっくりと起き上がり、しかし自宅でない景色が飛び込んで来て若干戸惑う。随分殺風景な、一面コンクリートで家具もなく自分の寝ていた敷布団しかない部屋。ヨルガの家だ。
見ていた悪夢に身震いし、いま何時だろうと時計を探すが、時計は見つからなかった。仕方なく一階に降り、リビングへ足を運ぶ。
「ヨル……」
声を掛けようとして口を噤む。古びたソファに横たわ
#4 オリジナル小説
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「忘れ物じゃなかったのかぁ」
ヨルガはぽつりと言う。ギクリとした。洞窟の湿っぽさが今でも残っている気がして、思わず後ろ髪を触る。
「……ごめん」
「どうして謝る?」
「……」
こういう時なんて言えば良いだろう。感情がグチャグチャして、自分が続けたいであろう言葉がよく分からなかった。ただなんとなく後ろめたい。
「まぁ良いわよ、私でも初対面でそんな重たい話
#3 オリジナル小説
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それはとても大きい洞窟だった。
湿度が高く、中に入ると昼間とは思えない重苦しい闇が続いている。風通しが良くないのか、土の濃厚な匂いがわっと押し寄せる。
灯りも何もない空間を、ヨルガは躊躇なく進んで行く。前を歩く彼女の緑の髪が若干発光していることが救いだった。ただでさえ何も見えないというのに、こんなところに本当に人がいるんだろうか。
「着いた」
ヨルガはおも
#2 オリジナル小説
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それに触れてはならない。
真実は禁忌、知らないほうがよかったと何度も嘆くことだろう。
それに触れてはならない。記憶を明け渡すことは破滅を意味する。
それでも触れますか?
Yes No
*
「つまり……」
自分はゴクリと喉を鳴らす。
「君は死者で、輪廻転成するために森を守っていて、死者が人間に見えるはずないから僕を仲間だと思った……」
「そう
#1 オリジナル小説
ヨルガは森に仕えている。
腰まである深緑に透けた髪を揺らし、石造りのちいさな鳥居のようなものの前で毎日三度、祈りを捧げている。
彼女によれば、森は神そのもので、自身はいわゆる神職なのだという。しかしヨルガは人間ではない。異色の髪が風変わりではあるが、どこからどうみても人間の出で立ちだ。身体が半分透けていることを除いては。
それもそのはず、彼女は元は人間だった。ただ、生前の死を迎えてから、輪廻